「良いものをつくれば、必ず届く」。スリランカと日本を結ぶカレーの物語

7月3日、池尻大橋のイベントスペース「BPM」。

フェアトレードと手仕事の魅力を届ける「第3世界ショップ」が開催した「夏フェス」は、じつに170名もの小売店パートナーや関係者が集い、会場は熱気に包まれて幕を閉じました。

『混ぜて、食べて、スリランカに出会う。』というテーマのもと、看板商品「カレーの壺」を囲み、生産者と販売元が共にホストとなって日頃の感謝を交わす。そこには、単なるお披露目会の場を超え、製品以上に厚い信頼と熱気が交錯し、まさにカレースパイスのような多層的な空間が広がっていました。

では、なぜこれほどまでに熱い場を作れたのか。

今回の企画を発案した第3世界ショップの勝田かおりさんに、商品に込める想いからイベントに託した狙いまで、その舞台裏を伺いました。

対面でこそ生まれる
「共感」と「熱量」

──第3世界ショップとして、久しぶりのイベント開催と伺いました。企画に至った背景には、どのような想いがあったのでしょうか?

 

じつは、入社する前に自然食品店で働いていて、お客として第3世界ショップの展示会に通っていたんです。マリオさんのカレーを食べた体験や、作り手の方と直接言葉を交わせたあの時のワクワク感や熱気が、何年経ってもずっと心の中に残っていました。

入社後、お客様からも「あの時の展示会、楽しかったよね」「あれが美味しかった」と声をかけていただくことが本当に多くて。10年近く経っても、皆さんの記憶にそれほど鮮明に残っていることが、私にとっては大きな驚きであり、リアルな体験が持つパワーを再認識しました。

これまでスリランカフェスティバルなどの大きなイベントにも出展してきましたが、そこは不特定多数の方に向けて広く販売する場であり、会場自体を包む熱気はあれど、長年お付き合いのあるお客様一人ひとりに私たちの想いや温度感を届けきれていないという歯がゆさがありました。

 

──熱気に満ちたイベントと聞けば大成功と思えますが、それに満足せず「既存顧客や関係者に想いを届ける」。商品に対する、そして製造に携わるスタッフへの深い愛を感じますね。


本当に魅力的なスタッフが揃っていて、私たちがイキイキと働いている姿こそが、第3世界ショップという会社の最大の魅力だと思っています。だからこそ、今回のイベントでは、私たちのことを深く知ってくださっているお客様をお招きして、じっくりと時間を共有したかったんです。

スタッフも海外のパートナーも、そして商品を愛してくださるお客様も、本当に素晴らしい人たちばかり。ですから、機会は少なくても“リアル”に集まってコミュニケーションを取れる場があれば、私たちの事業はもっと永く、より豊かに続いていくはずだと確信し、「自分たちで開催する」ことにこだわりました。

実際に生産者の顔が見えて、直接話を聞けて、人柄まで知ることができる。そうやって温度感が伝わると、商品に対する愛着や理解の深さも変わってくるんだと思います。

──直接触れ合い温度感を共有することで、単なる商品への理解を超えた、深い「共感」が生まれる。その共感は、参加された方々からはどのような声として返ってきたのでしょう?

会場の雰囲気やマリオさん(「カレーの壺」の生産者)たちの温かさ、そして私たちスタッフと直接話したことで、お客様が本当に深く共感してくださったと感じています。

卸先の小売店の方からも「第3世界ショップが売っているのは、単なる商品じゃない。笑顔を売っているんですね」という言葉をいただいて。商品やこのイベントに対して私たちが込めた想いを感じ取ってくださって、本当に嬉しく思いました。

他にも、「これは絶対売りますからね!」と力強いメッセージをたくさんいただきました。単なる商売としての付き合いではなく、「この商品の良さを多くの人に広めていきたい」という想いの共感だと受け取っています。

そうした熱い言葉をいただけることは、私たちにとって何よりの勇気になりますし、これからもこの事業をより良く続けていこうという大きな力になります。

混ぜて、食べて、スリランカに出会う。

──今回の夏フェスですが、大人気商品「カレーの壺」生産者であるマリオさんの実演ショーが大好評でした。

 

今回は実演に合わせて、私たちで「スリランカプレート(※)」も用意しました。新発売のレトルトカレーは、スパイスの効いた2種類のカレーに「マンゴーチャツネ」を添えたユニークな商品です。本場スリランカでは、カレーを2〜3種類盛り付け、チャツネや「サンボル」というココナッツのふりかけなどの副菜を添え、手で混ぜながら食べるのがスタイルなんです。


(※)スリランカプレート:複数のカレーや副菜を一つの皿に盛り付け、混ぜ合わせて味わうスリランカ伝統の食事スタイル。

 

──手で混ぜて食べる、というのは日本ではなかなか珍しい体験ですね。

 

そうなんです。前述のように今回のコンセプトは「混ぜて、食べて、スリランカに出会う。」です。レトルトカレーに副菜は入っていませんが、それらを別途用意することで、まるで現地の食卓にいるかのような体験を再現しました。「スリランカでカレーを食べたかのような体験」そのものが、お客様にとても喜んでいただけた理由だと思っています。

 

──お話に出てきた「チャツネ」とはどういったものなのでしょうか?

 

簡単に言えば、スパイスの効いた調味料のようなソース。私たちが販売しているのはマンゴーチャツネで、マンゴーの果肉にスパイスなどを加えて煮詰めています。現地ではデーツやナツメグを使ったり、私がインドで食べた時はココナッツのチャツネが出てきたりと、食卓には欠かせない存在です。

現地の料理は、いろいろな「小さなソース」を組み合わせて完成する、とてもクリエイティブなものなんですよ。

 

──実演を見ていて驚いたのが、調理の手順です。日本とは全く違いますね。

 

そうですね。多くのお客様も「作り方が逆だ!」と驚かれていました。日本のカレーはルウを水に溶かしてコトコト煮込むイメージですが、現地ではまずスパイスを油で炒め、香りを立たせてから水分を加えます。先に炒めることで、スパイスの香りが最大限に立ちますからね。

現地のカレーは長時間煮込むのではなく、サッと炒めて最後にココナッツミルクを加えて仕上げるのが特徴。そのライブ感も含めて、現地のリアルな食文化を体感していただけたことが、今回の満足度に繋がったのだと思います。

言語や文化の壁を越える
「良いものをつくろう」という志

──調理手順の違いという「食文化」への驚きもそうですが、日本と現地の「品質基準」に対する感覚の違いも大きな壁になりそうですね。

 

おっしゃる通りです。私たちは「カレーの壺」をすべてスリランカ現地で生産していますが、品質管理においては常に調整が必要です。

日本ではパッケージの微細な凹み一つでも不良品として扱われることがありますが、自然由来の素材を手作業で扱うことの多い現地では、それが“当然の風合い”として受け入れられることもあるからです。

味付けにしても、添加物を使わずに素材の良さを活かそうとすればするほど、均一な味や見た目に仕上げることは難しくなりますから。

それでも、日本のお客様の信頼を裏切るようなことはできません。そこで、数年前スリランカを訪れた際、厳格な日本の基準をまとめた資料を持参して、現地スタッフ一人ひとりに「なぜ細部が重要なのか」を丁寧に説明してまわりました。

 

──現地スタッフは、日本の価値観を受け入れてくれたのでしょうか?

 

それから数年、再び私が工場訪れた際、驚くべき光景を目にしました。

私たちが渡した資料を現地スタッフが翻訳し、工場の誰もが目に入る場所に大きなタペストリーとして掲示してくれていたんです。「これはOK、これはNG」という基準を、彼ら自身が行動指針として掲げてくれていた。それを見たとき、本当に胸が熱くなりました。

数ある貿易のひとつとして、ただ商品を買い付けるのではなく、お互いに「良いものをつくる」という志を共有する。こうした地道な対話こそが、産業を育てることに他ならないのだと、彼らの姿を見てあらためて確信しました。

 

──「カレーの壺」は、第3世界ショップの代名詞と言えるロングセラー商品ですが、誕生した背景について教えていただけますか?

 

じつはマリオさん、かつて日本で暮らしていた時期があるんです。「日本のカレールウ」に出会い、その利便性に衝撃を受けたそうですよ。

「スリランカではスパイスを一つひとつ手作業で調合してカレーをつくるのが当たり前。このスパイス調合をシステム化できれば、母親たちの時間を今ほど奪わなくて済むはずだ」と。

マリオさんが言うには、当時のスリランカでは、料理はすべて母親たちの担当だったそう。でも、もっと便利で美味しい選択肢があれば、彼女たちは自分の時間を他の活動に使うことができる。そんな「母親たちのためのギフト」として生まれたのが、このスパイスペーストなんです。

(マリオさん親子 右:マリオさん/ 左:息子シェランさん)

──開発にあたって、一番こだわった点は?

 

現地の味は非常にパンチが効いているので、2001年の発売当初は日本人の口に合うよう味の調整を重ねました。発売から約25年、少しずつ改良を加えていますが、「小麦粉やうまみ調味料を使わない」という点だけは一貫して守り続けています。

アミノ酸をはじめとする添加物も一切使っていませんから、「子供に安心して食べさせられるカレー」として、多くの親御さんに選んでいただいています。

「良いものをつくれば、必ず届く」
おすすめの3商品

「アートパッケージシリーズ」

──「カレーの壺」以外にも、勝田さんイチオシのおすすめ商品をご紹介ください。

 

そうですね。特に限定アートパッケージ「Artisanシリーズ」は注目してほしい商品ですね。福祉施設のアトリエ「嬉々!!CREATIVE」の方々とコラボレーションしたシリーズです。

もともと生協向けに流通していた商品を、より多くの場所に届けたいという想いがありました。ある展示会で、隣同士のブースだったことが縁で同社と出会いました。

「アートをいろんな場所に発信したい」という彼らの想いと、私たちの「パッケージを新しくしたい」という想いが重なり、プロジェクトが始まりました。

単に「かわいい」だけでなく、「嬉々!!CREATIVE」のアーティストの方々の圧倒的なエネルギーが宿ったアートを纏わせたことで、今ではライフスタイルショップやギフトショップなど、以前は並ぶことのなかった場所へも広がりました。商品そのものの魅力に加え、手に取るだけで元気がもらえるようなシリーズです。

「黒糖ココア」「ほうじ茶ラテ」

それから「黒糖ココア」と「ほうじ茶ラテ」もおすすめです。こちらは「本当に美味しいものを、手軽に楽しみたい」という、忙しい現代人の声に応えるために開発しました。

フェアトレードで仕入れたコスタリカ産の黒糖や中南米産のカカオ、そして自然栽培のほうじ茶など、妥協のない素材を使っています。市販のインスタント飲料には添加物を使用したものもありますが、非常にシンプルな素材だけを使い、素材の味を活かした美味しさに仕上げています。

忙しい朝でも、ちゃんとした素材の味を楽しんでいただきたい。そんな想いで製造しています。パッケージもアートの力を借りて魅力的に仕上げているので、ギフトとしても好評をいただいています。

 

──お話をうかがっていると、それぞれの商品にただモノを売るだけではない、深い対話と信頼が詰まっていることがよくわかります。

 

生産者、それを届けてくれる小売店の皆さん、そして手にとってくださるお客様。その全員が「良いものをつくろう、広げよう」と同じ志を共有できれば、食卓はもっと豊かになると信じています。

良いものを作れば、必ず届く──。

私たち第3世界ショップはこれからも国内外のパートナーと共に、「美味しい」「楽しい」ストーリーのある商品をお届けしてまいります。

【✒️ 編集後記 ✒️】

第3世界ショップ「夏フェス」。その本質を端的に伝えるならば、単なる商品発表会なんて言葉じゃ収まりようのない、「熱」そのもの。製品スペックや情報の共有ではなく、生産者から小売店、そして消費者へと受け渡される熱量のリレーだ。

商品とは、作り手の想いや誠実なストーリーを運ぶための「器」に過ぎないのかもしれない。顔の見える関係性の中で育まれた信頼こそが、同ブランドの真の価値なのではないだろうか。

良いものを作れば、必ず届く──

シンプルな信念のもとに結ばれたコミュニティが、これからの食卓をどう豊かにしていくのか。彼らが紡ぐストーリーの行方に、注目していきたい。