これぞプロの技!相手にイエスと言わせる「7つの説得術」
「ノー」から「イエス」に転じさせ、黒は白に、イヤなこともいいことに見せるーーすなわち説得とは「ごまかしの技術」であり、どんな熱弁も誠意も、論理も詭弁も、相手の首をタテに振らせるためのものである。それでは、「新たな視点を相手に提示させる方法を、プロの技から紹介していこう。
01.
「せっかく故障したんだから、
今しかできないことをやろう」
佐倉アスリートクラブを主宰する小出義雄氏は、周知のとおり女子マラソンの名伯楽として知られる。世界でただ1人、オリンピック女子マラソンにおいて「3大会連続メダル獲得」の指導実績を持つ。
その小出氏の言い換えに「せっかく」という言葉がある。例えば選手が故障したとき、指導者はたいてい渋い顔で似たようなことを言う。
「気持ちが弛んでるんじゃないか」「無事これ名馬と言ってな、ケガをしないのも練習のうちだ」
こうした指導者の気持ちはよくわかるが、小出監督はこう言い換えるのだ。
「せっかく故障したんだから、今しかできないことをやろう」「せっかく神様が休めと言ってくれているんだから、しっかり休もう」
言い換えによって新たな視点を提示し、(それもそうだな)と選手は気持ちを前向きに切り替える。人間心理に通じた小出監督の真骨頂である。
02.
具体策を付け加えれば
「大ボラ」を「夢」に
人は「夢」という言葉に心を動かされる。しかし、「ホラ吹きと思われるのではないか」と懸念して、なかなか口に出せない。だからどうしても現実的な話をしてしまうが、「現実的」は「夢」の対極にあるもので心は躍らず、説得もされないのだ。
ホラと夢の違いは、話に具体策があるかどうかだ。つまり、ホラに具体策を加えると夢になるのだ。
「売上を10倍に伸ばすのは簡単ですよ」と言えば(このホラ吹きが)と鼻で笑われるだけだが、「私の人脈を総動員すれば、売上を10倍に伸ばすのは簡単です」と大風呂敷に「私の人脈」という具体策をくっつけて言い換えれば、(この人間ならひょっとして)という思いを抱く。少なくとも、「売上を伸ばす自信はありません」としょぼい顔して言う人間よりも評価されることは確かなのだ。
03.
「大筋」で
win-winの関係へ
知人が音頭をとって、空手道関係の親睦会を立ち上げようとしたときのこと。役員人事でもめ、困った知人は斯界の長老を訪ねた。知人が「対立」という言葉を使ったところ「『隔たり』と言え」とたしなめられた。また、「それぞれの意見をひとまとめにして『大筋』という言葉に言い換えれば反対する者はいないはずだ」と策を授けたという。
「え~以上、種々のご意見を賜りましたが、細かいことはともかくとしまして、親睦会をつくるという大筋において、ご賛同いただけたかと思いますが、いかがでしょうか」
会合では賛同の拍手が起こったそうだ。さすが、長老の老獪(ろうかい)さである。
「大筋」を太いロープにたとえてみればわかるが、1本1本の細い繊維が束になってロープになるのであって、ロープが先にあって細い繊維があるわけではない。「ロープをつくる」と決まれば、個々の細い繊維は撚り合わざるを得なくなるのだ。
04.
「お願い」よりも
「同情」を誘う
「受験させてください、お願いします」といった訴えは一方的なお願いであり、「私」から「あなた」に対する一方通行だ。ところが、「私の立場ならどうしますか」と問いかけると、「どうするかな」という思いがチラリとでも相手の脳裏をよぎる。すると途端に「私」と「あなた」は双方向となる。相手の立場を思いやれば同情心が芽生え、「じゃ、力を貸してやるか」という気持ちにもなるのだ。
俳優の杉良太郎は必ず口にするセリフがある。「歌手出身で基礎もない、名優の息子でもない、どこで湧いたかわからないボウフラ役者がこの世界で生きていこうとすれば、身分が違うと、周囲からイジメのようなものにも遭いました」
卑屈になって相手の憐憫を誘うのも「同情」なら、言い換えという「攻め」によって、相手の心に深く食い込んでいくのも「同情」なのである。
05.
大義名分を与えて
納得させる
人間は常に自分に対する言い訳で精神的なバランスを取っている。したがって、これを説得という視点から見れば、自分に言い訳する材料を相手に与え、それを大義名分にしてやれば、相手にとってネガティブなことであっても説得しやすくなるということだ。その好例が豊臣秀吉の「刀狩り」である。下々から武器を取り上げるに際して、秀吉はこんな巧妙な言い換えを用いている。
「没収した武器は今つくっている方広寺の大仏建立の釘や鎹(かすがい)にするから、百姓は来世まで救われるぞ。さらに百姓は耕作にだけ励めば、子孫代々無事に暮らせる。百姓を愛するから武器を取り上げるのだ」
「ウソつけ」と百姓たちは最初は不満ブーブーであったが、「大仏建立」「来世の救済」「子々孫々の安泰」という大義名分には逆らえず、やがてそれを自分に言い聞かせることで刀狩りに協力していく。秀吉は見事な言い換えで支配を確実なものにしていったのである。
06.
「始末に困るが、
そういう男でなければ
仕事では使えない」
ヨイショというやつはサジ加減が難しく、過ぎても足りなくても反発を生じる危険があるのだ。そこで、言い方を変えてみる。西郷隆盛は人望家として名高いが、これは彼の人格だけでなく、人心収攬術に長けていることを見逃してはならない。例えば隆盛が山岡鉄舟を評した次のセリフなど、さすが西郷というほかない。
「命もいらぬ、名もいらぬ男は始末に困るものだが、始末に困る男でなければ天下の大事は謀れない」
「始末に困る男」という否定的一語が強烈であるため、お世辞とは受け取らず、(そこまで私を評価してくれるのか)とうれしさを通り越して心酔したことだろう。
ハネッ返りの部下や後輩に手を焼く上司は、西郷式の言い換えを用いればよい。
「キミは私の言うことも聞かないし、何事においても独断専行だ。そういう部下はハッキリ言って始末に困るが、そういう男でなければ仕事では使えない」
ハネッ返りは感激し、以後あなたにだけ恭順の意を表することだろう。
07.
ヒロイズムを衝いて
相手を動かす
英雄的行為や、それを賛美する心情をヒロイズムと呼ぶが、脇役に徹することもまた、ヒロイズムである。したがって、言い換えによってこの心理をうまく刺激すれば、イヤな役目や仕事であっても、相手はヒロイズムに酔うことになる。
自衛隊はかつて「税金ドロボー」と罵られるなど、受難の時代があった。そこで、ときの総理大臣であった吉田茂は自衛隊員たちに向かって、どんな言葉で語りかけたか。
「君たちは自衛隊在職中、国民から感謝されたり、歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣のときとか、国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。言葉を換えれば、君たちが日陰者扱いされているときのほうが、国民は幸せなのだ。どうか、耐えてもらいたい」
持ち上げてヒーローにし、忍の一字を説いてヒーローにする。エリートたちのヒロイズムを見事に衝いている。
『説得は「言い換え」が9割』
コンテンツ提供元:光文社
1950年生まれ。数多くの大物ヤクザを取材した週刊誌記者を経て、現在は浄土真宗本願寺派の僧侶。『会話は最初のひと言が9割』(光文社新書)、『ヤクザ式ビジネスの「かけひき」で絶対に負けない技術』(光文社知恵の森文庫)、『ヤクザの実戦心理術』『ホストの実戦心理術』(KKベストセラーズ)など記者時代の経験を活かした著書を多数もつ作家としても活動している。