謎のカザフスタン人を助けたら、自分の意外なところに気付かされた。(後編)

前回の記事はコチラから。

理不尽な体験から
気付いたこと

無事に日本に着いたカザフスタン人のAigulさん。「じゃあ仕切り直して、日比谷でランチでもしましょうか」という話になり、お昼に会う約束をしていた。

「13時にペニンシュラホテルの前で会いましょう」

「OK」

が、しかし。

待ち合わせの時間から10分過ぎても、やってくる気配がない。彼女の携帯はWi-Fiのある場所でしかネットに接続できず、電話も繋がらなかった。

普段は寛容なぼくも、珍しくイライラしてしまった。お昼休みは1時間しか取れないから、そのなかで何を話そうかとか、どこへ連れて行こうかとか、喜ばせるために色々と準備をしていたから、それが台無しになってしまった悲しさもあった。

せめて、「遅れる」という連絡だけでもくれればいいのに。そう嘆きながら、ぼくは30分以上そこで待っていた。

そのとき、「まったく、カザフスタン人はひどいもんだ」と無意識に感じている自分に気付いた。「彼女はひどい」でなく、「カザフスタン人はひどい」と感じていたのだ。生まれて初めて知り合ったカザフスタン人の行動や言動に、「一般にカザフスタン人とはこういうもの」と判断してしまっている自分。もちろん、すべてのカザフスタン人がそういうわけではないはずなのに。

ということは裏を返せば、ぼくの行動や言動もまた、彼女にとっての「日本人ってこういう人」という印象に繋がるのだろう。ぼくがどういう対応をするかによって、日本の印象は良くもなるし、悪くもなる。

(だったら、究極に良くしてやろう)

こんな理不尽さにも、最高のおもてなしで返そうと心に決めた。

平和への道

Aigulからは、夜になってようやく連絡があった。

「ずっと連絡ができず、本当にごめんなさい。通りすがりの人にお願いしてでも、遅れることを連絡すべきだったわ」

と謝ってくれた。 

「I was so sad.」

と軽くグチりながらも、すでにぼくの怒りは冷めていた。

「じゃあ明日のお昼、もう一度同じ場所で会おう」

「わかった、今度は必ず行くわ」

そして翌日、ついにAigulと会うことができた。彼女と一緒に日本に来たふたりの友人もいた。エルサルバドル人とパレスチナ人と聞き、「おぉ、おもしろい!」と思った。全員初めて会う国の人間、それも滅多に会えない国の人間だ。

ぼくは行きつけのお店に連れて行き、そうめんと天ぷらを食べさせた。英語でうまく説明できる自信がなかったから、どんな料理なのか、英語で紹介された記事を用意して説明した。

そして、「昨日の約束を破った罰として、これを付けていなさい!」と「必勝ハチマキ」と「I LOVE JAPANハット」をプレゼントした。喜んでくれた。「ごちそうさまでした」という日本語も教えた。

「エルサルバドルに来たら案内するよ」「パレスチナにも来なよ」そんな嬉しい言葉をもらって、楽しい時間はあっという間に過ぎた。彼らは翌日から京都へ行くそうだ。「Have a nice trip!」と握手をして別れた。

思い返せば、見知らぬカザフスタン人からもらった突然のメッセージがきっかけだった。無視していれば、こんなことは起きなかった。もちろん、自分のしたことにはリスクもあったし、決して正しいことだとは思っていない。何でもかんでも「いいですよ」と言っていたら、悪い人に騙される可能性もあるだろう。

それでも、信じることを諦めたくなかった。平和への道は、こうした小さな交流の延長線上にあると思っている。日本を訪れる外国人にとって、交流した人の印象が、そのまま日本の印象に繋がる。だからこそ、困っている外国人を見かけたら、声をかけてあげてほしい。言葉ができなくても、心で通じ合える。きっとお互いにとって、素敵な体験になるはずだ。

Licensed material used with permission by 中村洋太, (Facebook), (Twitter), (Instagram)
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