観光地はもはや旅行の目的地ではない?旅行トレンドが語る、観光地に求められるもの

そこに立つとまるでいにしえの世界にいるよう。そんな体験を求めて、世界各地から「遺跡」へ訪れる観光客が跡を絶ちません。彼らを虜にする遺跡にはどのような魅力が詰まっていて、何が彼らを惹きつけて止まないのでしょうか。

旅行業界のビジネスリソース「TTG Asia」が注目したのはタイの世界遺産「アユタヤ」。多くの観光客を魅了するこの古代都市の魅力と、彼の地に立ち込める“暗雲”を探っていきます。

厳荘な寺院群「アユタヤ遺跡」

タイで最初に「ユネスコ世界遺産」リストに登録されたこの古代都市の遺跡の歴史は、1767年に遡ります。当時の首都であったアユタヤが陥落した際、後の王となるラーマ1世が、都市計画をチャオプラヤー川沿いのラッターナコーシン(バンコク)に移したことが始まりでした。旧市街地としての趣をもつアユタヤは、遷都前のタイという国を彷彿とさせる景色を私たちに見せてくれます。

アユタヤが人々を惹きつけるワケ

いま、人々がアユタヤに惹きつけられる鍵は、現代との繋がりから見出すことができます。タイでは、アユタヤがドラマのバックシーンとして使われるなど、人々の生活の中でこの都市が大きな存在感を放っていることは特筆すべきでしょう。特に、ソープオペラ『Buppaesanniwat(愛の運命)』はアユタヤへの関心を呼び起こすきっかけとなったと「TTG Asia」は分析します。

韓国のアイドルグループ「BLACK PINK」のLiSAもまた、アユタヤの魅力を伝える重要な役割を担っています。彼女は2023年の夏、家族とともにアユタヤを訪れ、タイの伝統衣装に身を包んで寺院を訪れた様子を全世界にアップロード。その結果、彼女のファンの間で国際的にアユタヤが大きな話題となり、新しい世代の旅行者を生むこととなったのです。

進化するアユタヤ観光

人が集まれば、商売が成り立つ。いま、アユタヤ周辺にはカフェをはじめ飲食店や物販店が次々と開かれ、同都市は立派な現代観光スポットとしての様相を呈することとなりました。タイの伝統的な衣装や、タイ寺院をテーマにしたアイスキャンディーを提供するお店もあるんだそう。

また、アユタヤの伝統食は既に美食家たちに大きな印象を残しています。なかでも「Suriyan Chandra」は、特に有名なレストランのひとつ。130年の歴史を持つ米製粉所内という独特の立地のほか、修復されたチーク材の米運搬船での食事クルーズでは、この街の河川交易の時代を追体験することができます。

どうやらアユタヤでの観光体験は、当時の時代を彷彿とさせるようなものが多いようですね。

アユタヤが呼び込む企業間競争

「TTG Asia」によると、新たなホテル「Centara Ayutthaya」が建てられたことが、世界の人々の間に大きなインパクトをもたらしたようです。現在、市内でもっとも高く、最大のホテルには、市内初のルーフトップバーを常設。360度のパノラマで歴史的な街並みと、見渡す限り広がる周囲の水田を一望できるという、これまでにない眺望を提供しています。

「現代性と伝統が融合させ、タイルやカーペットにアユタヤン・カラーのモチーフを取り入れた。また、部屋の窓もタイ式の木製窓を採用している」とはホテル総支配人Chen Thipvarodom氏の弁。加えてこのホテル、重要なのはデザインだけではありません。彼は「アユタヤの豊かな食文化を、自社のフード&ドリンクメニューで紹介することにも力を入れてきた」とも。

また、「Exo Travel」のタイ・ゼネラルマネージャーKim Martin Rasmussen氏は、鉄道をテーマにした旅行やサイクリングアクティビティをアユタヤの魅力として紹介し、低炭素かつ持続可能なアピールポイントを強調します。

バンコク北部の観光地へと向かう道中の滞在地としても好まれるアユタヤ。長距離旅行者にとっても、バンコクを中心にアユタヤへと足を延ばす近距離旅行者にとっても、双方に多くの需要をもたらしてくれる観光地であることがわかります。

遺跡を自転車で巡りカフェでゆったりとくつろぐ。アユタヤでの滞在は、短期になりがちであるという特徴を最大限に活用したビジネスが成功する傾向にあるのかもしれません。

アユタヤが抱える課題
観光都市、変化の時。

非常に魅力的に見える観光地ですが、課題はその特徴の“裏”にありました。長期滞在の観光客も増やしたいところ、アユタヤが短期滞在に最適な都市であるという観光客からの見方はやはり、大きな壁となっているようです。

旅行トレンド研究者Gary Bowermann氏の見解を紹介しましょう。「高収入の旅行者向けに、アユタヤ旅行を際立たせるユニークな付加価値のある体験を創出することに加え(特に、バスが発車した後の夜間や到着前の早朝)、アユタヤを目的地としてマーケティングするという課題があります」。長期滞在を促すには宿泊施設のさらなる充実が欠かせないという意見も。アユタヤに立ちはだかる大きな課題は、この古都の市場価値をいかに高めていくかというところにあるようです。

歴史と現代文化が融合し進化し続けるアユタヤ。これからの観光都市のあり方を考えるうえでも、興味深い事例と言えるのではないでしょうか。

 

現代ツーリズムの
新しい“当たり前”

国としての大きな収入源にもなる観光業。しかし観光地としての遺跡はもはや旅の目的ではなくなってきていることがわかります。重要なのは、その観光地の周縁に与えられた付加価値

ある遺跡の観光地としての存続は遺跡そのものの魅力だけではなく、この周縁に付加価値を与えられるかどうかにかかっている、という傾向を見て取ることができます。そのいっぽうで、遺跡が今と昔を繋いでくれる意義ある場所である所以やその遺跡自身の価値を、今こそ私たち自らが発掘していくべきであることを示唆していると考えてみることもできそうです。

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