最近の観光地、あまりにも旅行客が多くないですか?
旅、してますか?
新型コロナウイルスによるパンデミックの制約が大きく解除され、“旅行”という文化が復活しつつある今、じつは背景で人々を悩ませる問題が起きていることをご存知だろうか。
「オーバーツーリズム」
この言葉、一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。
オーバーツーリズムの現状や世界各地での取り組みを紹介した記事が今月、米『ナショナル・ジオグラフィック』に掲載された。
オーバーツーリズムって、なに?
オーバーツーリズムとは、どんな現象を指すのだろうか。
記事によれば、特定の観光地、観光都市に多くの観光客が殺到し、地域住民や現地の自然環境に対して著しい悪影響を与えている状況を指しているという。
フランスが開始した、人工衛星を用いた「Murmuration」というシステムによると、全世界のほとんどの旅行客はわずか世界の10%の観光地に集約されていることがわかったようだ。
具体例として、オーストリアの湖畔地域に位置する「ハルシュタット」と、美しい珊瑚礁で知られる「グレート・バリア・リーフ」や「マヤ・ベイ」が取り上げられている。
ハルシュタットは人口約800人の非常に小さな町であるが、なんでも一日あたり約1万人もの観光客が訪れるという。そして日中、街は観光客で溢れかえるという状況にある。
まさにオーバーツーリズムな状況に、現地在住の住民が街へと続くトンネルを封鎖し、“子供たちのことを考えて”という立て看板を設置するなどのかなり過激な抗議運動が起きているようだ。
グレート・バリア・リーフ、マヤ・ベイでは、現地住民の苦悩はもちろんのこと、環境破壊の影響も深刻なようだ。共に世界有数のダイビングスポット、ビーチとして知られているが、観光客の不法投棄や多くのクルーズ船の乗り入れなどの影響を受け、美しい海が破壊されているという。
特に、マヤ・ベイはかのレオナルド・ディカプリオ主演の『The Beach』で舞台となって以降、世界中から観光客が殺到。2018年には、タイ政府によってビーチの一時封鎖が決定されたほどで、問題は深刻だ。
このような問題は日本も決して部外者ではない。というより、むしろ世界有数の当事者でもある。京都や富士山、沖縄は世界でも特にオーバーツーリズムが問題となっている観光地。
先日、筆者が富士山麓の小さな観光地である忍野八海を訪れた際も、明らかな外国人観光客の多さに圧倒された。
いったい、どんな対策が取られている?
深刻化するオーバーツーリズムに、現地の住民、自治体も黙ってばかりはいられない。いったい、世界各国の観光地はどのような対策を打ち出しているのだろうか。
ヴェネツィアやマルセイユ、スコットランドのオークニーといった港湾都市では、地元住民の強い要望などを受け、立ち入るクルーズ船の数を制限、もしくは立ち入り自体を禁止するという対策を取っているという。
また、ヴェネツィアが話題になったばかりだが、そもそもの観光都市への立ち入り自体に入場料を課すことや、宿泊税の徴収を行うことによって観光客の減少を試みるとともに、そこから得た収入を景観や住民の生活の保全に使用するという対策も多く取られている。
『ローマの休日』にて主演のオードリー・ヘップバーンがジェラートを食べたことで話題となったスペイン広場においても、座り込みの禁止や罰金制度が導入されるなどの対策を取っているようだ。
果たして……観光業の未来は?
コロナによるパンデミックが明け、観光業の水準はパンデミック以前の数値までほぼ回復したとされている。また、観光業は世界経済のうちの約12%を占めているなど、非常に重要な立ち位置にある。
これからの観光業では、現地住民や景観への配慮はもちろん、観光客自身も楽しめる旅行を追求していかなくてはならない。折角、高いお金を払って旅行に出かけたのに、人が多すぎてまともに観光ができず……というほど悲しいことはない。
世界中の誰もが知る観光地ではなく、雑誌やSNSでは見られないような本物の現地の生活を感じられるような土地に出向く。現地の人との交流を通して自分の知らなかったことに気がつく。
そんな旅が、私たちの世界を広げてくれるのかもしれない。