【コラム】卵子提供のリアル
近年では、働く女性が増える一方で晩産化が進んでいる。「いくつになっても妊娠できる」と感じて子づくりを先延ばしにし、いざ試みると妊娠が難しいといった壁にぶつかる女性の声もちらほら。
そこで気になったのが、卵子提供について書かれた「Elite Daily」のライター、Samantha McIsaacさんの記事。彼女は妊娠にいたらない人たちに、卵子を提供した経験がある。そもそものキッカケや卵子提供を経験して感じたことなど、赤裸々な気持ちがつづられている。
2016年の春。「とあるカップルが興味を持っている」という内容のメールが届きました。私に興味あるというよりは、「卵子」に興味があると言ったほうが正確かもしれないけれど。
私はワクワクしつつ、緊張で胸がいっぱいになりました。
まずは、私が卵子を提供するきっかけとなった、卵子提供者と代理で親になる人をつなぐ機関でインターンをしていた時の話から。
はじめての卵子提供
ボストンにある機関「Circle Surrogacy」でインターンを始めたのは、2年前のこと。そこで私は、独身やカップルの人たちが、家庭を築いていくために世界中から相談しにくる姿を、初めて目にすることになりました。
訪れる家族や子どもたちを見ているだけでも、非常に感慨深い経験をさせてもらったと思っています。この経験をとおして、個人的にも職業的にも、卵子提供に関して独自の視点を持てるようになったと感じるのです。
私が卵子提供者になった一番の理由は、こういった家族の助けになりたいと思ったから。職場には、これまで4回ほど卵子を提供してきた経験をもつ弁護士もいて、彼女と話すうちに私も「やってみよう」と思いました。
ここで、2016年春に話を戻します。
私を選んだのは、同性カップルでした。渡された彼女たちの情報は、個人が特定できない程度のもので、卵子提供者である私の情報は匿名で彼女たちに渡されました。こうして私たちは、ボストンにもある体外受精専門のクリニック「Brigham and Women's Hospital」でプロセスを進めていったのです。
まずはじめに行われたのはスクリーニング。そして、心理鑑定や性病や感染病、遺伝子検査などのために血液と尿のサンプルを採取すること。
スクリーニングから2週間がたち、問題がなかったことを知らされ、卵子の提供をうける側と法的な契約を結び、その後クリニックから薬などをもらいました。正直、その数を見て驚いてしまいました。クリニックの看護師たちは、私をなだめてくれたけれど。
でも本音で言うと、気になったのは副作用。ホルモンを体に注入するのも少し怖かったですし。一番気になったのはむくみでした。私はとにかく心を落ち着かせようと、呼吸法をとりいれて毎日瞑想をしました。
幸いなことに、親や友だちや彼氏、皆が私の決断をサポートしてくれました。「家族を助けたい」という気持ちを理解してくれて、母は卵子を採取する時にも付き添ってくれました。
卵子の採取は、プロセスを進めていくなかで最も早く終わったことでした。20分間ほど軽い麻酔をかけられて終わりでした。目を覚ましたら毛布にくるまれていて、お腹まわりをあたためてもらっていました。食欲は、すぐにピザを食べたいと思えるほどありました。
その後、提供をうけたカップルから感謝の手紙をうけとったのです。それを読んだ時、自分は正しい選択をしたのだと再認識できました。私はそれを宝物として大事に持っています。
2度目の体験
時は経ち、2組目のカップルからリクエストが送られてきました。今度は6歳の子どもを持つ異性愛者のカップルでした。理由は、2人目の子どもが欲しいけれどなかなかできなかったことだそう。
特に特別な信仰をもっていたわけではありませんが、一応ユダヤ教徒だったということで、ユダヤ教の指導者に認めてもらうよう求められました。ユダヤ教徒とみなされることの1つには、母親がユダヤ人ということもあり、ユダヤ教徒で卵子の提供をうける人は、同じくユダヤ教徒を必要としていたのです。
とはいえ一連のプロセスは1回目の時とおなじ。私はふたたび薬を飲み始めました。副作用もおなじでした。むくみや痙攣。でも有難いことに、卵子の採取はまたうまくいきました。
その後、感謝の手紙をもらいました。私も2人にはとても感謝しています。あれから何度か手紙でやりとりもしているのです。
幸せを与えられる喜び
最後に、卵子を提供してから2カ月が経とうとしています。今、私はロースクールに通いはじめて1年目です。終日学校に通いつつ、アルバイトをしながらお小遣いを稼いでいます。
もちろん、卵子を提供することで寄付をもらい、それが生活の足しになっていることは事実です。博士号まで取りながら、経済面で安定しているのは間違いなく大きな安心につながります。
でも、卵子の提供をするうえで最も重要だったのは寄付がもらえることではなく、誰かの人生をいい意味で変えられたこと。幸い私が卵子を提供した人たちには、健康な赤ちゃんを産むことができてとても嬉しかったです。
この経験は、ポジティブ以外の何ものでもないと思っています。それに、卵子を提供した親たちから手紙をもらうと、このうえない幸せを感じるのです。
また機会があれば提供しようと思います。今後は匿名でなく、実際に会える人に。