プロゲーミングチーム「SCARZ」が本気で目指す「将来の夢はプロゲーマー」
「将来の夢はプロゲーマー」な世界線
自分の子どもが「プロゲーマーになりたい」と言い出したら、あなたは素直に応援できるだろうか?
正直、サッカーや野球なら背中を押せたかもしれないが、eスポーツはまだまだ厳しい。そう感じる人が大半であっても不思議ではない。それもそのはず、直近数年で急激な盛り上がりを見せるeスポーツの歴史は未だに浅く、ゲームで“食べていけている人”もごく少数だ。
それでも、国内eスポーツ産業の黎明期を知るプロゲーミングチーム「SCARZ」代表・友利洋一氏は、「将来の夢:プロゲーマー」を目指せる環境をこの日本で実現させようと意気込む。
国内eスポーツ産業を陰から応援している筆者が、SCARZを根幹から支える経営陣に問う、「日本のeスポーツの現在地」とは……。
「SCARZ」
日本にeスポーツが浸透していなかった頃から現在に至るまで、常にトップランナーとして最前線で活動を続け、FPSゲームをはじめ複数の人気ゲームタイトルの競技部門をもつ。また、元プロ選手やeスポーツキャスターといった幅広いジャンルのメンバーが所属するストリーマー・コンテンツクリエーター部門も存在する。
日本はeスポーツ後進国なのか?
ハードでもソフトでも、世界にさまざまな“ゲーム”を送り届けてきた日本だが、反面eスポーツの火がともるのは、少しばかり時間がかかったと言われている。
理由はいくつか考えられる。PCでゲームをする文化がコンソールの強さから根付きにくかったこと。また、賞金額に法的課題が存在したこと。さらには、お隣韓国と比較すると国家施策的な取り組みも少なかったことなどが挙げられる。それでも、遅ればせながらここ数年、ともしびはいよいよ火炎へと拡大しはじめた。
友利:日本のeスポーツは2018年頃から急激に加速しました。当時、日本チームが『レインボーシックス シージ』というゲームタイトルで好成績を残すなど、世界でプレゼンスを高めるなか、地上波番組をはじめとしたメディア露出の増加とともに、じわりじわりとカルチャーが根づき始めたんです。正直、なにか明確な火種が爆発したという感覚はなく、それまでeスポーツのことが本当に好きな人だけで支えられていたものが、あらゆる媒体を通して広がっていった気がします。
2023年、「eスポーツ元年」再び?
じつは、日本には幾度となく「eスポーツ元年」と呼ばれた年があった。しかし、2023年は人気タイトルである『VALORANT』の世界大会開催をはじめ、頻繁にオフラインイベントが開催され、これまでとは一味違う熱狂があった。SCARZのVALORANT部門も国内大会を制し、トップリーグ目前のところまで世界で勝ち進んだが、友利氏は2023年をどう捉えたのだろう。
友利:コロナ禍を経て、大型イベントからパブリックビューイングまで人が集まる機会が増えましたね。それに伴って“推し活”文化が根付いていることを強く実感しました。それから、会場に来ているファンの方がみんなオシャレで驚きました。
※2023年「VCT Masters Tokyo」に関しては上記の記事で詳しく
SCARZがこだわる“ホームタウン・川崎”
ゲーム、eスポーツ界隈といえば、YouTubeやTwitchをはじめとした配信プラットフォームが主戦場であり、一般的なスポーツのように本拠地を必要としないことがむしろ強みとさえ思える。ところが、「SCARZ」はホームタウンの存在にこだわる。
友利:日本でeスポーツが盛り上がりはじめた頃、経済産業省の働きかけもあり、行政もeスポーツに対する取り組みをはじめました。SCARZがeスポーツを通して目指す「eスポーツ選手を子どもの将来の夢に」を体現すべく、町の電器屋さんみたいな地域の相談役になりたいと思い、行政とコミュニケーションをとるなかでeスポーツへの強い興味を示してくれた川崎市から、カルチャーの発信地を築こうと思いました。
川崎は地元愛の強い市民が多く、地元のスポーツチームである、Jリーグ「川崎フロンターレ」やBリーグ「川崎ブレイブサンダース」などのファンダムが強く影響している。それに加えて、行政を含めた若者文化への理解の強さもeスポーツとの相性を強めていると思います。
産業が直面する「障壁」とは
若者を代表する文化の一つとして浸透してきたeスポーツが、今後更なる進化を遂げるにはどのような課題を克服する必要があるのか。友利氏とともにSCARZの舵取りを担う、代表取締役副社長の柏木敏弘氏、執行役員でファンコミュニケーション部長の金濱壮史がチーム経営や産業全体について語った。
まだまだスポーツとして整地されているわけではない
かつてJリーグが、最近ではBリーグが誕生したように、eスポーツもそのあとを続くことができるのか。継続的な盛り上がりに必要なこととは何だろう。
柏木:プロスポーツとしてリーグが確立していないため、既存のスポーツビジネスにそのまま重ねることはできません。未整地な業界全体だからこそ、特定のチームに収益が偏りすぎると全体としての成長も難しい。まずは業界全体のまとまりが必要だと思います。チームとしては獲得賞金も低いため、スポンサー収入がメイン。まだまだ、一般消費財にスポンサーが広がりきっていない部分は解消していきたいですね。
eスポーツファンとしてどうしても気になるのは、頻繁に発生する「選手の移籍」について。同じ選手、同じチームを長く応援したいという想いをもつ人は多いはずだが、現状それを実現するのはなかなか難しそうだ。以前と比べれば規則が整備され、引き抜き罰則があるリーグも存在はする。それでも、引き抜きは行おうと思えばできてしまう。
こうした現状に対し、各ゲーム開発元や大会運営サイドのルール決定に依存する分、チームとしての対応は困難だと彼らは口にする。
選手自身がビジネスライクな考え方に寄ってしまえば、個人がチームを利用する形になってしまう。たとえばサッカーはスタメン選手が11人いるのに対して、『VALORANT』は5人。選手の入れ替わりはチームに大きすぎる変化をもたらすことになる。ファン心理からすれば、複数年の大型契約などの施策も考えてもらえるとありがたい。
eスポーツの“主役”とは
eスポーツチームの主役は誰かと問われれば、プロ選手と答えるかもしれない。けれど、現状は「ストリーマー」と呼ばれる配信プラットフォームでゲーム配信を行っているタレントが、同時接続数など数字をもっているのも事実だ。配信のゴールデンタイムに選手は配信できないため、ストリーマーに頼る必要があり、人気ストリーマーの数字を活かして競技シーンを盛り上げていくことが求められている。
言うまでもなく、ストリーマーが人気になることがいけないわけではない。むしろ、彼らのゲーム界隈全体の引き上げへの貢献度は計り知れないものがある。最近では、チームブランディングのプロモーションや競技部門の試合を応援する配信などを主に行う「アンバサダー」などの存在も重要になってきているという。
あらゆる活動者、裏方を含め、全員が主役であるのはもちろんだが、SCARZはチームとして競技者がもっとも憧れの存在であるべき、という志を掲げた経営を目指している。
eスポーツチームは多様なリソースで生き残りを図る
現状、スポンサー収入が収益の多くを占めるeスポーツチームが、安定して競技部門を維持し続けるためには、独自のリソースで社会に価値を見出す必要がある。
友利:eスポーツドリームを生み出すためには、競技シーンは赤字前提で他の提供価値を磨く必要があります。それが、アパレルなのか、ガジェットなのか、アナリストツールなのか。
金濱:10代がここまで熱狂できるカルチャーはなかなか存在せず、その一角にeスポーツがなりつつあるのは事実です。ただ、内輪で濃い熱狂を生み出している状態は、ニッチでより深いところに向かいがち。これからは、内側から外側を巻き込む施策を組んでいかなくてはいけないと思います。
半分近くがスポンサー収入で賄われている市場であることを踏まえると、40代以上に刺さるような取り組みはまだ浅いという。ただ、忘れてはいけないのが、日本はeスポーツ後進国と呼ばれててきたものの、「ゲーム大国」としての歴史は古いという事実だ。企業の意思決定層は、若い頃から身の回りにゲームがありふれていた世代が多く、実際に社内交流イベントなどで格闘ゲームをはじめとしたさまざまなゲームが活用されているケースもある。
また、eスポーツは特性上、自分たちの普段の活動を配信として観せることから、メディアとしての機能を社内で持っていることが多い。主に、配信プラットフォームを通じたコンテンツ開発が進むプロゲーミングチームは、組織内にメディア、コンテンツ制作、広告代理業務などあらゆる機能を持つほか、ファンミーティングなどのイベントを通したZ世代に刺さる企画開発に関する知見も潤沢。eスポーツチームらしい切り口で協賛するスポンサーに対し、独自のマーケティング戦略の提供をはじめとした付加価値を創出することも生き残りには大切だろう。
友利氏が描く、eスポーツの未来
あらためて、友利氏に国内eスポーツの理想像とは、そしてこれからの野望について質問を投げかけた。
友利:国でいうと中国。eスポーツタウンとかがあって、各チームが施設をもっていて……。やっぱり、サッカー、バスケ、野球と同じようにリアルの接点をつくっていかなくてはいけない。そして、小さい子どもたちが将来プロゲーマーになるんだって言って、プロゲーマーという立ち位置に「夢」があること。すごい稼げるとか、メジャーにいけるとかですよね。夢を作り上げることが文化を作り上げることであり、一つ目標なのかなと思っています。
現在、中国ではeスポーツ専用の施設が各都市に備わりはじめ、各都市でトーナメント大会が実施されており、一つの理想が誕生しつつある。いっぽうの島国である日本は、移動距離が短いぶん、各チームが本拠地をベースにホーム&アウェイ戦のようなリーグ戦を目指すことも視野にはある。
昨年、J.フロントリテイリングの子会社となったことで経営的視点の多様化やオフライン企画のエンハンスという面で追い風となっており、ファンとのリアルな接点を強めるべく、有観客のイベントに対して積極的に取り組む見込みだという。
続けて友利氏はチームSCARZを総称するキーワードを「安心感」として語った。SCARZのファン、チームメンバー、そしてスタッフも含めて、彼らを安心して応援できる存在で有り続けることだと──。きっと、その延長線状に将来の夢=プロゲーマーを掲げる子どもたちの未来があるに違いない。
いつか、子どもがプロゲーマーになりたいと言っても、安心して相談できる人たちは、確かにSCARZにいた。