「これで安らかに眠れる」85歳男性、訃報記事で人生最期のカミングアウト
6月8日の『Albany Times Union』に掲載された享年85歳、Edward Thomas Ryanの訃報記事は、ごく普通の出だしではじまった。年齢、学歴、葬儀の日程……。それがいきなり、こう切り替わった。
「Edwardは次のことを伝えたかったそうです」
85年越しのカミングアウト
普段とは異なる語り口で記事が伝えたのは、Edwardが生涯にわたって隠し通してきた秘密だった。
「もうひとつ、みなさんに言っておかなければならないことがあります。小学校、高校、大学、人生を通して、私はずっとゲイでした」
「ゲイであることをカミングアウトする勇気がなくてごめんなさい。家族、友人、同僚から仲間はずれにされるのが怖かったのです」
「私のような人に対する扱いを見て、
どうしても言うことができなかった」
Edwardが生前に自身のセクシャリティを打ち明けた人間は、ごくわずか。30年来の友人でさえ、訃報記事が出るまで彼がゲイであることを知らなかったという。
それもそのはず、Edwardはベトナム戦争に従軍し、故郷のニューヨーク州レンセラーで消防士としても活躍。勲章を持つ陸軍将校だったから。というのもEdwardの現役当時、基地内ではゲイだと疑われる軍人を調査・処罰する風習もあり、とてもカミングアウトできる環境ではなかったのだそう。
「私のような人間がどのように扱われているかを恐れ、どうしてもできなかったのです」。当時の心境をEdwardは自身の訃報記事のなかで、こう振り返った。
25年間連れ添った最愛の人も
Edwardは亡くなる1ヵ月前に、彼のセクシャリティについて知る数少ない人、姪のLinda Surgentとその夫に自身の死亡記事を見せた。
「Lindaと私は(Edward がゲイであることを)知っていました。でも叔父はプライベートな人だったから、そのことを面と向かって話すことはしませんでした。その境界線を破ることはなかった―――知っていたけど、何も言わなかった」。
Lindaの夫は「The New York Times」の取材に対しこう語った。
また、Edwardは訃報記事の中で、Paul Cavagnaroという男性と25年もの間、パートナー関係にあったことも告白。「人生最愛の人」だというPaulとの関係さえ誰にも打ち明けることはなく、親しい姪夫婦ですら、Paulに会わせてもらったことはなかったという。
自分、そして大切なパートナーを守るために、彼は本当の自分を最期まで隠し続けたのだった。
Edwardの告白から考える
「プライド月間」を祝う理由
Edwardの85年越しのカミングアウトは瞬く間に拡散され、彼の身近な人以外にも影響を与えた。
ニューヨーク州オルバニー出身のMichael Caseyは、プライドフラッグとレインボーカラーのカップで装飾した道の写真をFacebookに投稿、何百人もの人々にEdwardの物語を広めた。
Michaelは投稿にこう綴っている。
「これが、私たちがゲイ・プライドを目に見える形で祝う理由です。いつの日か、誰もが他人の考えや言葉を恐れずに生きられるようになるかもしれないから」
「すべての秘密を明かした今、やっと安らかに眠ることができる」
そう幕を閉じた元陸軍将校の訃報記事は、私たちの社会が自分らしく生きられる社会へと変わりつつあるのか、疑問を投げかけるものではないだろうか。
さて、6月は多様な性のあり方を祝う「プライド月間」。すべての人が自分らしく生を謳歌できるように、そしてEdwardの告白が報われるように。残りわずかとはいえ、盛大に祝いたいものだ。