OpenAIが「学生向けチューターAI」を発表。教育格差是正への期待

人工知能の開発企業であるOpenAIが、大学生向けのChatGPT新機能『Study Mode』を発表した。

答えを検索するツールとしての役割を超え、学生一人ひとりに寄り添う家庭教師(チューター)のように機能することを目指しているという。

新学期が始まる9月に向けて、教育現場へのAI導入を推進する同社の新たな一手だが、その利便性の裏には看過できない問題点も潜んでいるようだ。

個別指導を目指す対話型AI

『MIT Technology Review』が報じたところによると、この『Study Mode』は、学生が学術的な問いを投げかけると、すぐに答えを提示するのではなく、対話を通じて共に答えを探求していく設計になっているとのこと。

ソクラテス式問答法などを取り入れ、40以上の教育機関から集められた教育専門家の助言を基に開発されたという。

OpenAIは、この機能を通じてチャットボットが持つ「不正行為のツール」というイメージを払拭し、「個別学習ツール」としての価値を確立したい考えのようだ。

同社の教育責任者であるLeah Belsky氏は、高価な家庭教師に頼らざるを得ない現状に触れ、「質の高い教育へのアクセスを持つ者と、歴史的に取り残されてきた者との間の格差を埋め始めることができる」と、教育格差是正への期待を語っている。

利便性の一方、情報の不正確さというリスクも

しかし、『MIT Technology Review』は、この取り組みには根本的な問題が存在すると指摘する。Study Modeは学術論文や教科書といった信頼性の高い情報源のみで訓練された専用ツールではない。その実態は、既存のChatGPTに、学生との対話を促すための新しい会話フィルターを追加したものに近いという。

これは、AIチューターが、必読の教科書すべてに加えて、ウェブ上に投稿されたあらゆる不正確な解説や誤情報まで読み込んでいるようなものかもしれない。

大規模言語モデルの特性上、AIは情報の正誤を完璧に区別することができず、捏造された、あるいは完全に間違った情報を教えてしまうリスクを常に抱えている。

OpenAIによれば、この機能は特定の教科に限定されず、学生がChatGPTで話すようなあらゆる話題に利用できるため、このリスクはさらに広範囲に及ぶ可能性がありそうだ。

教育の未来と向き合うべき課題

一方で、このAIチューターの試みには肯定的な声も少なくない。

テストに参加したプリンストン大学やウォートンスクールの学生からは、自分の理解度に合わせてペースを調整してくれる点や、対話形式で学ぶ楽しさについて好意的な感想が寄せられた。ニューヨークの教育者であるChristopher Harris氏も、教授陣がこれを学習支援のツールとして評価する可能性があるとの見方を示した。

とはいえ、Belsky氏自身が認めるように、学生が安易に答えを求めて通常のChatGPTに戻ることを防ぐ術はない。高価な家庭教師に代わり、AIが個別指導を普及させるという構想は魅力的。

しかし、現在のStudy Modeは、大規模言語モデルの持つ根本的な欠陥を解消しないまま、その人間らしい対話スタイルを利用しているショートカットに過ぎないのかもしれない。この利便性とリスクを天秤にかけ、教育現場でどう活用していくのか。慎重な議論が求められるだろう。

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