「偽学生」120万人が学費を奪う。カリフォルニア大学で起きているAI詐欺の実態
「誰でも学べる」──そんな理想を掲げたカリフォルニアのコミュニティカレッジが、いま詐欺師たちの標的になっている。登録された新入生のうち約30%が“実在しない学生”、つまりボットや盗まれたIDによる偽アカウントだった。目的は学費支援金の詐取。年に数十億円規模の公的資金が消え、リアルな学生たちが授業を受けられない状況が広がっている。AIが教育を便利にする一方で、その裏で静かに進む“もう一つのAI活用”とは?
偽学生120万人。AIと盗難IDで奨学金が消える
2024年、カリフォルニア州のコミュニティカレッジで確認された偽の学生登録は約120万件。これは新規登録全体の約3割に相当する。
詐欺の手口は高度化しており、盗まれた個人情報をもとにAIが自動で学生アカウントを作成。授業に登録し、課題もAIで生成。登録後、連邦や州の学費援助を受け取って失踪する。
中には、山火事などの災害を悪用して「被災学生」を装い、災害支援金を騙し取る例も。大学は人的・金銭的リソースを消耗し、本来の学生サービスが回らなくなるという深刻な事態に陥っている。
被害は年11億円以上
“空席”を埋めるボットの群れ
金銭的被害はすでに巨大だ。2024年だけでも、連邦政府からの援助金:約840万ドル(約12.3億円)、州政府からの資金:約270万ドル(約4億円)。合計約16億円相当の公的資金が、存在しない学生に流れた。確認されているだけでも2021年以降、累計1800万ドル以上が失われている。
サンティアゴ・キャニオン・カレッジでは、ある授業の座席を30人分増やしたところ、数分でボットが埋め尽くしたという。実在する学生はわずか12人しか参加できず、学習機会の喪失が発生している。
AIで詐欺を防げるか?大学の反撃
大学側も対策に動き始めている。導入が進むのがLightLeap.AIという不正検知システムだ。
これは、申請パターンやIPアドレス、エンゲージメントの低さなどをもとに、疑わしいアカウントを自動でフラグ付けするツール。導入費は1キャンパス約7.5万ドルだが、実際に7,500席以上が本物の学生に戻された実績もある。
しかし、詐欺師も進化する。最近は、ホームレスや元里親制度出身の若者など、身元確認が難しい層を装い登録するケースが増加。いたちごっこは続いている。
教育×AIの未来に潜むリスク
誰もが学べる「オープンアクセス」の理念は、教育の自由を象徴するものだ。
だが今回のケースは、その開放性が犯罪の温床にもなり得ることを示している。
今後、申請料の導入や審査の強化などが検討される一方で、「アクセスを制限せずに、どう不正を防ぐか」が大きな課題となる。
AIは、教育の質を向上させる強力なツールである一方、悪用されれば社会基盤を揺るがす武器にもなりうる。教育機関、政府、テクノロジー企業、それぞれがこの問題とどう向き合うかが、これからの教育の在り方を決定づけるだろう。






