百科事典の逆襲。ブリタニカはAIで「学び」の常識を覆せるか?

「百科事典」と聞いて、分厚い本の山を想像する人は多いだろう。しかし、インターネットの普及とともに、その存在感は薄れていった。

かつて知識の象徴であった「ブリタニカ」は、今、AI教育サービス企業として新たな挑戦を続けている。

紙からデジタル、そしてAIへ
「ブリタニカ」の軌跡

印刷版の発行を2012年に停止したブリタニカ。「New York Times」によれば、企業価値は現在、約10億ドルに達し、近い将来、株式を公開する可能性もあるという。その収益の柱となっているのが、教育機関向けオンライン教育ソフトウェアだ。そして今、ブリタニカは、このソフトウェアにAIを導入し、さらなる進化を遂げようとしている。

その中核となるのが、AIによる個別学習プランの作成。生徒一人ひとりの理解度や学習スピードに合わせた最適な学習体験の提供を目指すという。従来の一律的な学習形態からの脱却を図り、真に効果的な学びを実現しようというのだ。

ChatGPTの影
教育サービスの信頼を揺るがす

ブリタニカの挑戦を語るうえで、ChatGPTの存在は無視できない。革新的な対話型AIとして注目を集めるChatGPTだが、その裏では、情報源の信頼性倫理的な問題点が議論の的となっている。

実際に、学生向けオンライン学習プラットフォームを提供する「Chegg」は、ChatGPTの台頭に大きく揺さぶられた。ユーザーからの質問に回答する同社のQ&Aプラットフォームは、パンデミック期の需要急増に対応しきれず、回答の質が低下。結果として、ChatGPTに顧客を奪われる事態に陥ってしまった。

「正確な知識」こそ武器
ブリタニカの戦略

では、ブリタニカはどのようにしてAI時代に勝ち抜こうとしているのか。それは、同社が2世紀以上にわたり培ってきた「正確で信頼性の高い情報」の提供。「Gizmodo」の記事によれば、ブリタニカCEOのJorge Cauz氏は、AIチャットボットの回答は専門家によって検証された、膨大な知識データベースに基づいて生成されると明言している。

ChatGPTの登場は、情報過多の現代社会において、「情報の信頼性」についてあらためて考えさせる契機となった。玉石混交の情報のなかから、真に価値ある情報を見極める力は、これまで以上に重要になっている。

ブリタニカのAI戦略は、単なる技術革新ではなく、情報に対する真摯な姿勢の表れと言えるだろう。利便性だけでなく、信頼性を兼ね備えたサービスを提供することで、AI時代の「学び」のあり方を再定義しようとしているのではないだろうか。

Top image: © iStock.com/Ricardo Jato de Evan
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