AIがつくる詩と、人間がつくる詩。あなたは見極められる……?

テクノロジーの進化は、常に人間の創造性と対峙してきた。写真の発明は、絵画の定義に革命をもたらし、音楽制作ソフトの登場は、作曲家の役割に変化を迫った。そして今、AIという新たな波が押し寄せているのは、言葉によって感情や情景を描き出す「詩」の世界だ。

AIがつくる詩
その「人間らしさ」の秘密

英「The Guardian」は、AIが生成した詩と人間がつくる詩と比較し、どのように評価されるのかを実験した興味深い研究結果を報じた。ピッツバーグ大学が実施したこの研究では、ウィリアム・シェイクスピアやジェフリー・チョーサーを含む10人の著名な詩人と、「ChatGPT 3.5」が彼らの作風を模倣して生成した詩を、一般人の被験者に提示し、作者を推測させた。

驚くべきことに、AIが生成した詩が「人間によって書かれた」と判断された確率は、人間の詩の約75%にも達したという。AIがつくる詩は、すでに人間を欺くほど「人間らしい」表現を獲得しつつあると言えるだろう。さらに、被験者はAIがつくった詩を、人間がつくった詩よりも「質が高い」と評価したという結果さえ出ている。

AIがつくる詩は、なぜ人間の心に響くのだろうか? 研究者たちの分析としては「非専門家である読者は、AIがつくる詩をより分かりやすく、アクセスしやすいと感じているためではないか」と推測している。

分かりやすさは、詩の世界の正義なのか

人間の詩は、比喩や隠喩、音韻効果などの技法を駆使し、多層的な意味や深みを持つ作品が多い。解釈の自由度が非常に高く、読む人によって異なる印象を抱かせることも、人間がつくる詩の魅力と言えるだろう。いっぽう、AIがつくる詩は学習データに基づいて生成されるため、現時点では比較的、平易な表現や構造の作品が多い。そのため、詩の専門知識がない読者にとっては、AI由来の方が理解しやすく、感情移入しやすいと感じるのかもしれない。

T.S.エリオット賞の受賞経験をもつ詩人ジョエル・テイラー氏は、取材に対して「AIは既存の作品から韻律や形式を分析して、模倣することはできるだろう。しかし、詩は単なるアルゴリズムではなく、意味や共感、洞察、情熱、驚きなどが複雑に絡み合ったものだ」と語っている。

AI時代、私たちは何を「詩」と呼ぶのか

今回の研究は「詩の評価基準」そのものに疑問を投げかけているとも言える。分かりやすさや親しみやすさだけが、詩の価値を決める要素なのだろうか。深みや複雑さ、人間の心の奥底にある曖昧な感情を表現することこそが、詩の役割だったのではないだろうか。

AI技術の進化は、私たちに新たな問いを突きつける。今後、AIが人間の感情や経験をより深く理解し、より複雑で深みのある詩を生成できるようになったとき、私たちはそれを「本物の詩」として受け入れることができるのだろうか。あるいは、人間が作るからこそ生まれる「不完全さ」や「予測不可能性」に、詩の真髄を見出すのだろうか。

AI時代を迎えた今、詩の世界は新たな局面に差し掛かっている。それは、単にAIが人間の言葉を模倣する段階を超え、「人間らしさ」とは何か、「創造性」とは何かを、私たち自身に問いかける、深い思索の旅の始まりなのかもしれない。

👀GenZ's Eye👀

Z世代は”わかりやすく良いもの”を好む傾向がある。音楽やファッションといった日常的に消費するものであればなおさら。AIによって、その傾向は加速するのかもしれない。

Z世代流の表現とは、人気のものをかけ合わせ、平均かそれ以上の物を生み出すという感じだ。しかし、人類がここまで発展することが出来たのは、その創造力で0から1を生み出し続けてきたからではないだろうか。AIが平均点を出せても、傑作が生まれることはないだろう。これからの時代、世の表現者たちは、AIが辿り着けない、より困難な道を歩んでいかなくちゃならない。

Top image: © iStock.com/Laurence Dutton
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。