「べらぼう」にエモい──。
東京の古民家カフェで感じる&味わう、
昔ながらの風情と文化

喜多川歌麿や東洲斎写楽など、海外でも高い評価を受ける浮世絵師を発掘した〝江戸のメディア王”こと蔦屋重三郎。その半生を描いたドラマが、今、人気を博しています。

そんな「べらぼう」な時代の息吹の名残を、当時の文化発信地のひとつだった茶屋──現代のカフェで感じられるとしたら?

放っておけば時代の流れのなかで取り壊されてしまう古い建築物を蘇らせ、新たな価値を生み出す古民家カフェは、究極のスロー・アーキテクチュア(※)ともいえるサステナブルな空間なのではないでしょうか。

かつての歴史と文化に身体全体で飛び込んで、とびきりのドリンクからスイーツ、話題の本格フードメニューで舌と心を満たす。東京に残る名建築を活かした古民家カフェで、そんな温故知新のエモい時間を過ごしてみてはいかがでしょう。

※地域性や文化を大切にし、資源を有効利用する建築思想

東京を代表する名刹・池上本門寺のお膝元
【古民家カフェ 蓮月】

鎌倉時代に日蓮聖人入滅の地で創建し、日蓮宗の大本山として厚い信仰を集めてきた池上本門寺は、江戸期に入ると徳川幕府や大名からの庇護を受けて繁栄してきました。

特に10月におこなわれる「御会式(おえしき)」は歌川広重の『江戸自慢三十六興』にも描かれた当時の人気観光名所であり、現在も一晩で30万人を超える参拝者が訪れることで知られています。

そもそも、五反田駅から蒲田駅、そして最寄りの池上駅をつなぐ東急池上線は、池上本門寺の参拝客のために生まれた路線であることからも、その崇敬ぶりがうかがえるでしょう。

そんな池上本門寺の門前町に位置しているのが「古民家カフェ 蓮月」です。

伝統的な建築形式である重厚感溢れる入母屋造(いりもやづくり)の屋根や二階部分にあしらわれた手すり・跳高欄(はねこうらん)など、随所に寺社建築の要素も取り入れられたその建物は、1933年に宮大工の手によって建てられたもの。

本門寺を借景にした街のなかに、今もしっくりと馴染んでいます。

もともと一階は「蓮月庵」という屋号のお蕎麦屋さんで、二階は旅籠(はたご)として参詣客の宿泊や結婚式にも使われていたそうですが、2014年に前オーナーがお蕎麦屋さんを廃業。地域住民にとって子どもの頃から親しんだランドマーク的な存在であったことから保存運動が起こり、現オーナーの輪島さんに声がかかることに。

当時は天井裏に鳩が巣を作るほど荒れていたそうですが、輪島さんと有志の手で耐震補強や水まわりの改装をおこない、カフェとして営業することになったとのこと。

「もともと僕は古着屋ですし、古いものに価値を見出すのが自分の仕事だと思っています。なにより、地域住民に愛された建築ですから、蓮月という屋号だけでなく、当時の磨りガラスやお品書きをディスプレイするなどして、往時の状態をなるべく残すように心がけています」と輪島さん。

そんな「古民家カフェ 蓮月」で提供しているプレートランチは、季節ごとに内容が変わり、近隣住民はもとよりお店目当てで池上を訪れたお客さんからも人気のメニュー。

来訪時はカオマンガイとガパオライスの2種類を一皿で味わうことができる、スペシャルタイごはん プレートランチ(2,290円)を提供。

タオチオというタイの発酵調味料を使ったソースをはじめ、3種類のソースで好みに合わせて味を変えながら夢中で食べ進めていけば、大人の男性でもお腹いっぱいになるボリューム感。ほどよいエスニック感で辛さもアクセント程度のため、万人好みのおいしさです。

もちろん、ベイクドチーズケーキやガトーショコラなど、スイーツ類も用意してあるため、カフェ利用もOK。この日選んだのは、濃厚なチーズケーキにラズベリーとカシスの爽やかな酸味がアクセントのベリーのチーズケーキ(990円)と、TVドラマ『セミオトコ』のロケ地として使用された際に誕生したセミーオ(1,300円)。

ティーソーダにブルーキュラソーとナタデココで地球をイメージしたプースカフェスタイルのノンアルコールカクテルで、思わず写真を撮りたくなるビジュアルは、まさにエモい雰囲気満点です。

【DATA】
住所/東京都大田区池上2-20-11
電話番号/03-6410-5469
営業時間/平日11:30〜18:00(L.O.17:30)、
土・日・祝11:00〜18:00(L.O.17:30)
定休日/不定休
オフィシャルサイト/https://rengetsu.net/

※メニューの内容などは2025年10月時点の情報となります。また、表示は税込価格となります。

登録有形文化財がカフェに!江戸の建築物を活用
【古民家カフェ 晴ノ舎(Harenoya)】

東京都で島を除く唯一の村・檜原村。

山梨県と埼玉県の境目にある人口2,000人ほどの長閑な山間の村ですが、街道沿いを散策すれば立派な古民家や蔵がそこかしこに立ち並び、炭焼きや養蚕などで豊かな地域であったことが偲ばれます。

そんな江戸の山村の風情が残る檜原村のなかでも、ひときわ深い歴史を備えている建築が……。それが江戸末期に建てられた登録有形文化財の旧高橋家住宅です。

旧高橋家住宅は人里(へんぼり)地区で代々農業や養蚕をおこなっていた民家で、安政年間に誕生した7代目が漢方医だったことから、地域の住民から「医者殿」と呼ばれて親しまれてきました。

有形文化財登録の理由ともなった建築の特徴である兜造り(かぶとつくり)の屋根と、せがい造りの軒下には、7代目が往診時に使用していた当時の駕籠(かご)も吊るされており、なかに入ればその欅(けやき)の大黒柱の太さに息を呑み、上がり框(かまち)の高さに驚くはず。

そんな貴重な建築物を後世まで保存するべく、現在、カフェとして活用しているのが「古民家カフェ 晴ノ舎(Harenoya)」です。

店主の土井さんは地域おこし協力隊として檜原村に移住し、旧高橋家住宅が有形文化財に登録されるにあたって活用法を募集した際に、檜原村の魅力を伝える場所として、何度も訪れることができるカフェを営業するプランを提案。

カフェ店内では、地元檜原村の作家さんの作品の展示販売や、近隣農家の作物をはじめ、地元食材を使った晴ノ舎オリジナルのジャムといったお土産も販売しています。

取材当日は平日だったにも関わらず、開店から閉店まで遠方からのお客さんがひっきりなしに訪れていました。

そんな「古民家カフェ 晴ノ舎(Harenoya)」でいただけるのが、キッシュとスープを主菜にそのときどきの季節に合わせて檜原村で採れた野菜を中心に構成する、季節のランチセット(1,650円)。

取材の際にいただいたのは、檜原産の夏みょうがが入った生姜スープに檜原村の特産品の新じゃがいもが入ったキッシュ、さらに、しそ味噌を載せた古代米のご飯など、地産地消を取り入れながら檜原村の恵みが身体に優しく染み渡るようなランチプレートでした。

また、スイーツの米粉のシフォンケーキ(680円)に使われた、檜原産のルバーブジャムも甘酸っぱく絶品。檜原村は標高が高いため、ルバーブのような冷涼気候に適した作物も採れるのだとか。

こちらのジャムも季節ごとに変わるそうで、料理に使われるジャムや毎月替わる味噌など、料理で使われている調味料は小瓶で販売もしているため、気に入ったらお土産に購入するのもお勧めです。

【DATA】
住所/東京都西多摩郡檜原村人里2032
電話番号/050-3700-6315
営業時間/<カフェ営業>11:00~16:00(15:00 L.O.)
※12月~2月の間は15:00
※土・日・祝・祭日や混雑時のランチタイムは
ランチメニューのみの提供となる場合があります。
※見学のみでのご入店をご遠慮頂く場合があります。
定休日/3月〜11月:月・火曜日
(祝・祭日の後2日間、祝・祭日は営業)、
12月〜2月: 月・火・水曜日
オフィシャルサイト/https://harenoya.co.jp/

※メニューの内容などは2025年10月時点の情報となります。また、表示は税込価格となります。

江戸の医師・荻野松庵が開発した新田地域に佇む
【松庵文庫】

中央線や丸の内線が乗り入れ、都心部へのアクセスに優れる人気の街・荻窪。カルチャー溢れる中央線沿線の駅のなかでも、閑静な住宅街が広がる地域でもあります。

その歴史を遡ると、荻野松庵という医師が江戸期に武蔵野台地を開拓して新田を開発。明治・大正期に鉄道が通ったことで、荻窪から西荻窪にかけての地域は別荘地として人気が集まり、与謝野晶子や井伏鱒二、太宰治が住んでいたことで「西の鎌倉、東の荻窪」と並び称された文豪の街として知られるようになりました。

そんな文化の薫り漂う西荻窪の、築80年を超える古民家をリノベーションした人気のカフェが「松庵文庫」です。

住宅街のなかにひっそりと建つこの古民家は、もともと日本にオーケストラを導入した先駆者として知られる音楽家の私邸だったもの。この昭和初期の和洋折衷建築をもともと住んでいた方から現オーナー・岡崎さんが託され、どう活用すればいいか専門家に相談した末にカフェを開くことに決めたのだそう。

店名についている「文庫」とは書物を集めて公開する、現代でいう図書館や資料庫にあたる施設のこと。江戸時代には徳川幕府が紅葉山文庫、細川家が永青文庫を開いたことでも知られています。

きっとそういった意味合いを込めているに違いないと思って岡崎さんに聞いたところ「私は文庫本をいつも携えているんですが、物件を見た時に、この縁側で読書できたらいいなと思ったのが理由です(笑)」とのこと。

「でも、この場所を基点にいろいろな出会いが生まれているので、そういった意味ではおっしゃった意味での“文庫”の要素もあるかもしれません。著名な音楽家がお住まいでしたので、かつての生徒やお弟子さんが訪れて『また先生の自宅に入れるなんて』と喜んでくださることもあり、たくさんの人の思い出が詰まった建物を残せるのは嬉しい限りです」。

「松庵文庫」ではケータリングも人気とあって、大量のオーダーが入るとお店をお休みすることもあるため、SNSで営業しているかチェックしてから訪れるのが◎。そのぶん、ごはんの味についてはお墨付き。

「家庭料理ではあるけれど、自宅で作るのはちょっと手間がかかって大変というメニューにするようにしています」と岡崎さんが語るように、奇をてらわずに手間ひまをかけた料理をいただくことができます。

そのランチメニューである季節の暦御膳(¥1,980)は、羽釜で炊いた富山産コシヒカリのごはんに豚の角煮、しっかりとお出汁から引いたお味噌汁、副菜が添えられ、これぞ日本の一汁三菜といったもの。

おおよそ1ヵ月ごとにメニューが変わるため、リピーターも多いそうです。

そして、カフェ経営をきっかけに出会った食材が、徳島県の地域おこしである「Food Hub Project 神山」を母体として誕生した「かまパン」と、茨城県の「手造りそば季より」が3日かけて作る「五角堂あんこ」を使った小倉トースト(1,320円)。

食パン嫌いだった岡崎さんすらも惚れ込ませたかまパンは、外側はカリッとしながらも中はもっちり。自家培養発酵種を使ったずっしりとした食味で、大人の男性でも1枚食べれば大満足するボリューム感。

かまパンの入荷日に運良く訪れることができれば、パン単体の持ち帰り購入もできるそうです。

【DATA】
住所/東京都杉並区松庵3丁目12-22
電話番号/03-5941-3662
営業時間/木・金・土・日9:00〜18:00、
水12:00〜18:00(仕込みのためモーニングお休み)
定休日/月・火
オフィシャルサイト/https://shouanbunko.com/

※メニューの内容などは2025年10月時点の情報となります。また、表示は税込価格となります。

江戸の行楽の地・向島のノスタルジックな空間
【古民家カフェこぐま】

現在も隅田川の桜堤は“映えスポット”として有名ですが、江戸時代の最盛期は1,000名以上の向島芸妓が在籍した花柳街でもありました。今も置屋や料亭が残り、お花見の時期になると桜茶屋が開かれる、まさに『べらぼう』の世界観を今に伝える土地でもあります。

「古民家カフェこぐま」があるのは、そんな向島にある鳩の街通り商店街の北端。

東京大空襲をまぬがれたおかげで道幅は戦前のままで、往時は幅3mの道に沿って300軒以上の商店が立ち並び、1970年代には近くの向島料亭街から流れてきた人々が袖すり合いながら行き交っていたそうです。

そんな「古民家カフェこぐま」の建物は1927年築の三軒長屋の端に位置する元薬局。

そのため、壁に造作された什器類はもちろん、さまざまな薬を収めるための小ぶりな引き出しがたくさん設けられた薬種棚、薬局の屋号が刻まれた磨りガラスなど、当時の面影を今も残しています。

京都の茶屋建築のような細かな格子窓のエントランスや大きな古材の大黒柱、現在では製造されていない波板ガラスの明り取りなどは建築古材を使ってリノベーションしたもので、建物の雰囲気とよく馴染んでいます。

また、店主の山中さん夫妻の実家が経営していた学習塾の机を再利用するなど、ノスタルジックな空間作りと環境にも配慮した改装をおこなったそうです。

山中さんによると、薬局時代から建物に残されていた柱時計がカフェの開店と足並みを合わせるように、再び時を刻みはじめたのだそう。役目を終えたかに思えた建物が、今度はカフェとして息を吹き返したことを象徴するエピソードではないでしょうか。

そんな東京の下町の生活の息遣いが感じられる空間で味わえるのは、すみだモダンブランド認証を受けた焼きオムライス(1,200円)。

一般的な薄焼き卵で包むオムライスと違い、10数種類のスパイスを使って少しスパイシーな大人な味わいに仕上げたケチャップライスの上からチーズをたっぷりと加えて卵液を流し込み、そのままオーブンで焼き上げたもの。

まるでキッシュとドリア、それにオムライスがかけ合わさったような感覚で、古民家カフェで食べるにふさわしい、なんともレトロでモダンな味わいです。

また、スイーツにも同じくすみだモダンブランド認証を受けたあんみつ玉(600円)を用意。「果物に寒天、それにあんこと、あんみつの素材だけを使っています」と山中さんが説明するように、これもまた懐かしくも新鮮なひと皿。

自家製のつぶあんは小豆の味がしっかりと感じられ、これまた自家製の黒蜜も優しい味わい。なにより、あんみつと同じ素材でもプレゼンテーションが変わるだけで、どこか洋の雰囲気も感じる新感覚のスイーツに仕上がっています。

【DATA】
住所/東京都墨田区東向島1-23-14
電話番号/03-3610-0675
定休日/火・水
営業時間/11:30〜18:30(L.O.18:00)
オフィシャルサイト/https://ko-gu-ma.com/

※メニューの内容などは2025年10月時点の情報となります。また、表示は税込価格となります。


 

目まぐるしく変わりゆく都市・東京のなかでも、いつもより少しゆっくりと歩いたり、いつもは通らない路地を歩いて街を眺めたりしてみれば、古き良き江戸の名残を感じられるもの。

そうやって散策していて古民家カフェを見つけたならば、ひと休みするついでにその街の歴史についても調べてはいかがでしょう。

きっと思わぬ発見があり、もっと東京のことが好きになるかもしれませんよ。

【Tokyo Tokyo】

「Tokyo Tokyo Old meets New」をキャッチフレーズに、
江戸から続く伝統と革新を続ける最先端のカルチャーが共存し、
さらに新たな価値が生み出されていく東京の面白さや魅力を発信。
ここでしか読めない様々なコンテンツが満載。
あなたのまだ知らない東京の魅力を見つけてください。

https://tokyotokyo.jp/ja/