「天気予報」があなたの買い物に影響しているって知ってた？ ─ サプライチェーンと気象データの最前線

天気予報が売上に影響する」──そう聞いて、ピンとくる人はどれだけいるだろうか？
でも実際には、気象の変化は私たちの購買行動に直結している。週末に晴れマークが並ぶだけで、スーパーからビールや炭が消える。雨が続けば、傘やレインコートの需要が急増する。

それだけではない。気象データは、物流、調達、エネルギー、さらにはサステナブルな調達戦略にまで影響を及ぼす。「空を読む力」は、いまや企業競争力の一部と言ってもいいのかもしれない。。

ヨーロッパのサプライチェーンソフトウェア企業「RELEX Solutions」は、気象予報を活用して小売業の需要予測を支援している。

たとえば、地域一帯に“今季初の熱波”がやってくると予測された週末。地元の人々は外に出て、バーベキューを楽しむ準備を始める。ここで小売側が先回りして、ビールや炭、ハンバーガーの具材などの在庫を増やせれば、売上チャンスを逃さずに済む。

だが、重要なのは「どの店舗で、どの商品が、どの天気に反応するか？」という予測精度。RELEXは、店舗ごとの売れ筋・SKU（在庫単位）ごとの違いを、過去の気象データと機械学習で学習させている。つまり、ある店舗では雨が降れば長靴が売れ、別の店舗ではレインコートが伸びる──そんな差異までをアルゴリズムが捉えている。

気象予報の活用は、小売業だけではない。 医療機関や製造業でも「異常気象によるサプライチェーンの混乱」を防ぐために、気象データを活用する企業が増えている。

アメリカのCooper Healthでは、ハリケーンが接近する際に、サプライチェーンリスク管理システム「Interos」を使用。そのシステムが示した「リスクのある4つのサプライヤー」のうち、1社が「本日午後で操業を停止する」と回答。Cooperは即座に数日分の物資を確保し、供給断絶を回避したという。

また、リスク予測サービスを提供するEverstream Analyticsでは、専門の気象チームがリアルタイムで世界中の気象を監視。特定の工場や港に影響を与える「ピンポイント天気予報」が、15日先まで1時間単位で可視化されている。

短期予報だけではない。Everstreamでは、6週間〜数か月単位の「季節予測」、さらには数年〜数十年先の気候変動予測まで行っている。

これは、エネルギーや食品業界にとって極めて重要。たとえば、米アイオワ州で「暑く乾燥した夏」が予測された場合──その年のトウモロコシの収穫量は落ち込む可能性が高い。その情報を早期に得ていれば、企業は別地域からの調達や、先物契約による価格ヘッジを事前に検討できるというわけだ。

同様に、気候がコーヒーやナッツなどのツリークロップ（樹木作物）に与える影響も大きい。Everstreamはブラジル各州における「コーヒーの木の健康状態」までを分析し、翌年の収穫を予測するモデルを構築しているらしい。

気象予測の活用は、企業の戦略計画やESG（環境・社会・ガバナンス）目標の達成にも直結する。

例えば、欧州で農産物の収穫量が長期的に減少すると予測された場合。調達先を南米や北米に移す必要が出てくるだろう。しかし、それによってサプライチェーン全体のCO₂排出量が増加する可能性もある。

つまり、「どこから調達するか」だけでなく、「その調達がどんな環境負荷を持つか」までを考慮する必要がある。気象トレンドを戦略レベルで読み解くことは、持続可能な経営の前提条件になりつつある。

Everstreamが構築するAIモデルは、気温・降水量・土壌水分・植生指数など、7種類以上のデータを10年単位で学習している。この「過去の天気と作物の関係」を理解することで、200種類以上の作物について精度の高い収穫予測が可能になっている。

もちろん、天気予報に不確実性はつきものだ。だが、その予測が「数日早く」わかるだけでも、企業はリスクに備える選択肢を持てる。そして、こうしたインテリジェンスがサプライチェーン全体のレジリエンス（回復力）を高めていく。

「天気を味方につける」──それは単なる比喩ではない。現代のサプライチェーンでは、気象予報とAIの力が、リアルな意思決定を支えている。

気温の上下、降水のタイミング、嵐の進路。それらすべてが、製品の供給、物流の安定、価格変動、ESG対応にまで影響を与えているからだ。

これからの時代、空を読むことは、未来を読むこと。あなたの「明日の買い物」も、「天気」と無関係ではいられない。