遺品が「記憶のメディア」になる。渋谷で開催「イヒンユライ展」
親や祖父母が遺した衣服や持ち物。全部は残せない、でも捨てるのは忍びない——。そのジレンマに、26歳のクリエイターが「形を変えて、思い出ごと残す」という第三の選択肢を提案しています。
遺品が小さなオブジェクトに
変わるまでの試行錯誤
「イヒンユライ(IHIN YURAI)」は、故人の遺品を小さなオブジェクトへとアップサイクルし、遺族のもとへ返すプロジェクトです。手がけるのは、合同会社GIGAPUPUPUの代表・クレバヤシトマトさん。
ただ形を変えるだけではありません。完成したオブジェクトにスマートフォンをかざすと、その材料になった遺品の情報や故人との思い出が画面に浮かび上がる——いわば「記憶のトレーサビリティ」とも呼べる仕組みを、現在開発中とのこと。
トレーサビリティとは、もともと食品や工業製品の流通経路を追跡する技術のこと。それを「モノの由来」ではなく「人の記憶」に応用しようとしている点が、このプロジェクトの核心です。
一度の「全プロジェクト中止」を経て
たどり着いた「死」というテーマ
クレバヤシさんは早稲田大学卒業後、資源循環やトレーサビリティの構築に携わる企業で経験を積み、2024年にGIGAPUPUPUを立ち上げました。
当初は芸術家や職人の過去作品を新たなプロダクトに生まれ変わらせる活動をしていましたが、経済合理性の壁にぶつかります。2025年の初個展では、それまでのプロジェクトの失敗と中止を正面から発表しました。
そこから「アップサイクルとトレーサビリティが最も必要とされる場面は何か」と問い直した結果、たどり着いたのが「死」というテーマでした。
仏壇を持たない家庭が増え、AIで故人の姿や声を再現するサービスも登場する時代。弔いの形は静かに、しかし確実に変わりつつあります。その変化のなかで「保存でも廃棄でもなく、変換して残す」という道を切り拓こうとしているわけです。
「失敗」も見せる展覧会が
渋谷で開催
2026年9月末、渋谷で開かれる「イヒンユライ展」では、完成品だけでなく、失敗した試作品や製法の検討過程、デジタルシステムの開発裏側まで、試行錯誤そのものが展示されます。
樹脂で固めてみたり、ジュラコン製の型に注型してみたり。技術的にもコスト的にも壁にぶつかりながら、現在は石膏と遺品を混合する新たな製法に挑戦中だといいます。
きれいな完成品だけを並べるのではなく、つまずきの跡ごと見せる。それは、2025年に「失敗の発表」をした彼の姿勢そのものの延長線上にあるように感じます。
高齢化が進む日本では、遺品整理は多くの人にとって「いつか必ず向き合う課題」です。捨てるか、残すか。その二択の間に、もうひとつの選択肢が生まれようとしています。まだ開発途上のプロジェクトだからこそ、その過程を覗きに行く価値があるのかもしれません。
イヒンユライ展 〜遺品×アップサイクル×トレーサビリティ
【会期】2026年9月29日(火)〜10月4日(日)
【時間】11:00〜20:00(最終日のみ18:00終了)
【会場】Gallery Conceal Shibuya(渋谷区道玄坂1-11-4 4F、渋谷駅徒歩5分)
【入場料】無料
【プロジェクト詳細】IHIN YURAI(100BANCH)






