丁寧なつもりが逆に失礼!?日常生活で耳にする「誤った敬語5つ」
「とりあえず丁寧に言っておけばいいだろう」「なんか違うような気もするけど、みんなが使ってるからいいか」こうした考えの人が増えると、過剰敬語や誤用が氾濫することになりますよね。
たとえば、以下は日常生活でよく耳にする誤った敬語の使い方です。
01.
「支配人にお会いしますか」
目上の人の行為や状態を述べるのに謙譲語を使う人がいる。
「お客様、当店の支配人にお会いしますか」「支配人、お客様がお見えになっております」
1つ目はお客さんに向かって自分の上司に会うかどうかを尋ねているのに、「会う」の謙譲語「お会いする」を使っている。2つ目の「お見えになる」は「来る」の尊敬語、「おります」は「いる」の謙譲語である。「来ている」の尊敬表現に謙譲語が顔を出すことは決してない。
いずれにせよ、この場面で使えるのは尊敬語と丁寧語だけである。「お客様、当店の支配人にお会いになりますか」「支配人、お客様がお見えです」などが正しい言い方のひとつだ。
02.
「なんなりとご質問してください」
誤用例はまだある。謙譲語のまま尊敬語として使ってしまっているもの、および尊敬語と謙譲語の組み合わせの例である。
「なんなりとご質問してください」
「ご~できる」を尊敬語として使うことができないのは、これが謙譲語「ご~する」の可能の形だからだ。「ご連絡できなくて申し訳ありませんでした」自分が連絡できなかった場合にこのように言う。「お~できる」も同じで、「明日の午後でしたらお届けできます」とこれもやはり自分の行為に用いられる。
「この電車にはご乗車できません」
「まもなく発車いたします。ご乗車してお待ちください」
これらが誤用であることは明白。正しい言い方は次の通りである。
「ご乗車になれません」または「ご乗車いただけません」
「ご乗車になってお待ちください」
03.
「お金をご用意して
お待ちください」
スーパーのレジカウンターで、レジ係の1人がこう言った。「2500円をご用意してお待ちください」
「ご用意する」は謙譲語である。客に対して使うことはできない。「ご用意なさって」「ご用意の上」と言えば文法上の間違いはなくなる。しかし、そのように訂正すれば一件落着なのか。私はそうは思わない。私なら、客に「用意する」などという言葉は使わない。待っている客の目を見て「2500円でございます」と合計金額を伝え、笑顔で「少々お待ち下さいませ」と言う。
客に向かって「金を用意して待て」などと言ってよいのだろうか。言葉は丁寧でも、結局はこう言っているわけだ。たいていの客はお金を出して待っている。わざわざ借金取りみたいな言い方をしなくてもよい。しかも、敬語を間違えている。
04.
「アップルさん」と
「マイクロソフトさん」
自分とも相手とも全く関係のない会社名に「さん」をつけると、業界の人間であるかのような印象を相手に与える。聞き手に対して丁寧な話し方をするのと、話の中に出てくる企業や著名人の名に敬称をつけるのとを一緒にしてはいけない。関係者や知り合いならまた話は別だが、世界的に有名な企業や大スターに「さん」はつけない。次のような言い方はしないのだ。
「アップルさんとマイクロソフトさんのビジネスモデルの違いについてまとめてまいりました」
「ブラット・ピットさんとアンジェリーナ・ジョリーさんがまた南フランスに大邸宅を購入したことをお聞きになりましたか」
関係者同士の特殊な環境での会話でない限り、企業、組織名に「さん」は不要だ。大人たちがおかしな言葉使いをしていると、それを若い人が覚える。大学の教室に遅刻して入ってきた学生が「JRさんが遅れたんで」と言ったときは絶望的な気持ちになりかけたが、彼は世間で使われている言い方を素直に真似しただけなのだ。
05.
「ご注文のほう」は
ケースバイケース
よく取り上げられる誤用に「ご注文のほうは以上でよろしかったでしょうか」という言い方がある。「のほう」と「よろしかった」が問題とされ、「ご注文は以上でよろしいでしょうか」が正しい、ということになっている。
しかし、これも状況による。品物の数などを再確認するような場合は、確認の「た」を使い「よろしかったですか」でも構わない。「のほう」もほかのものとの対比であれば、入れておいてもよい。注文を聞いた後に客から別の要望があった場合などだ。「かしこまりました。ではグラスをあと2つ、すぐにお持ちいたします。ご注文のほうは以上でよろしいでしょうか」といった場合である。
これらが十分に機能を果たすケースもある。ここに触れずにこの表現は正しくない、と結論付けてしまうのは性急すぎではないか。そもそもこの質問は必要なのだろうか、など考えることはたくさんある。1つの誤用に1つの正解を暗記するのでは、コミュニケーションは十分でないのだ。
『失礼な敬語 誤用例から学ぶ、正しい使い方』
コンテンツ提供元:光文社