「いま」に不安を抱いてしまう日本人5つの理由

ジョン・キム
作家
韓国生まれ。2004年から2013年まで慶應義塾大学特任准教授を務める。オックスフォード大学、ハーバード大学などで客員研究員を歴任。著書に『媚びない人生』(ダイヤモンド社)、『時間に支配されない人生』(幻冬舎)、『断言しよう、人生は変えられるのだ。』(サンマーク出版)など多数。最新刊は『ジョンとばななの幸せって何ですか』。2013年からは、パリ、バルセロナ、フィレンツェ、ウィーンに拠点を移し、執筆活動中心の生活を送っている。元音楽プロデューサー四角大輔氏とのコラボサロン『Life is Art』主宰。「女性自身」に連載を持ちながら、女性のひとり起業を応援するV2F Academyを今年3月よりオープン予定。

日本人は自分たちの現状や未来に対して、不安を抱いている。しかし、日・英・米・独の大学に赴任して、それらの国々の政治、経済、文化を肌で感じた上で日本を定点観測してきた私の目から見ると、日本は衰退などしていない。むしろこれからの時代を生き抜くために、着実に進化を遂げている。

自著『不安が力になる』より、なぜ日本人が不安に感じているのかについての根本的な理由と、それに対する日本人への私なりの現状、提言を紹介したい。

01.
幸福に対する価値観が
多元化しているから

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かつて日本には欧米に追いつけ追い越せと、経済発展を最重要視する時代があった。70年代、80年代は右肩上がりの経済成長が当然のように受け入れられた。物質的な欲求を追求させざるを得ない時代だったのだ。家庭を支える働き手の父親はみな、一定の生活レベルを維持するために、住宅や家電、車などを手に入れる財力が求められた。その時代の幸せとは、じつに一元的なものだったに違いない。

しかし、社会全体の生活水準が上がってくると、必死に働かなくてもある程度の生活ができるようになる。そうすると、かつては画一的だった幸福に対する価値観が多元化する。こういった時代に、自分の幸せを外部に委ね、自己省察を省略してきてしまうと、十分に豊かであるにも関わらず、不安を感じてしまうのだ。この不安を避けるために、自分で自分の幸せを定義すべきである。

02.
自己を他者との関係性で
規定しがちだから

日本人は、自己を他者との関係性で規定しがちだ。それは肩書きや所属で、自他を評価しようとする行動に表れる。そうする方が、本当の自己について考えずにすみ、楽に生きられる。つまり、自分のアイデンティティを自分で持たず、他者との関係性に委ねている人が多いのだ。

それは非常に不安定な状態。時代の常識が変化するだけで、肩書きや関係性が揺らぐために、自分のアイデンティティが揺らいでしまう。その結果、個人は不安を募らせてしまうのだ。ありのままの自分と向き合う努力をして、自己認識にたどり着くべきだ。

03.
一億総“中流”時代の終焉
他者との比較に囚われるから

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日本人は全体的に、周りの意見を気にする傾向がある。そして、大多数の人が「自分は中流である」と思っており、自分たちは、みんな等しく平均であると考えている。日本は学力だけが唯一のものさしとなっている平等社会だ。学力以外の、より複合的で多元的な評価基準の構築をしてこなかった。

しかし、みんな中流で平等だと考えるからこそ、そこから抜け出そうとする人に、ある種の不公平感を感じる傾向がある。

一般に人間というのは、自分よりも上の人を見て喜ばない。同情できたり、自分が優位に立っていることを実感できたりするときには寛容になれる。

しかし、そのような他者との比較にとらわれるのではなく、絶対的な自己認識を持つことが肝要だ。資本主義の先にいる日本社会は、そうしたステージを目指すべきではないだろうか。

04.
相対化する視点がなく、
国内で視点が完結するから

日本は諸外国と比べると、権力の腐敗が少ない。倫理観も高いし、不景気でも街が荒廃せず清潔で快適で安心な社会だ。どの店でも基本的に水準の高いサービスが受けられる。外国と比較してみれば、日本の不景気や経済格差などはそれほど問題ではないということもわかる。

そういった、相対化する視点があまりないので、日本人は悲観的になる。国内で視点が完結しがちだ。世界の中で相対化すると、今の日本は非常に豊かな国なのだ。

05.
長年“強み”としてきた
製造業がふるわないから

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日本が強みとしてきた製造業の大切さは十分認識している。それを新しい時代に受け継いでいくことも必要だ。しかし、今後の世界においては人口を増やし、国全体の経済規模を大きくするという考え方から、一人あたりの付加価値をどう高めるか、という方に考えをシフトしなければいけない。
日本がこれまで高度経済成長期に築いてきた国際競争力は、工業製品中心のものだった。しかし、この成熟社会に突入したからこそ見えてきた経済の領域というものもある。

私が日本で一番すごいと思うのは、3分おきの時刻表すらきっちり守る電車の運行だ。日本のインフラの時間に対する正確性は、他の国では見られないレベルに達している。

輸出というと、どうしても工業製品などに目がいきがちだが、本当に日本が輸出すべきは、全体のコーディネートも含めたサービスのオペレーションだと思う。このサービスにこそ、日本経済復興の鍵が存在している。

06.
リーダーシップを取れる
カリスマを期待しているから

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日本では昔から、政府でも企業でもがリーダーシップをとって制度改革を行い、周りはそれについていくことで活力を生み出すというスタイルをとってきた。しかし、おそらくその時代はもうこない。カリスマの登場を待つ思想は、少し前時代的だと感じる。

誰かが体制を変えてくれるのと考えるのはやめて、自分自身にできることを考えたほうが建設的だ。外部に対する期待は意識的に避け、自分の内面、使命感から活力を生み出す自立した個人の集合体としての社会が、これからの時代に合っている。

「未来は今より悪くなる」と考えている人にとっては、現状維持が合理的な選択だ。しかし、日本は今、成長をある程度犠牲にしたとしても、生活の質を考える余裕がある、世界の中でも稀な状況にある国になっている。

若い人たちを中心に、日本人は資本主義に支配された生活スタイルから抜け出し始めている。経済の動きに左右される事柄を幸せと捉えるのではなく、日常生活の中で得られる内面的な充足に価値をシフトし、自分なりの幸せを感じ始めているのだ。人々が抱いている不安は、日本が次のレベルに到達しようとしている、その過程の産物に他ならないのだから。

不安が力になる
コンテンツ提供元:ジョン・キム

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