コミュニケーションは「キャッチボール」ではない。一体なぜ?

世にある大半の仕事は、一人でできるものではありません。とくに近年のビジネスでは、コミュニケーションの重要性がますます高まっています。それと比例するように、コミュニケーションミス(相手に伝わっていない・相手が理解していない)というケースも増加傾向にあります。

宇都出雅巳さんの著書『仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』では、きちんと伝えてもその通りに伝わらない、きちんと聞いても正確に理解できない、といったコミュニケーションミスをなくすための対策がまとめられています。

ここでは、ビジナスパーソンなら知っておきたいコミュニケーションを円滑に進める方法と、その解決方法を紹介しましょう。

コミュニケーションは
キャッチボールではない

「コミュニケーションはキャッチボールである」という言葉を聞いたことがあるでしょう。わかりやすい例えではありますが、これこそがコミュニケーションについて誤解を生み、結果的にコミュニケーションミスを誘発しているのです。

話し手が自分の記憶にある経験を他人に話すとき、その記憶のすべてを言葉にするわけではありません。それは、すべてを言葉にしていては会話が成立しないから。話し手は必ず情報を省略するのです。

例えば話し手が「昨日、渋谷で友人とお酒を飲んだ」と言ったとします。昨日と言ってもそれが何時なのか、渋谷と言ってもどのお店なのか、詳細は省略されています。普段私たちは「何が省略されているか」をわざわざ意識しなくてもコミュニケーションを成立させています。なぜ、情報が省略されていても理解できるのでしょうか?

それは、話し手の言葉に、聞き手の持っている記憶が反応して、省略された部分を自動的に補完しているから。「昨日、渋谷で友人とお酒を飲んだ」と聞くと、聞き手の記憶にある渋谷のイメージや以前行ったことのある居酒屋のイメージが湧き、実際には断片的な情報しか伝わっていないのに理解したと錯覚を起こしてしまうのです。しかし、このときの話し手と聞き手が思い浮かべている「イメージ」は異なります。

こうした話し手と聞き手の思い浮かべるイメージのギャップを、普段のコミュニケーションで自覚していますか?表でやりとりしている言葉(ボール)に気を取られ、自分や相手の記憶の中で起きていることに注意が向いていないのではないでしょうか。これこそコミュニケーションミスの原因なのです。

意識の矢印を
「相手の記憶」に向ける

コミュニケーションミスは「相手の話を理解したつもりになった」ときに誘発します。それを防ぐためには、「意識の矢印」を相手に向けることが重要です。相手の話を聞いているときに自分の意識の矢印が相手の記憶に向いているのか、または自分の記憶に向いているのかを自覚し、コントロールするようにしましょう。

「昨日、渋谷で友人とお酒を飲んだ」という上述の例では、聞き手の意識の矢印は、自分の記憶に向いている状態でした。つまり「渋谷で友人とお酒を飲んだ」という話を聞いて、聞き手が脳内で勝手に居酒屋の映像を思い浮かべている状態。これは、意識は自分にしか向いていないのに相手の話をわかったつもりになっています。こういうときに、コミュニケーションミスは起きるのです。

逆に意識の矢印を相手の記憶に向けるということは、相手が発した言葉の奥にある「その人の記憶」に意識を向けるということ。相手の記憶に意識の矢印を向けることができれば、当然ながら不明点が出てくるので、自然と質問につながります。そうやって相手の記憶を深く聞いていくとズレは徐々に小さくなり、コミュニケーションミスの危険性が低くなっていくのです。

「答え」より
「応え」を聞く

コミュニケーションミスを防ぐ方法がわかったところで、ここからはコミュニケーションを円滑にする具体例を挙げましょう。それは、「答え」と「応え」の違いを知って行動に移すこと。「答え」は言葉として発せられた明確なものであるのに対して、「応え」は表情や仕草、間合いなど言葉にならないものも含めた曖昧なもののことを言います。

また、「答え」はこちらが質問した際に相手から出てくるものであるのに対し、「応え」は常に発露しているもの。事実関係のズレを正したいのであれば「答え」に注目していればいいのですが、深いコミュニケーションをするには「応え」に注目することが欠かせません。

この「応え」をとらえるには、話している最中も含めて、相手に意識の矢印を向ける必要があります。言葉にならない相手のちょっとした変化、言葉のトーンや大きさ、抑揚に注目することで「応え」をとらえることができます。

沈黙を埋めるな。
それが重要な「応え」

「応え」に注目できるようになると、多くの人が苦手とする「会話の沈黙」にも耐えられるようになります。

例えば、商談クロージングの場面。購入する際は、しっかりと説明を受けた上で、最終的な判断をどうすべきか必死に考えます。ダメなセールスほど、相手が黙り込んだら「最後の一押しだ」という焦りから会話をして、真剣に考える時間を邪魔してしまいます。これは、自分に意識の矢印が向いている証拠とも言えるでしょう。

売れるセールスは、相手の「応え」を的確にとらえ、その沈黙を待つことができます。自分の商品やサービスに自信があり、最終判断は相手にお任せ。意識の矢印を相手へ向けているので、焦りや不安もありません。沈黙に「答え」はなく、言葉を発しない状態そのものこそが、明確な「応え」なのです。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。