「気になる人から好きな人に」変わるのは、きっとこういう時。

ホワイトデ──

すでに数日前に過ぎ去った、一年に一度のイベント。

この言葉に対する社会や周囲の熱量って、バレンタインほどではない気はするけれど、1カ月前に好きな人や気になる人に思いを伝えた女子にしてみれば、内心ハラハラどきどきだったんじゃないかと思う。

私も、以前から気になっていた会社の先輩にチョコを渡したのだけれど、ホワイトデー当日には何もなく。私のハラハラは、まるで紙吹雪のようにあえなく散っていった…。

「へぇ、そっか。先輩モテるから、きっといろんな人から貰ってお返しが大変だったのかもね」

休日、同期のマリコと久々に外で会った。平日はオフィスワーカーが行き交う通りに面したカフェのテラスで、ホワイトデーのことについてボヤいたら、遠回しになぐさめられたのだった。

彼女の優しさに感謝しつつ、飲んでいるコーヒーがいつもよりも少しだけ苦くかんじた。

「マリコは?」

あっ話してもいいの?というようなニヤケが、彼女の顔に一瞬パッと浮かぶ。

マリコには、3歳年下の彼氏がいる。今まで落ち着きがある大人の男性とばかり付き合っていたので、聞いた時は驚いたけれど、今のところ順調そう。面倒見がいい彼女には、相性がいい相手なのだろう。

「ディナーに連れてってくれて、お菓子もくれたんだ」

そう言って携帯で見せてくれたのは、太陽の光も通り抜けてしまいそうな透明感がある、宝石のような琥珀糖だった。

「彼、センスいいね」

「綺麗だよね。なんだか食べるのもったいなくて。ネットの記事読んで買ってくれたみたいなんだ」

「いいなぁ」

唇から漏れた私のひと言に、マリコは嬉しそうに微笑んだ。

帰り道、クライアントから招待されているイベントの資料を会社に置いてきてしまったことを思い出し、取りに行くことにした。明日までに確認しておきたいことがある。

オフィスに戻り、自分のデスクの引き出しを開けると、すぐ手前には小さな箱が。

手にとって開けてみると、雪のように白いトリュフが6つ、お行儀よくおさまっていた。

「えっ…」

予想していなかった小さな送りものを見つめながら、自分の頬が赤くなっていくのを感じた。

一粒とって食べてみると、チョコの甘さが口の中に染みわたった。

「美味しい…」

ホワイトデ──

このイベントに対する盛りあがりや感心は、バレンタインデーに比べるとあまりないかもしれない。過ぎてしまえば、また来年まで、よほどのことがない限り考えることもないかもしれない。

私もこれまでは、ホワイトデーをそれほど重要視しない一部の人たちと同じだった。

でも、今日知ることができた。このイベントは、一ヶ月前の自分の気持ちがちゃんと相手に届いていて、相手もそれにちゃんと応えてくれたことを確認できる、特別な日なのだと。

この小さな気づきだけで、いつもと変わらない週末が少しだけ華やかになった気がした。

窓の外にある桜の木に、そっとついているツボミをみて、心がスッと軽くなる。

春はきっと、もうすぐそこ。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。