NYの即興音楽シーンを牽引するドラマー「Billy Martin」
※これは、7月に開催したイベントの直前に行われたインタビュー記事です。記事の最後には、イベント開催時の様子を記録した映像もあるのでチェック!
ニューヨークのジャムバンドシーンを牽引したバンド、Medeski, Martin & Woodのドラマー、ビリー・マーティンが来日!
7月12日(木)〜7月14日(土)まで、池尻大橋BPMで3夜連続開催された360°セッション『FRUE & BPM presents ~Rhythm Sound and Magic~ feat. Billy Martin vs』にも出演。直前に、ガッツリお話を聞きました。
――8年ぶりの日本です! 今回は日本人アーティストと一緒にフロア中央に集まって360°セッションする実験的なライブになりますが、率直にどう思いましたか?
WOW! パーフェクトな環境だよ! まったく新しい体験で楽しみにしてる。本当に待ちきれない。
――久しぶりですから、目的もたくさんあったり?
イサム・ノグチ庭園美術館に行こうと思ってるよ。あとは、古い友達と再会して、新しい友だちに出会って、何が変わったのかを確認したい。新たな日本とのつながりもつくって、次は家族を連れてきたいんだ!
――ぜひぜひ!
さて、ビリーを知らない人のために、ちょっとだけ紹介をしたいと思います。
1963年生まれ、NY出身、ヒップホップ創世記をリアルタイムで体験したドラム・パーカッション奏者であり、80年代からはダウンタウンの地下ジャズシーンで活動、アート・リンゼイやジョン・ゾーンの作品にも参加。91年にMMWを結成しジャムバンドブームを牽引した代表的アーティストの一人。
予定調和ナシで楽しむ“即興”が好きな人にはたまらない、貴重な存在なのです。
――あらためて、これまでのキャリアについてお聞きしてもいいでしょうか。
11歳から18歳までロックバンドとビッグバンドでドラマーをしてたんだ。1980年代になって、ドラマーズコレクティブっていうドラムの学校や、Lower East SideにあるSOB'sっていうクラブとか、いろんな場所でブラジルのサンバやパンアフリカンミュージック、パーカッションを見るようになった。
当時、1980年代前半は、ちょうどNYのダウンタウンで、Bob Moses、Jaco Pastorius、Bill Frisell、Naná Vasconcelos、John Zorn、John Lurie、Jim Jarmusch、Spike Leeなんかと出会った頃でもあって、その時にすっかり人生が変わってしまったね。
――様々なジャンルの個性的な人と交流していますね。最初からドラムに興味があったんですか?
音楽を作り出す道具すべてに惹かれていたけど、とくにドラムが得意で仕事をもらうようになったんだよね。ほかの楽器でも作曲してみたけど「極めた」とまではいかなかった。ドラムセットとパーカッションについてならそう言えるかなー。ははは!
――そんなビリーさんにとって、とくに影響を受けたプレイヤーはどんな人なんでしょう。
Milford Graves、Elvin Jones、Stewart Copeland、Dannie Richmond、Max Roach、Ed Blackwell、Jack DeJohnnette、Roy Haynes、Jon Bonham、Mitch Mitchell、Zigaboo Modeliste……、キリがないよ!
――ジョン・ボーナム、ミッチー・ミッチェル、スチュアート・コープランドなどは耳馴染みのある人も多いかと。オールドスクール・ヒップホップやリズムマシンからどんな影響を受けたのかなども、気になりました。
最初は、Grandmaster Flash & The Furious Fiveのアルバム『The Message』だね。
それから、Beastie Boys、Run-D.M.C.、Public Enemy、Wu-Tang Clan、A Tribe Called Quest、KRS-One、De La Soul、初期のLIL' KIM、Busta Rhymes、Mos Def、TLC、Craig Mack……。
70年代から90年代にかけてのR&Bもよく聞いた。多すぎて思い出せないけれど、その頃の名曲の数々を作ったプロデューサーやラッパーからかなり影響を受けてる。ぼくのドラミングに大きく反映されているよ。
――生ドラも打ち込みもなんでも好き。では、最近はどんな音楽体験に衝撃を受けました?
共演した経験で言うと、Mark Guiliana(ドラマー)や、MonoNeon(ベーシスト)は、かなりクールだったよ。
――MonoNeon! ファッションが奇抜で好きです。演奏もすごいですよね。
あとは、Bill Orcuttというフィラデルフィアのギタリストと対バン形式で公演をしたんだけど、彼のスタイルは最高だね。パンクロック的なんだけどアブストラクト。ノイズ・ギターとボーカルがメインで、リズム体験というよりは「音」の体験。
――調べてみました。彼もそうですが、みんな変態って言われるようなタイプなのかなと。
ははは。ブルックリンにあるパイオニア・ワークスという場所で行われた、ブリオン・ジシンの作品『Dream Machine』を再現するコンセプトのパフォーマンスで、モロッコで活躍しているぼくの友人、The Master Musicians of Joujoukaが演奏するのも見たんだけど、彼らもいつ見てもすごくリズミック。見事な超越体験だね。
――そのほか、たとえば10代や20代といった若い世代に驚かされたことや、感動したこともあれば。
そうだね、アンダーグラウンド・ダンス・ミュージックやヒップホップ、実験的エレクトロニックなど、独特の才能を感じさせるものをたくさん耳にする!
――ビリーの活動は、近年、演奏者、画家、インスタレーションと多岐にわたります。ここ数年関わったプロジェクトのなかで、とくにコレ、というものは?
NYのソーホーにある美術館、ザ・ドローイング・センターで、ダウンタウンのミュージシャンと一緒に「Drawing Sound」っていう3日間のイベントをやったんだ。
今度セッションするIkue Moriや、John Zorn、Cyro Baptista、Chris Cochrane、Anthony Coleman、Annie Gosfield、Ned Rothenberg、Alarm Will Sound……。
それから、John Medeskiやぼくの生徒たち、Hal Wilner、Paul Auster、中馬芳子も!
そういうグレイトな場所でぼくのアートと音楽をシェアできたのは本当に素晴らしい体験だったよ。
――こちらもノージャンルというか。作家さんもいますね。
ぼく自身「Disappearing」という巡回展に画家としても参加していたりするしね。そのときのオープニングは、家の裏庭に建てたスタジオ兼イベントスペースのThe Herman House Galleryでやって、音楽のパフォーマンスもした。
『Disappearing』という名前でソロ・レコードも作ったし、同じ名前で抽象画のシリーズも描いたんだ。その巡回展でCDの販売もした。これはアブストラクトな方向の活動における新しい試みだね。
雰囲気重視とか隠喩を多用するとかっていう意味じゃなくて、自然との関わりとか、禅の考え方なんかを念頭に置いた美術と音楽へのアプローチなんだ。そのアプローチ方法と創作物がどういう関係にあるのか、またオーディエンスがその空間にいて何を感じるかということを探ってる。
――ちなみに、前回来日してから8年と、少し時間が空いているので、今MMWの活動状況がどうなっているのか気になっている人も多いかと。
『Omnisphere』っていうアルバムが9月に出ることになってるよ。クラシックの室内楽ミーツMMWという感じ。
それから、まだ名前は決まっていないけど、来年リリースするためにレコーディングをする予定になっているものもある。その制作過程はドキュメンタリー作品として発表するつもり。
グルーヴとインプロ(即興)でいっぱいの、最高傑作のひとつに入るに違いないと思うよ。
――それは楽しみですね! では、ビリー個人の今後についても教えられる範囲で。
最近、1971年にOrnette Coleman、Ingrid Sertso、Karl Bergerによって設立された、クリエイティブ・ミュージック・ファンデーション(別名Creative Music Studio)のプレジデントに任命されたんだ。
――すごい!
この伝説的な組織で、インプロビゼーション(即興)に関する教育的なワークショップやコンサートを企画してるんだ。これは本当に名誉なことで、心から楽しんで取り組んでいるよ。
引き続き、絵画制作と作曲も続けていて、映像作品と映像音楽は将来もっとやっていきたいと思っているんだ。坪田義史監督の『シェル・コレクター』って映画にも音楽を提供したんだけど、知ってる? すごく良い作品だよ。
――多才すぎて驚きます。今回の360°セッションでは、3日間それぞれ違う日本人の音楽家と共演することになります。ビリーさんは、過去に巻上公一さんやイクエ・モリさんとセッションをしたことがありますが、どんな印象がありますか?
どれも素晴らしい体験だったね。彼らと演奏するのは大好きなんだ。いつだって新鮮で、驚きがある。ぼくもそういう演奏をしなければいけないといつも思ってるよ。
――予定調和では辿り着けない音楽ですよね。では、日本の伝統的な音楽や、ルーツミュージックとの接点や興味についてはどうでしょう。
ぼくは音楽や映画を通じてものごとを理解することが多いんだ。日本の伝統をもっと深く学びたいと思っているよ。自己流で禅を勉強したし、神道の伝統も好きだ。
大工仕事や、指物(板を組み合わせてつくる家具などの総称)の技術を少しかじってもいる。ニュージャージーの自宅に、その技術を使った茶室をつくったしね。
食べものも好きだし、建築、庭、デザイン、スタイル、そのほかいろいろ日本のアートは大好き。今回は、イサム・ノグチの作品をいろいろ見てまわりたいと思っているんだ。彼の人物像とアート、哲学について学びたいし、そこからインスピレーションを受けて自分の音楽にも反映させられたらいいなと思う。
今回は初めて沖縄にも行くので、その音楽と文化についても知りたい。日本全国各地の音楽と伝統について学びたいんだ! 教えてほしい!
ちなみに、ぼくはコーヒーの代わりに、毎日ほうじ茶を飲んでいて、1日おきに抹茶だって飲んでます。ぼくはラッキーだよ!
――日本人よりも日本人らしいかもしれません。お茶の代わりにコーヒーを飲んでいる人も多いですよ。NYで生まれ育って活動してきたビリーから見て、日本の音楽や文化芸術を楽しむカルチャーやスタイルについて、違いを感じることはありませんか?
正直あんまり気にしたことはないけれど、NYで人気が出たムーブメント、例えばヒップホップ、ジャズ、パンク、映画、ファッションといった文化が、いかに日本でも愛されているかということを感じた経験は結構ある。
一方でぼくみたいに、小津安二郎、黒沢明、新藤兼人といった映画監督に夢中になる人もいる。日本映画に関しては巨匠が多すぎる!
――嬉しいです。
ぼくはアンダーグラウンド・シーンに惹かれるんだけど、日本の映画や音楽がこっちにいるぼくたちに大きな影響を及ぼしたことは間違いないよ。評論家みたいにうまくは説明できないけどね。
ぼくらはみんな同じ人間であり、日本人だとか、ニューヨーカーだとか、どこの人かによる違いはあまりないんだ。それぞれの違いに注目するのはあまり好みじゃない。それより、一緒に創り出す喜びや、一人ひとりがスタイルを持ち寄ってお互いに影響を与えあうことが好きだ。
もしかしたら日本では、個性を伸ばすことよりも集団行動を乱さないことが良しとされる価値観に慣れている人たちが結構いて、その場合、今言ったことは少し難しいことなのかもしれないけれど、ぼくが影響を受けた偉大なアーティスト、作曲家、映画監督のように、力強い独自の表現をする日本人は間違いなく存在する。
――けっこう日本通ですよね。初めて日本にきたときの印象は?
食べものやライフスタイル、効率の良さをはじめに、すべてにおいて細かいところまで配慮が行き届いていている具合がハイレベルだと思った。
2000年代は、息子ふたりと家族がいて忙しかったこともあって、ツアー中いろいろなことに目を向ける余裕がなかったんだけれど、日本でコンサートをすると、観に来てくれた人みんながとても温かく迎えてくれたよね。Medeski, Martin & Woodの音楽を受け入れてくれたことをよく覚えているよ。
『We are all connected』という曲を演奏しているときに泣いているファンが何人かいたんだ。それには感動させられたね。若い人たちと一緒になって、心が開かれていくような感覚を覚えたんだ。
それから、それ以前にはあまりいなかったように思うんだけど、自然を尊び、昔の生活習慣を見直そうというタイプの若い世代に出会って、希望を感じた。
――若い世代に対して今はどんなことを感じていますか?
どの世代もみんな同じ。いい人たちばかりだよ。ただ、ぼくらは彼らに対して「自分から諦めるな!」ってリマインドし続けるべきだとは思ってるね。
偉大な人とか、優秀な人になる必要はないんだけど、今は政治的な混乱とか、情報過多とか、いろいろな面で難しいときだと思うんだ。面倒な出来事が起きているけれど、みんな生き残っていかなきゃならない。でも、もしそれができれば、ぼくたちは今よりも良くなっていけるはずだと思っている。
ぼくには17歳と14歳の息子がいてさ、彼らを見てるとたまに「一度にひとつずつ、集中してやらないとダメだよ」って思ったりすることがあるんだ。禅の精神てやつ。ただし、それは彼らだけじゃなくて、自分に対しても同時に感じている不満なんだよね! ははは。
――肝に銘じます! ライブ、楽しみにしていますね。
arigato!
ビリー・マーティンは、7月12日(木)から14日(土)までの間、池尻大橋BPMで開催される360°体験型の音楽イベントに出演。会場の中央にセットを組み、3夜連続でソロプレイとセッションを披露。
出演者も豪華で、ビリーの描いた絵画作品や、それらをモチーフにしたグッズも販売。当日の様子は動画でチェック!