【58分間、無音】だけど、これは音楽エンターテイメント
音の無い世界で生きる人たちがいる。耳の聞こえない聾(ろう)者たち。彼らに楽器が奏でるメロディーや歌声は聞こえない。しかし、決して音楽の無い世界に生きているわけではない。
彼らの中には、肉体の内側から生まれてくる音楽が流れている。今まで広く知られることのなかった“聾者の音楽”に迫ったのが、この度公開される映画『LISTEN リッスン』だ。
引き金となったのは、
“メロディーのようなもの”
『LISTEN』の監督を務めたのは、聾者の親を持ち、自らも小学2年生まで聾学校に通った牧原依里。
大学の時に出会った手話詩に、「リズムではない“メロディーのようなもの”が視えた」という彼女は、聾者の音楽の映像化を模索するようになる。
その中で出会ったのが、この映画のもう一人のキーマンであり共同監督である舞踏家・雫境(DAKEI)だ。彼は日本聾者劇団を経て、舞踏の世界に入り、現在は世界を舞台に活動をつづけている。
二人がともに聾者の音楽を追求していく中で、この映画は生まれた。
それは、音楽だ!
『LISTEN』の上映時間は58分。その間、作品は完全に無音である。スクリーンでは雫境をはじめとする出演者たちが全身を駆使し、音楽を表現していく。ここでパントマイム的なパフォーマンスを想像するのは、イメージとして不十分だろう。単に視覚的な刺激だけではない何かが、スクリーンから響き伝わってくる。
出演者のひとりはこう語る。
「初めて音楽を習った時は嫌いだった
でも時が経つにつれて大人になって
その気持ちが変わってきた 何故なら
音楽というものが何なのかに気づいたからだ
心から自然と生まれてくる感情が
音楽を視た時の感情と同じだった」
音とは何か? 音楽とは何か? 無音の58分間が終わった後、きっと自分自身に問い直すことになるだろう。
『LISTEN リッスン』
共同監督・撮影・制作:牧原依里 雫境。
配給:アップリンク。5/14(土)渋谷アップリンクほか全国順次公開