初めてなのに初めてじゃない。それってすごくピースフル!――Charaインタビュー
想像妊娠で身籠もったという第3子的なアルバム『Baby Bump』は、グルーヴィーなサウンドと聴き心地のやさしさが絶妙なバランスで両立している必聴盤。Spotifyで聴けるので、まだという人はチェックを!アナログ盤も3月13日にリリースされています。フレッシュなのに91年デビュー当時のサウンドにも近い雰囲気があります。
野外フェスへの出演も続々決定。3月7日には、個性的なアーティストがラインナップされ話題になったWOWOWが主催する初のキャンプフェス「Fuji & Sun '19」への出演も発表されました。そのコンセプトは、Charaさんの活動にも共通するところが。
アンダーグラウンドから、メジャーアーティストまで、世代やジャンルを超えた体験を。これを言うのは簡単ですが、体現するのは至難の業。彼女はそれを実践しています。そこで、これまでの活動や、アルバム、フェスについて、ご本人にお話を聞きました。
――世代やジャンルの垣根を超えることについて、意識していますか?
うーん。今って、むかしよりほんとに音楽をチェックしやすいし、東京にいなくても、自宅録音でも、すっごいミュージシャンがいっぱいいるな、っていうのが結構あるじゃない?
私は本当に音楽が好きだから、そう思ったものは「これ、みんなちょっと聴かない?」ってすすめるんですよね。大好きな人には「この曲すっごくいいよ!」って聴かせるじゃないですか。そういう役割を、すごく、果たしたいなって思ってるんです。
アルバムも、そういうノリはある。だから、純粋にどれだけ音楽が好きかっていうのが中心にあるだけな気がしていて。
私はソロだからいろんな人とやっていいし、できる。だから、世代やジャンルの垣根を超えるっていうのは、ふつうのことなんですよ。素敵な才能のある人がいたら「一緒にやらない?」って。
――「Fuji & Sun '19」にはどんな印象を?
むかしのTV番組でいう「夜のヒットスタジオ」みたいな感じ。外国人も出て、アイドルも出て、ロックミュージシャンも出て、演歌の人も出るような。まあ、当時はヒットしてる人が多かったんだけど、いろんな人がいたから、それを孫の世代からおじいちゃんおばあちゃんまで、お茶の間で一緒に見れた、みたいな。
いろんなジャンルがあって、いろんな人が出るのはすごく好き。さっきOvallのみんなとも話してたんだけど、マテウス・アサトさんていう、ブラジル出身のすごくギターがうまい人が出るんですよ。
ふつう呼ばないよね!すげー!みたいな(笑)。
マテウス・アサトは、ブラジル出身のギタリスト。アルバムは1枚も出していないが、Instagramのフォロワーは80万人以上。スタジオギタリストとして世界的に活躍している。第58回グラミー賞新人賞にノミネートしたTori Kellyや、イギリスを代表する歌姫、Jessie Jのギタリスト。大阪、京都、名古屋、東京を回った2017年の初来日ソロツアーは瞬く間にソールドアウト。
ジャンルは違うけど良い。そう言える人たちが多いから、今までフェスに行ったことがない人が、そういう人を目当てに来る可能性もあるよね。そういうきっかけにもなるから、個人的にも好きというか。
――アルバム参加メンバーも同様に、新進気鋭のアーティストを積極的に起用している印象があります。
サポートベーシストの祥太くんはついこないだまで23歳で、ドラマーの屋敷豪太さんは53歳。今までは、オルタナティブなロックミュージシャンも多かったけど、『Baby Bump』はわりとグルーヴィーなものも演奏できるメンバー。
TENDRE(テンダー)はマルチプレイヤーで才能があるし、コーラスは大好きな高橋あず美ちゃんていう素晴らしいシンガー。LUCKY TAPESのKaiくんは、 TENDREと同じレーベルで、mabanuaはorigami PRODUCTIONSっていう、いい感じのミュージシャンがたくさんいるインディーレーベルに所属していて、もう10年くらいの付き合いです。屋敷豪太さんはレジェンドだし……、だから、すごく楽屋のワイワイしている感じもよくて、それがよく出たとは思う。みんな、一緒にやりたいって言ってくれた人たちだし、世代を超えた音楽好きなんですよね。
メジャーだと、プロデュースをするところにオファーをして、マネージャーを通して……って、いろいろあるんだけど、そういうのはアーティストとしては薄まるから。私は直接コミュニケーションを取るんです。興味があったら、足を運んでライブを見るとか。
今は、若いときにあったらそりゃ便利で使うだろうな、っていうものがたくさんありますし。
――例えば、どんなものですか?
むかしはiTunesとかもないしさ、Apple Musicもないし、そんな頃から活動してるんだけど、便利なものは50過ぎのおばちゃんでも使ってるというか(笑)。
私がデビューした頃(1991年あたり)は、町に1~2件はあったアナログ盤を扱うレコード屋さんもだんだんなくなってきて、CDでデビューした時代なんですね。盤がなくなるかもね、なんてことはその頃から言われてて。
息子がすごく音楽を愛している子なんですけど、見ていると今あるものが当たり前な感じでね。世代が違うので、レコードを見てもこれなに?って感じだったり。うちにあるからたまには聞くけど、今はレコーディング機材だって、変わってきているじゃないですか。でも、それがおもしろいなって。私はもともとルーツを掘って聴くのが好きだし、調べるのが好きなタイプだから、便利なものは使うんですよね。
新しい作品を聴くと「あ、この人って絶対あのミュージシャンのこと好きだよね!」っていう感覚になるし、音楽って、ライナーノーツやクレジットを見て「これはあのアーティストと同じエンジニアだ!」って思うこともあって。そういう聞きかたや楽しみかたもあるから、こんなのがむかしあってよかったよ、って。
世の中に新しい音楽がそんなに出てくるわけじゃないし、耳が進化するわけでもないけれど、むかしとは違っていろいろなものが便利になってきているから、いいものは共有するんです。若い人に昔のディスコの曲とかを聞かせると新鮮みたいで、なんかおもしろいなあと思いますよ。だから、若いミュージシャンとクリエイティブな作業をするのは、逆にやりやすいんですよね。私もわかんないところはあるんですけど。フフフ。
音像というか、音のお絵描きが好きだから、エンジニアと一緒に、研究して、トラックダウンやマスタリングっていう最後の作業までこだわってやっていたりもするし、そういうことが、結果に繋がっているんじゃないかなって。
――新しいアルバムの楽曲は、ダンサブルでリラックスもできる絶妙なバランス感なので、外で聴いても気持ちよさそうですよね。演奏する側としても野外フェスでの演奏に特別な開放感を感じますか?
それはもちろん感じますよ。わたしはローラーディスコ出身だし、チアガールだったので、踊るのが大好きなんですね。それに、人がたくさん集まると、すごくワクワクしませんか?しかも、みんなが何かを求めてきていて、それが音楽で、そこでいろんなことを共有してる。なんか「初めてなのに初めてじゃないね!隣のあなた!」みたいな(笑)。それってすごくピースフルじゃないですか。
みんな、日々夕陽を見てきれいだとか思うわけだけど、夕陽が落ちていくところや星空を一緒に見て味わうとか、ね。それだけでもいいと思うんですけど、そこに音楽がある。そういう貴重な日。だから、すごくロマンティックなことでね。味わいかたですよね。
じつは、小学校3年生の頃に富士山の頂上まで登ったことがあるんですよ。だから、富士山には思い入れがあります。Charaっていうニックネームがついたのは、9歳のときで、まだ名前ができたてホヤホヤの頃。シャイな性格だったんですけど、一度決めたらやれるところまでやりたいって感じでわりと集中力がある子どもで、頂上までゼッタイ行く!って思ってた。友だちや先生と登ったんですけど、途中で女の子は誰もいなくなっちゃって。でも、私一人だけは最後まで登ったんです。それってすごいじゃないですか。自分のなかでは初めての達成感だったというか。自信がつきましたよね。今でもあれはやっといてよかったなあって思います。それ以降は登ってないんですけどね。登れるのかなぁ……(笑)。
富士山のまわりの湖や温泉、キャンプにも行くし、東京にいても、今日は富士山見えるねーなんて日常的に会話に出ることもありますし。海でサンセットをゆっくり楽しむのとかも好きなんで。山もいいですよね。動物や虫も多いけど、ざわざわがあるし、お騒がせしてすいません、って気持ちにちょっとなって、神様おじゃましまーす!みたいな。
――いろんな干渉がありますよね。
それは音楽フェスも同じですよね。仕込みが難しいんですけど……。大きなスピーカーでも楽しみたいけれど、暴力的に音が大きければいいってわけではないし、どんな音でもいいわけではないですから。やっぱりすごく気持ちいいっていう感覚を味わいたいわけなので。
夕陽やお星さまキラキラだといいなー、なんて思ったりはしますね。
――タイムテーブルの発表が楽しみです。最後に、ファンに一言メッセージを。
毎回ベストライブにしたいと思っているので、アルバムの延長もありつつ、もちろん今までの曲も厳選してやります。一緒に楽しみたいですね。
自然のリバーブがあるなかで、人工的にエフェクターとかをかけてこだまを響かせたりして、そういうのもなんとも言えなくおもしろいしね(笑)。
Chara。1991年9月『Heaven』でシングルデビュー。一貫して「愛」をテーマに曲を創り、歌い続けている日本で唯一無二の女性アーティスト。1996年、女優として出演した 岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』が公開され、劇中バンド YEN TOWN BAND のボーカルとして参加し制作されたテーマソング『Swallowtail Butterfly ~あいのうた~』は大ヒットを記録。1997年のアルバム『Junior Sweet』は100万枚を超えるセールスを記録した。
2018年12月19日に最新作『Baby Bump』をリリース。2019年3月13日にはそのアナログ盤も発売。5月、静岡で開催される「Fuji & Sun '19」への出演も決定。