「FUJI ROCK」出展を取り止めたワケ/「KEEN JAPAN」代表・竹田氏インタビュー【前編】
音楽好きにとっては夏の風物詩ともいえる存在の「FUJI ROCK FESTIVAL」。
昨年は新型コロナウイルスの影響で開催中止を余儀なくされた日本最大級の野外フェスが、2021年、待望の復活を果たした。が、開催の約1週間前、フジロックファン、そしてアウトドア好きを驚かせる衝撃的なニュースが飛び込む。
「KEEN、フジロックへの出展中止」──。
長年にわたってフジロックのパートナーを務め、会場でも圧倒的な着用率を誇るアウトドア・フットウェアブランド「KEEN(キーン)」が、恒例だったフジロック会場でのブース出展を取り止めたのだ。
「Do the right thing(正しいことをやる)。創業以来、会社もブランドも、この一点を大切にしてきました」。
そう語る「KEEN JAPAN」代表・竹田尚志氏に、決断に至るまでの経緯や今後のアウトドアシーン、そして、ブランドの未来について話を聞いた。
大阪市阿倍野区生まれ。「甲南大学」を卒業後、渡米。「サウスカロライナ州立大学院」にて国際経営学修士を取得。大手会計事務所にて米国上場企業の監査やM&Aを手がけ、2003年の帰国後も多くの企業再生や事業立ち上げに携わる。2013年、「キーン・ジャパン合同会社」のジェネラルマネージャーに就任、現在に至る。災害支援ネットワーク「OPEN JAPAN」をはじめ、数々の社会貢献団体を支援。自らも「NPOみらいの森」理事、「Us 4 IRIOMOTE」代表など、ソーシャルアクティビストとしての顔を持つ。
「人こそがブランド」
守るべき大切なものとは?
──「KEEN」の「FUJI ROCK FESTIVAL '21」への出展取り止めは、フェス、アウトドア、ファッション業界内・外で大きな話題となりました。その決断に至るまでの経緯を教えてもらえますか?
ギリギリまで悩んだ末の決断でした。発表したのは1週間くらいまえでしたね。
ただ、フジロックのオフィシャルパートナー......つまりはフジロックに賛同する企業であることに変わりはないんですよ。コラボレーション商品のリリースも実施していたし、フジロックというフェスに賛同しているという意味での位置付けは何も変わってないんですね。
つまりは、新潟・苗場の会場にブースを出展するかどうかだけがポイントでした。
当然ながら、理由は国内の新型コロナウイルスの感染拡大です。
フジロックではさまざまな感染予防対策を講じていましたが、新規感染者がどんどん増えている時期に、100%安全とはいえない状況のなかに社員を送り出すことの意味とリスクを天秤にかけて出展を断念しました。
──残念に思ったブランドのファンも少なくなかったように感じますが、現地での運営をイベント会社に依頼する方法もあったのでは?
いや、それはないですね。
“ブランド=人”だと思ってますし、これまでも自分たちの手で作り上げることを信条としてやってきて、血の通ってない人が前に立つことをよしとしてこなかったので。
「それなら、行くこと自体をやめよう。ブース出展を断念しよう」と。
──社内に出展断念の決定を伝えたときの反応は?
みんなガッカリしたとは思うんですけど、理解はしてくれましたね。
今年、フジロックが開催されると決まってから、社内でもずっと議論を重ねてきました。
最初は、これまでと同様、商品も見せるし、お客さんとも触れ合う内容を考えたんですが、状況的にそれは実現が難しいだろう、と。それであれば、商品はもっていくけれども、なるべく人と人が話さないスタイルはどうだろうとプランを組み替えたり。
最後まで可能性を探っていたのは、“無人”での出展でした。
ストーリーボードを展示して、シューズが買える自動販売機を置いた無人のブースを設置することも考えたんですが、それでも人がいかないわけにはいかないということで......粘ってはみたんですけどね。
──そもそも「KEEN」とフジロックのパートナーシップはいつからですか?
2015年からですね。はじめてブース出展をしたのは、子連れのフジロッカーが集うエリア「KIDS LAND」で、キッズシューズのレンタルをしたのが最初ですね。
──長きにわたってフジロックをはじめとするさまざまなイベントをサポートし、ブランドとしても都市型フェス「KEENFEST」を2019年に開催しましたが、今後、野外フェスやイベントはどうなっていくと考えていますか?
2019年に初めて代々木公園で開催した「KEENFEST in Spring Love 春風」は、2020年は直前に緊急事態宣言が初発令されて、急遽、デジタル配信に切り替えました。家を出ることはできないけど、自宅で家族と安全に楽しんでもらえるフェスを届けようと。
その成功をきっかけに、「KEEN」ではデジタルコンテンツ配信に舵をとりました。
──ファンとのフィジカルなコミュニケーションを大切にしている「KEEN」にとっては、非常に大きな決断ですね。
「KEEN」というブランドの大きな柱のひとつが“together”という考え方です。
アウトドアブランドの多くは、ウェブや広告ビジュアルにアイガー北壁のようなところをひとりで登っているシーンなんかを使っていますよね。
でも、「KEEN」はそうじゃなく、家族だったり友人だったりとアウトドアを一緒に楽しむっていうのが重要なコンセプトのひとつなんです。
これからは、proximity……親密性というんですかね。その親密度がこれまでよりもさらに重要視されるようになって、大きかった輪がちっちゃい輪になっていくと思うんですよね。
そういう意味では、音楽的な要素もちょっと変わってくるのかな。モッシュピットに代表されるような、大人数での興奮だったりハイになる必要はないかなって僕は思っていて......。
もうちょっと少人数でも楽しめるようなものにいくんじゃないかなと考えています。
コロナ禍における
アウトドアシーンの変化とは?
──なるほど、ユニークな仮説ですね。では、今後のアウトドアシーンの変化についてはどう考えていますか?
いちばん大きいのは、コロナ禍でブームになったキャンプです。
キャンプは誰とtogetherするかというと、まずは家族です。圧倒的に家族で楽しむことが多いアクティビティなんですね。
つまり、子どもたちが自然に触れるキッカケになり、それをベースに育っていくわけですから、アウトドアだったりキャンプだったりを楽しむというカルチャーは、今後、小さくは絶対にならない。それがまずひとつ。
もうひとつは“アウトドアと旅の融合”です。たとえば熊野古道とか尾瀬を歩いてみたりとか、そういう傾向が強まるんじゃないかと思っていて。
登山でいうと頂上を目指す登山、つまり“ピークハント”を目的としている方たちも多いですよね。もちろん山のテッペンから見る景色も感動もかけがえのない体験。
だけど、山を含めて、自然を楽しむことにプラスしてローカルも楽しんでみるとか、体験そのものに価値をおいた楽しみ方っていうのも普及するんじゃないかなって。
──数年前からマーケティング界隈などでいわれる「モノ消費よりコト消費」に近い感覚でしょうか?
そうですね。さらにいえば、旅やアウトドアが、消費行動から再生の行為のひとつになるのではないかと考えています。
旅が“消費行動”であることは間違いないんですが、消費するだけでなく、その先に、自然を守ろうという意識が芽生えてくるという......これからのアウトドアシーンには、そんな新しい存在意義も生まれてくるように感じています。
【後編】に続く