「物欲がない人」にこそ知ってほしいプロジェクト「リプロ」に注目

クラウドファンディングを利用して「欲しい人に欲しいもの」を届けるサービスが拡充してきた今、新たな“セレクトショップ”のカタチが生まれようとしている。そこで扱われるアイテムは「欲しい人にとっては絶対に欲しいと感じるもの」ばかり。これまで世の中に存在していなかったアイテムや過去に大きなブームを巻き起こした伝説の逸品などをリリースし続けるプロジェクト「(re):pro」(リプロ)の現在の活動と未来に迫ります。

「バイオーダーできるセレクトショップ」
作り手と買う側の新たな関係性

2019年7月にプロジェクトをスタートさせ、その独特なシステムとラインナップにおける高いセンス&完成度が話題となっている「(re):pro」について、仕掛け人であるキュレーター・竹中祐司さんと「baseyard tokyo(ベースヤード トーキョー)」の館長である西田陽介さんにお話をお聞きしました。

「このシステムこそが、きっと未来のセレクトショップのカタチになる」──。

テクノロジーの進化やファッションシーンを取り巻く状況の変化、ユーザーのもの選びの視点や買い物の仕方が変わったことで生まれた、ものを作る側と買う側の新たな関係性について紐解いていきます。

©2019 NEW STANDARD

──まずは「(re):pro」というプロジェクトについて教えてください。

 

竹中祐司さん(以下 竹中):ずっと洋服のバイイングやデザインの仕事をしてきて、何か新しいアプローチでファッションを提案できないかって考えたときにクラウドファンディングっていうシステムに触れる機会があって、「あ、これはおもしろいかも」って。

 

──扱っているプロダクトは?

 

竹中:欲しくてもなかなか買えなかったもの。ここでしか買えないもの。それが「(re):pro」で扱うアイテムのテーマです。

 

西田陽介さん(以下 西田):竹中さんからこのプロジェクトの構想をお聞きして、すぐにうち(baseyard tokyo)でも「一緒にやりましょう」と。

 

──クラウドファンディングで出資者を募ってアイテムをリリースするという手法はすでに一般化していますが「(re):pro」ならではの特色は?

 

竹中:特徴は大きくふたつあります。

ひとつは、アイテムのサンプルを店頭で触ることができるという点です。多くのクラウドファンディングのプロジェクトではウェブ上でサンプルを公開して「こういう商品を作るので出資してください」という格好ですが、僕たちが「(re):pro」で作るアイテムは、店舗にきていただければサンプルを眺めたり触ったりすることができます。

実物に触れてみてはじめて伝わるプロダクトの素晴らしさって確実にあると思っていて、そこを大事にしたいなって。

 

西田:もうひとつはアイテムの希少性ですね、「ここでしか買えない」っていうレア感というか。

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「(re):pro」キュレーター/竹中祐司さん

竹中:これってセレクトショップの原点だとも思うんです。

20何年前にセレクトショップでバイヤーをやっていて、「このアイテムはほかのお店じゃ扱ってないよね」「この服は黒と茶色しかないから、赤で別注かけようか」って。

 

西田:プロジェクトのことを知らずにお店にこられて、サンプルを目にして「これ、なんですか?」って「(re):pro」の活動を知ってくれるお客さんもいますよ。

 

──制作するアイテムはどうやって決めているんでしょうか?

 

竹中:基本的には僕がキュレーターとしてアイデアをまとめ、いろんな方面とコミュニケーションをとりながら形にしていきます。

今は、まずはプロジェクトをできるだけ多くの人に知ってもらうためにキャッチーなファッションアイテムをメインにしていますが、今後はワイングラスだったりコーヒー豆だったり、ファッション以外のカルチャーのものも扱っていきます。

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「ベースヤード トーキョー」館長/西田陽介さん

──プロジェクト第一弾のアイテムですが、これは’89年公開のスパイク・リー監督・脚本・制作・監督をつとめた伝説的な映画『DO THE RIGHT THING(ドゥ・ザ・ライト・シング)』の“世界ではじめて”となるオフィシャルロゴTシャツですね。

 

竹中:じつは僕も知らなかったんです、これまでオフィシャルのロゴTシャツがなかったことを(笑) 古着屋さんにいくと「DO THE RIGHT THING」とプリントされたTシャツを見かけることもありますが、じつはあれはブート(非合法商品)だったようで……。

そもそも「DO THE~」は「正しい生き方をしよう」という意味のアメリカではよく使われるフレーズなので、映画とは関係ないメッセージTシャツの場合も少なくないんですが、2019年にスパイク・リーが『BlacKkKlansman(ブラック・クランズマン)』でアカデミー賞脚本賞を獲ったタイミングでもあったので「これはいいぞ」と。

 

──ミレニアル世代の間で80年代のカルチャーがブームであることを考えると、クラウドファンディングを利用しない通常の販売方法でも十分に売れるのではないかと思うのですが……。

 

竹中:そういう意味では“あえて”ですね。

おっしゃる通り、たしかにこのTシャツであればパッとオーダーがつくと思います。’80年代とかブラックカルチャーがブームの今なら、なおさら。でも「(re):pro」には、さっき言い忘れたテーマがもうひとつあって、それは「欲しいと思う人に届けたい」ということなんです。

「このTシャツが欲しいんだけど、どうやって買うの?」っていう“気持ちのこもった買い物”をしてもらいたいんです。

 

西田:あとはサステイナビリティを意識してのことでもありますね。

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──サステイナビリティ……ですか?

 

竹中:これからの時代、ものを作る立場の人間としては当然の義務だと思っています。

もちろん、ビジネスである以上、在庫をもつリスクがないというのも今回のバイオーダーシステムの大きなメリットではあるんですが、それはあくまでも“結果”で、そもそもの考え方としては無駄を出さないという思いが圧倒的に大きいですね。

 

西田:僕たちは、ものを作って、それを欲しい人の手に届けて、お客さんに喜んでもらって、その対価を得るのが仕事です。

この時代に、その一連の流れがいちばんスムーズに実現できるのが、クラウドファンディングを使ったシステムだと思ったんです。

 

──などほど。そういう意味では第二弾の「SEDITIONARIES(セディショナリーズ)」のボンデージパンツは「(re):pro」の思いやシステムにぴったりのアイテムですね。

 

西田:打ち合わせのときに竹中さんがボンデージパンツをはいてて、「それ、格好いいですねぇ」って会話からスタートしたんですけど(笑)

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竹中:ヴィヴィアン・ウエストウッドが「Vivienne Westwood」をはじめるまえ、SEX PISTOLSの仕掛け人のマルコム・マクラーレンと立ち上げた「SEDITIONARIES(セディショナリーズ)」の70年代に大きなブームを起こしたパンツのリメイクです。

昔はボンデージパンツ=パンクスタイルっていうイメージがあったけど、今はエイサップ・ロッキーとかリル・ウージー・ヴァートといったラップスターも愛用しています。

だから伝説的なアイテムではあるけど、すごく“今っぽい”アイテムかとも思います。

 

西田:僕たちが10代半ばのころ、このパンツはすごく尖ったエッジな人たちがはいてる記憶があったんです。

でも、今はその当時よりファッションの自由度は圧倒的に高くなっていると思うので、若い世代はもちろんなんですが、もしかしたらパンクのカルチャーをダイレクトに受けた年代の人たちは「わっ! 学生のころに欲しかったけど買えなかったやつだ!」って思ってもらえるかもしれませんよね。

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──続いての第三弾ですが……これまたマニアックでコアなアイテムですね(笑)

 

竹中:オールドBMXですね。一般的なBMXよりも高さがあるトールモデルで、このフレームはとにかく数が少ないんです。

80年代、BMXはダートのコースを走るための自転車だったんですが、あるメーカーが背の高い選手のために作ったのがこのモデルで、実際に試合で乗ってみたところ、まったくタイムが伸びなくてすぐに廃盤になっちゃったっていう(笑)

 

西田:でも、これが街乗りにはじつにちょうどいいんですよね。

 

竹中:ブレーキやギヤ周りには現代のパーツを使っているので、しっかり走れてしっかり止まれて、でも雰囲気はすごくあるっていう。まさに「(re):pro」にピッタリなアイテムだと思います。

さっきもお話ししましたが、今後はコーヒー豆、江戸切子のワイングラス、それからラジカセやポータブルのオーディオプレーヤーなどを予定しています。それから、まだ詳しくはいえないんですが、全盛期のころの“裏原宿”のアイテムとかも……。

これからもここでしか出会えない魅力的なものを作っていくので楽しみにしていてください。

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──ずっとアパレルのバイイングや販売に関わってきたおふたりからみて、お客さんの“もの選び”や“買い物の仕方”に変化はあるように思われますか?

 

西田:以前であれば「とりあえずセールだから買う」みたいなノリもあったと思うんですが、今のお客さんは、いくら安くなっていようが必要なものしか買いません。

ウインドウショッピングからの衝動買いっていう流れがなくなったように感じます。

 

竹中:だからこそ、今回のプロジェクトのようなバイオーダーシステムが今の時代には合っているんじゃないかなと感じています。

僕たちのようなものを作る側の人間も、誰が買ってくれるかもわからない当たり障りのないものを作るよりトンがったものを作れるし、「ベースヤード トーキョー」のような場所があれば、こだわって作ったものを、展示して、触ってもらうこともできる。

そしてもちろん、買ってくれた人は、ほかでは買えないものだから当然喜んでくれる……これって、売る側と買う側の、すごく健康的な関係性だと感じています。

これからは「(re):pro」のようなスタイルが、もの選びの、そしてものを買うときの一般的なスタイルになっていくんじゃないかなと思います。

竹中祐司/「(re):pro」キュレーター

原宿の人気セレクトショップ「no.44」の立ち上げに参加し、長年にわたってバイヤーを務めたのち、「VOGUE」編集部に所属。その後、ニューヨークへわたってフリーランスのファッションディレクターに。現在はブランドやショップのコンサルティング、バイイングディレクションなど幅広く活動している。

西田陽介/「baseyard tokyo」館長

株式会社パル所属。同社のセレクトショップ「CIAOPANIC」で約10年間にわたって販売員として従事。その後、社員教育の部署を経て、2018年10月よりアパレル、漫画、雑貨、フード、音楽などを幅広く扱う原宿「baseyard tokyo」の館長に就任。

『baseyard tokyo』

【住所】東京都渋谷区神宮前6-12-22

【電話番号】03-3486-5127

【営業時間】12:00〜21:00(日曜11:00〜20:00)

【WEB】https://www.palcloset.jp/shared/pc_pal/event/baseyard/

【(re):pro】https://www.re-pro.baseyard.tokyo/

Top image: © 2019 NEW STANDARD
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