フランスが示す、「成熟した社会の証」
先月、フランス議会上院にて、動物保護に関する法律の革新的な改正案が可決した。
この改正案では、人間の生活に身近な動物たちの扱いが刷新。文化・産業的な視点をも超越した、徹底的な保護を実施することとなった。
具体的には、以下の3点が目玉。
・ペットショップでの犬猫の販売禁止
・初めてペットを購入する際、飼育に関する知識があることを証明する書類への署名を義務化
・サーカスや水族館等で動物が出演するショーを禁止
と、かなり踏み込んだ内容だ。
ほかにも、「動物との性的な行動の撮影・配信」が禁止されていたり(獣欲、獣姦と呼ばれるもの。行為自体は既に禁止されている)、子どもが犯す虐待への対応が強化されたりと徹底的。
また、2024年にはフランスのペットショップは犬や猫を販売することができなくなる。
かねてより問題視されていたペット業界での動物虐待。産んでは捨てを繰り返す悪しき産業の撲滅を狙ったこの法律には、ペットを飼っているパリ市民からも称賛の声が上がっているそう。
この新法によって、動物の命を使った「大量消費」の根絶が期待できる。今後フランスでペットを買う際には、認証を受けたブリーダーや保護施設からの直接的な取引のみが許される。
その上で、購入者の「買ったはいいが思ったより面倒くさい、飽きた」といった“衝動買い”によるペット遺棄を防ぐために、消費者には7日間の解約期限を設けて書類への署名が義務化される。
さらに、改正案では動物虐待を犯した際の罰則を強化。最大5年の懲役と€75,000(およそ960万円相当)とかなり重い罰則が設けられている。
このほか、裁判官の判断で実刑の代わりに動物虐待に関する教育を義務付けることも可能だそう。
サーカスと水族館でのショー禁止は、それぞれ2023年、2026年より実施される予定。ただし、こちらはまだ多くの問題点を抱えている。
まず、サーカスに動物を出演させることは禁止されるものの、現在飼育している動物への対応が定められていないという点。
つまり、サーカス団体は動物を飼育しているものの、出演させることもできなければどこかに譲ることもできない、という状況が生まれる可能性があるということ。
もう一つは、そもそも動物への「虐待」は行われていないという点。 サーカスの業界団体代表からは「サーカスで動物の虐待は行われておらず、恣意的な法律だ」として抗議する姿勢も示されているそう。
このように、経済や文化にとってかなりのダメージを伴う法律だが、フランス政府はそれ自体も“人間主観の搾取”でしかないと捉えたというわけだ。
環境省のバルバラ・ポンピリ氏が「成熟した文明の証」と語る通り、賛否はあれど、議論が高まっているのは良い兆候。
これを機に、世界で動物の扱いを見直す動きが活発化することに期待したい。