売上1%を地球へ。ケンダル・ジェンナーのテキーラが「ミニボトル」に込めた、ただではないブランド戦略

世界的なファッションアイコンであり、絶大な影響力を持つケンダル・ジェンナー。彼女が手掛けるプレミアムテキーラブランド「818 Tequila」が、またひとつ、おもしろい一手を打ってきた。

ブランド名を冠した8月18日の「818 Day」に合わせて発表された、手のひらサイズの50mlミニボトル

単なる話題作りや、ファン向けのアイテムだと考えるのは早計。その小さなボトルには、急成長する市場と、現代の消費者が本質的に求める価値を的確に捉えた、したたかで巧妙な戦略が隠されている。

ただのセレブブランドではない証
70超のアワードと「地球への1%」

©Nick Wiesner and 818 Tequila

ケンダルのテキーラが、単なるセレブリティの名前を冠しただけの製品ではないことは、客観的な事実が証明している。

「818 Tequila」は、これまでにその品質を評価され、70以上ものテイスティングアワードを受賞。さらに特筆すべきは、その社会的なスタンスだ。同ブランドは、環境や社会に配慮した企業活動を行う事業者に与えられる国際的な認証「B Corp認証」を取得。利益の追求だけでなく、公共の利益のために貢献する企業であることの証左にほかならない。

彼らは売上の1%を地球環境保護のために寄付するグローバルムーブメント「1% for the Planet」のメンバーでもある。今回リリースされたミニボトルについて、同社CEOのMike Novy氏は、「私たちのコミュニティがどこへ行こうとも、受賞歴のある818 Tequilaを楽しめるようにしたかった」と語る。その言葉からは、製品の品質に対する絶対的な自信と、ブランドを支持する人々への想いがうかがえる。

確かな品質と揺るぎない倫理観。その両輪こそが、818 Tequilaを支える屋台骨と言えよう。

なぜ今「お試しサイズ」?
185億ドル市場と消費者の本音

では、実績を持つブランドがなぜ今、あえて「ミニボトル」というアプローチを選んだのか。その答えは、市場の動向と消費者のインサイトに隠されている。

Fortune Business Insightsの調査によれば、世界のテキーラ市場は活況を呈しており、2032年までに185億8000万米ドル規模に達すると予測。しかし、市場が拡大するいっぽうで、プレミアムスピリッツは消費者にとって決して気軽に試せる価格帯ではない。この「お試しサイズ」は、フルボトル購入への心理的な障壁を取り払い、ブランドの世界への扉を開くための、もっともスマートな“招待状”として機能するわけだ。

さらに、この戦略が巧みなのは、現代の消費者が持つ価値観に深く寄り添っている点にある。

株式会社クロス・マーケティングが2024年に行ったSDGsに関する調査によると、日本の10代、20代の若者のうち、実に82.5%がサステナブルな製品の導入に意欲を示しているという。彼らは、製品そのものの魅力だけでなく、その裏側にあるストーリーやブランドの姿勢を重要視する。「818 Tequila」が掲げる「B Corp認証」や「1% for the Planet」への加盟は、この価値観に真正面から応えるもの。ミニボトルは、そうしたブランドの哲学に触れる、最初の一滴となるのかもしれない。

一杯のテキーラから見える
選ばれるブランドの条件

「818 Tequila」の一連の取組みを紐解くと、現代において消費者の心を掴み、熱狂的な支持を得るための条件が見えてくる。それは、もはや創設者の知名度や、巧みな広告戦略だけではない。

第一に、疑う余地のない高品質な「製品力」。第二に、ミニボトルという、消費者の懐と心に寄り添う「アクセス性」。そして第三に、サステナビリティという、ブランドの思想を体現する「社会性」だ。

この3つの要素が掛け合わさるとき、ブランドは単なる商品の提供者から、価値観を共有するパートナーへと昇華する。私たちが日々、何かを選び、購入するという行為は、自分たちがどんな未来を支持するのかを表明する投票のようなもの。ケンダルの小さなテキーラボトルは、そんな時代の変化を映し出し、これからのブランドがどうあるべきか、その一つの解を静かに、しかし力強く示しているのではないだろうか。

Top image: © Nick Wiesner and 818 Tequila
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