Doveが見つめた、結婚式当日の「男の汗」とセルフケア

Unilever傘下のDove Men+Careが、結婚式当日の男性の「汗」にフォーカスした新キャンペーンを発表しました。制汗剤という極めて機能的な製品が、男性の感情的プレッシャーを正面からケア対象に据えたこの取り組み。その背景には、見過ごされてきた「男性のセルフケアの空白地帯」が浮かび上がっています。

「汗」は弱さではなく本気の証

2026年5月、Dove Men+Careは新製品「Maximum Protection Antiperspirant」のローンチに合わせ、結婚式を控えた男性の発汗とプレッシャーをテーマにしたキャンペーンを開始しました。最大96時間の汗防止機能を備えたこの製品を、ブランドは単なる「汗止め」としてではなく、人生の大切な瞬間に「完全にその場に集中する」ための準備ツールとして打ち出しています。

キャンペーンのキーフレーズは「sweating the details(細部に汗をかく)」。結婚式の準備に奔走する新郎やグルームズマンが、文字通り汗をかいている現実を、英語の慣用表現に掛けて表現したものです。同ブランドのマーケティング担当であるLindsey Phillips氏は、ソーシャルリスニングの結果として「現代の新郎たちが結婚式の最も小さなディテールにまでストレスを感じ、それが身体的な発汗として現れている」という行動パターンが浮かび上がったと説明しています。

ここで注目したいのは、従来のメンズ制汗剤広告との決定的な違いです。これまでこのカテゴリの広告は、スポーツやアウトドアといった「タフな場面」を舞台にすることがほとんどでした。汗は「激しい活動の副産物」であり、それを抑えることは「パフォーマンスの維持」として語られてきたわけです。しかし今回、Dove Men+Careが選んだ舞台は結婚式。緊張で手が震え、額に汗がにじむ——そんな場面は、従来のマスキュリニティ(男性性)の規範では「弱さ」と見なされかねないものでした。ブランドはあえてその場面を中心に据えることで、「汗は感情的に本気で向き合っている証拠だ」という新しい意味づけを試みています。

25%と1%が示す「ケアの空白」

このキャンペーンの説得力を支えているのが、ひとつの印象的なデータギャップです。同社の調査によれば、約25%の男性が自分を「大量に汗をかく人」と認識しているにもかかわらず、男性用クリニカル制汗製品の世帯浸透率はわずか1%に過ぎません。

この数字が示唆するのは、多くの男性が身体的な不快を「仕方ないもの」として受け入れ、適切な製品でケアするという選択肢をそもそも持っていないという現実ではないでしょうか。近年、男性の美容意識やセルフケアへの関心は世界的に高まっていると言われますが、その変化はスキンケアやヘアケアといった「見た目」の領域に偏りがちです。発汗のような、より身体的でプライベートな悩みについては、まだ「語ってもいい」という文化的な許可が十分に行き渡っていないのかもしれません。

Dove Men+Careは、この構造的なギャップを「ケアの不在」として問題提起し、製品の存在意義をそこに接続しました。Phillips氏は「マッチョに振りすぎる必要性を感じることはほとんどない」とブランドのトーンについて語り、「本質的に私たちは、自分自身をケアすることで他者をケアできるようになると伝えている」と述べています。制汗剤を使うことは、自分の弱さを隠すためではなく、大切な人との瞬間に集中するための自己準備である——そんなメッセージが込められています。

クリエイター起用が生むリアリティ

キャンペーンパートナーには、アメリカで人気のスポーツキャスター、Gary Striewski氏が起用されました。生放送のプレッシャーには慣れている同氏ですが、実はまさに自身の結婚式を控えている最中。昨年、Abbey Carnivale氏と婚約したばかりで、キャンペーンの文脈と個人の状況が自然に重なっています。

同ブランドはこの起用について、「従来型のキャンペーンを押し付けるのではなく、クリエイター主導のストーリーテリングに傾倒した」と説明。スポーツ中継のような大規模な場面で認知を構築し、クリエイターが自身のリアルな体験を通じてメッセージを日常的な文脈へと翻訳する——同社が「culture to commerce(文化から購買へ)」と呼ぶこのアプローチは、広告と実体験の境界を意図的に曖昧にする戦略と言えるでしょう。

さらに消費者参加施策として、婚約中のカップル1組に結婚式費用5万ドル(約750万円相当)を提供するスポンサーシップも開始。加えて500名にMaximum Protection製品が当たるキャンペーンも実施中で、製品はWalmart、Amazon、Targetをはじめとする全米の小売店で販売されています。

「自分を整える」は愛情表現になる

Dove Men+Careは2010年に誕生した、Dove初の男性専用ラインです。米国では皮膚科医推奨No.1のボディウォッシュブランド(同社調べ)を擁し、過去には父親の育児参加を後押しするキャンペーンなども展開してきました。一貫しているのは、「ケアは強さの対極にあるものではない」というメッセージです。

今回のキャンペーンが興味深いのは、制汗剤というカテゴリの中で最もファンクショナル(機能的)な製品に、感情的な価値を載せることに成功している点でしょう。96時間汗を防ぐという機能は変わらないのに、「なぜそれが必要なのか」という文脈を変えるだけで、製品の意味がまったく違って見えてきます。

結婚式の朝、鏡の前で制汗剤を塗る。それは身だしなみの一部であると同時に、「今日という日に、ちゃんと向き合いたい」という意思表示でもある。男性のセルフケアを「外見を磨くこと」から「大切な瞬間に自分を整えること」へと拡張するこの視点は、制汗剤の枠を超えて、私たちに「ケアとは何か」を問いかけているように感じられます。

Top image: © Dove Men+Care
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