一生入れる「銭湯パス」即完売。小さな村がつくった“通う理由”

富山県舟橋村と株式会社あるやうむが連携し、村営銭湯に「一生通える権利」を限定10口で販売したところ、あっという間に完売したとのこと。日本一面積が小さな村が仕掛けた、観光でも移住でもない「第三の関わり方」が静かに注目を集めています。

月1回、一生通える銭湯

©株式会社あるやうむ

今回販売されたのは、舟橋村の村営施設「舟橋会館」内にある銭湯「さつきの湯」を、月1回・無期限で利用できるという権利です。価格は5,000円(税込)。地域資源を「特別な権利・体験」として販売するプラットフォーム「TOKKEN(トッケン)」上で、2025年4月24日から販売が開始されました。

購入者にはデジタルデータ(NFT)として権利が付与される仕組みで、対象は富山県外在住者に限定されています。つまりこれは、地元の人のための福利厚生ではなく、「外の人」が村と関わり続けるためのパスポートのようなもの。月に一度、わざわざ足を運ぶ理由が生まれるというわけです。

舟橋村長の渡辺光氏は「日本一小さな村に繰り返し足を運んでいただけるきっかけが生まれたことは非常に意義のある取り組み」とコメントしており、想定より早い完売を受けて、関係人口の拡大に手応えを感じている様子がうかがえます。

「観光」でも「移住」でもない関わり方

近年、地方との関わり方は大きく変化しています。かつては「観光で一度訪れる」か「移住する」かの二択に近かったものが、いまでは「関係人口」という概念が広がり、定期的に通う・応援する・遠くから支えるといった多様なグラデーションが認められるようになりました。

この銭湯権利が面白いのは、「銭湯に通う」という極めて日常的な行為を、継続的な地域との接点に変換している点です。観光名所を巡るような華やかさはないかもしれません。でも、地元の人たちが普段使いしている銭湯に浸かるという体験は、その土地の空気をじんわりと肌で感じるには最適な場所ではないでしょうか。

5,000円という価格設定も絶妙です。高額すぎず、でも「無料」ではないからこそ、購入者には「自分で選んでこの村と関わることを決めた」という小さな当事者意識が芽生えます。この心理的なハードルの低さと、コミットメントの適度な重さのバランスが、即完売という結果につながったのかもしれません。

銭湯だけじゃない「権利」の広がり

舟橋村がTOKKEN上で展開しているのは、銭湯の権利だけではありません。複数年にわたって新米を届けてもらえる「ばんどり米お届け便」(3年間で70,000円、10年間で220,000円)や、富山地方鉄道・越中舟橋駅の列車車内メロディを自分で制作できる体験(250,000円)、さらには村長に1時間プレゼンテーションできる権利(100,000円)まで用意されています。

どれもユニークですが、共通しているのは「消費して終わり」ではなく、「関係が続いていく」設計になっていること。お米が届くたびに村を思い出し、自分がつくったメロディが駅で流れるたびに愛着が深まる。こうした仕掛けは、いわば「地方版のファンダム経済」と呼べるものでしょう。

日常を「権利」にする発想の可能性

TOKKENを運営する株式会社あるやうむは、国内で初めてふるさと納税の返礼品にNFTを導入した企業として知られ、すでに26の自治体での提供実績を持っています。デジタル技術を使って地域の体験を「権利」として可視化するこのアプローチは、今後さらに広がっていく可能性を感じさせます。

地方創生の文脈では、つい大きなイベントや施設整備に目が向きがちです。けれど、銭湯のお湯のように、ゆっくりと温まるような関係性こそが、実は一番長続きするのかもしれません。次の販売があるかどうかはまだ未定ですが、「日本一小さな村の銭湯パス」という響きに心が動いた方は、TOKKENの動向をチェックしておいて損はなさそうです。

商品が購入できるTOKKENのサイト

https://tokken.alyawmu.com/

Top image: © iStock.com / Kayoko Hayashi
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