「麺屋 猪一」神楽坂店が開業。HOUSE INDUSTRIESが器とグッズをデザイン
京都・寺町で12席から始まり、ミシュランガイドのビブグルマン(コストパフォーマンスに優れた料理店を選ぶ部門)に9年連続で掲載されてきたラーメン店『麺屋 猪一』。その初の京都外出店が、2026年8月6日、神楽坂にオープン。ただ、この話の核心は「行列店が東京に来る」ことではなさそうです。
Hermèsのスタジオが描いた丼

今回の東京進出で最も目を引くのは、デザインパートナーの名前でしょう。Hermès、Disney、Porscheといったグローバルブランドのビジュアルを手がけてきたアメリカのデザインスタジオ「HOUSE INDUSTRIES」。タイポグラフィ(文字のデザイン)とレタリングを核に、ジャンルを横断してきた彼らが、ラーメン店の器をデザインしています。
きっかけになったのは、「ブランドは、一杯だけでは伝わらない」という猪一側の考え方だったといいます。味だけでは届かない世界観がある——その率直な自覚が、ちょっと新鮮に響きませんか。

HOUSE INDUSTRIESが手がけたのは、『MENYA INOICHI』の文字を麺に見立てたオリジナルグラフィック。これが5種類の器、レンゲ、さらには手ぬぐいやTシャツにまで展開されています。器を「料理を盛り付けるためのもの」ではなく「その姿を映し出すキャンバス」として捉えたと、同社のプレスリリースには明記されていました。
ラーメン店がTシャツを出すこと自体は珍しくありません。でも、Hermèsのプロジェクトと同じスタジオが描いた線が、目の前のレンゲに走っている。その事実は、「ラーメン屋のグッズ」という言葉の手触りをだいぶ変えてしまいます。
9年連続ビブグルマン、京都の外へ
2013年、京都・寺町にわずか7坪で生まれた猪一は、魚介の旨味を丁寧に引き出した出汁を軸に一杯を磨き続けてきた店です。創業2年目でビブグルマンに載り、以降9年連続。それでも京都の外には出なかった。
初めて外に出る場所として選ばれた神楽坂は、古い石畳の路地と新しいカルチャーが自然に重なる街。店内は15席のカウンターのみで、料理人の所作や出汁の香りが届く距離感を大切にした設計です。ファサード(建物の正面)にはガラスブロックと木格子を組み合わせ、障子から着想を得たデザインを採用。昼は自然光がやわらかく入り、夜は店内の灯りがほのかに漏れる。京都の空気を東京に「翻訳」しようとする意志が、空間の細部にまで行き渡っています。
オープンに先立つ2026年7月14日には、明治公園内の「Meiji Park Market」で一夜限りのPOP UPが開催されました。平日にもかかわらず約80席は終日満席、用意された150杯は約3時間で完売。東京での期待値の高さが、数字にはっきり表れています。
器の縁に目が行く一杯


近年、飲食店の価値が「味」だけでは語りきれなくなっている感覚は、多くの人がうっすら持っているのではないでしょうか。空間、器、音楽、そしてそこで過ごす時間の質。猪一の東京進出は、その流れをかなり意識的に、しかもグローバルなデザインの文脈で形にした事例だと感じます。
運営元のエスエフピーダイナースはサザビーリーグのグループ企業。ファッションやライフスタイルの文脈を持つ母体だからこそ、「器にHOUSE INDUSTRIES」という投資判断が成立したのかもしれません。
次にラーメンを食べるとき、ふと器の縁に目が行くかもしれない。そんな小さな視線の変化が、この一杯の向こう側にある話だと思います。
『麺屋 猪一 神楽坂』
【オープン日】2026年8月6日(木)
【所在地】東京都新宿区神楽坂3-6-46(JR飯田橋駅西口より徒歩4分)
【席数】15席(カウンターのみ)
【営業時間】Lunch 11:00〜14:30 / Dinner 17:30〜21:00
【定休日】不定休
【公式サイト】麺屋 猪一






