竹取物語を「16mmフィルム」で撮る。短編『月の民』がトロント映画祭に届くまで
デジタルで何でも撮れる時代に、あえて16mmフィルムを回し、手描きの絵画17点を実写に重ねた短編映画があります。
竹取物語に着想を得たその作品が、2026年9月、世界最大級の映画祭の舞台に立つことが決まりました。
「小さな映画」が世界最大級の舞台へ
短編映画『月の民』(英題:Moongirl)が、第51回トロント国際映画祭(TIFF)のShort Cuts部門に正式招待されました。
マウントメルビル株式会社が8月18日に発表したもので、9月15日と19日に計3回のワールドプレミア上映が行われます。
トロント国際映画祭は、カンヌやベルリン、ヴェネチアと並び称される北米最大級の映画の祭典。毎年300本前後が上映され、来場者は76万人を超えます。
そのなかのShort Cuts部門は、次世代の映像作家を国際市場へ送り出す登竜門として知られています。
驚くのは、この作品が大手スタジオの後ろ盾を持たない自主映画だということ。日本・フランス・カナダ・ニュージーランド・ドイツの5カ国にまたがるチームが、約2年をかけて完成させました。
北海道の雪と、フィルムの粒子が溶け合う
物語は、ある夏の日に年老いた画家が海辺の自宅を後にし、人生最後の旅に出る場面から始まります。
時が遡ると、一面の雪景色。若き画家と作家が老人を主人公とする物語について語り合い、やがて現実と虚構の境界が静かに溶けていく——。
撮影地は北海道の札幌・小樽・南富良野。真夏の猛暑から氷点下15℃の凍りついた湖まで、季節をまたいでカメラが回されました。
札幌や小樽のフィルムコミッション、南富良野町の商工観光係、地元の霊園や住民が制作に協力しています。
映像面で目を引くのは、16mmフィルムの粒子感と、若手アーティストYOUZUKI(弓月)による絵画の融合です。デジタル補正で「きれいに整える」のではなく、フィルムの揺らぎと手描きの筆致をそのまま残すことで、古典の物語にふさわしい時間の厚みが生まれています。
「翻訳」ではなく「感性の架橋」という選択
日本の古典を海外に届けるとき、ありがちなのは「日本文化の紹介」という枠組みです。
でも『月の民』のアプローチは少し違います。監督のヴィクター・ボカールをはじめ、脚本・映像・音楽の中核メンバーは日本とフランスを拠点に活動する多国籍チーム。竹取物語を「外国人に説明する」のではなく、異なる文化圏の感性が交わる場所で物語を立ち上げ直しているのです。
プロデューサーの山脇愛理氏と坪田孝明氏は、監督陣の作家性と日本の土地・文化への理解をすり合わせながら制作を重ねたといいます。
大きな予算や有名IPがなくても、土地の力と国境を越えた信頼関係があれば、世界最高峰の舞台に届く。この事実は、日本発のクリエイティブの可能性を静かに、でも確実に広げてくれるのではないでしょうか。






