この夏、もっとも贅沢な短編映画『ハイヒール』

スリラー映画とスパイシー料理って、少し似ている。

それらが引き起こす緊張感や不安感、心地の悪さは決して身体にとっていいわけではないのに、一度味わってしまうと何度もその感覚を心が求めてしまうのだ。

先日より公開のショートフィルム『ハイヒール』は、まさに人々を病みつきにする、最高に不気味な一本。若き新星イ・インチョル監督のもつ独特の世界観を、日本中がときめく演技派女優・菊地凛子を主演に迎え体現。短編映画にして異例の全国ロードショーに至ったことが注目を集めている。

不気味でユニークなストーリーもさながら、この映画の何が素敵って、限られた時間の中で美しいものをふんだんに見せてくれること。30分という短い上映時間に詰まった、宝石箱のような劇中のディテールを見逃さないよう、見所を予習したいと思う。

人間と欲望の
関係性を探る

舞台は、現代からなんと西暦4000年にかけて。人間の欲望が世界を滅ぼしかけた結果、人々が無欲なアンドロイドになることを選んだ時代。そんなアンドロイドのひとりである靴職人のKaiが、オーダーメイドの靴を作るという過程で、人間らしい欲望のひとつである「こだわり」に蝕まれていく…という物語。

「物事を突き詰める執着心」という人間らしい感情をアンドロイドが持つ、という二面性、もしくは欲望が理性を超えたときに現れるもうひとりの自分をテーマにしている。遠い未来に流れるおとぎ話として描かれているけれど、人間と欲望についてのメッセージも感じる作品だ。

「美」へのこだわり

本作は意外にも軽快でポップなアニメーションから始まるが、実写へとシフトしたときにそのミステリアスな世界観を出すため、衣装や美術セットには驚くほどのこだわりを見せている。

例えば物語の舞台となる西洋風に見える靴屋では、よく見ると小道具に日本と韓国の日用品やアンティークなどのアジアテイストが取り入れられ、そのどれとも似通わない雰囲気が生み出されている。

和製カール・ラガーフェルドを
イメージした衣装

そして何より、世のファッショニスタの目を引くのは、菊地凛子演じる主人公の衣装だ。女性らしい繊細さとマスキュリニティを兼ね備えた中性的な主人公Kaiの衣装イメージとして、本作製作スタッフは、CHANELのデザイナーでファッション界のアイコンでもあるカール・ラガーフェルド氏のタキシードスタイルを参考にしていたそう。

それだけでは終わらず、なんとフランス本国のCHANELの目に止まり、本作のための衣装協力まで得てしまう。確かに複雑なフリルがあしらわれたブラウスやネクタイのようなチョーカー、大胆なブーツには、CHANELらしいクラシックかつ現代的モードの両要素が含まれている。

注目のハイヒールは
MIHARA YASUHIRO

最後は、この映画のキーアイテムでもありタイトルにもなっている「ハイヒール」だ。劇中でアンドロイドたちの心を翻弄させるハイヒールは、すべて「MIHARA YASUHIRO」のもの。本作公開に合わせてポップアップストアもオープンする予定とのこと。主人公のKaiが営む靴屋という設定で、ショップ名を「果て-the end」とし、伊勢丹新宿店本館2階に登場する。映画と同じモデルのハイヒールに、これまた映画と同じように「お客様に似合う色の靴が現れる」というのだから、そのこだわりに感心してしまう。

思わず、短編なのが惜しくなってしまうほど贅沢な映画『ハイヒール』。ここで紹介した「こだわり」を見逃さなければ、詩的な世界にもっともっと浸っていたいと感じるような30分になるはずだ。

映画『ハイヒール〜こだわりが生んだおとぎ話
菊地凛子主演、イ・インチョル監督作品
ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田ほかで2017年6月24日より公開中。

7月1日(土)には、ヒューマントラストシネマ渋谷にて、イ・インチョル監督、マドモアゼル・ユリアさん、ヴィヴィアン佐藤さんによるトークショーも開催。詳しくはこちら

Licensed material used with permission by ハイヒール
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。