「店で飲む方が安い」ワインもある。全国38店の価格調査で見えた逆転現象
レストランでワインを頼むとき、「小売の何倍だろう」と頭の片隅で計算してしまう人は少なくないはずです。 その漠然とした感覚を、1,403本の実測データで丸裸にした調査が公開されました。見えてきたのは、「高い=損」とは言い切れない、意外な構造です。
安いワインほど「倍率」が跳ね上がる理由

ワイン検索サイト「WineShopper」が2026年8月に公開した調査レポートによると、全国38店のレストランと専門通販9サイトの同一銘柄1,403本を突き合わせた結果、倍率の中央値は1.89倍でした。 つまり、通販で5,000円のワインがレストランではおよそ9,500円になる計算です。
ただし、この「約2倍」はあくまで全体の真ん中の数字。価格帯ごとに見ると景色がまるで変わります。
小売3,000円以下のワインでは倍率の中央値が3.92倍。一方、5万円を超える高級ボトルでは1.35倍まで下がります。 安いワインほど「何倍も取られている」ように見え、高いワインほど倍率はおとなしくなる。この非対称な構造が、データではっきりと浮かび上がりました。
「約7,000円」は、抜栓の向こう側にある対価

では、レストランは安いワインで儲けているのでしょうか。 視点を「倍率」から「金額差」に切り替えると、また違う風景が見えてきます。
全体の上乗せ額の中央値は13,780円。小売5,000円未満のいわゆるデイリー帯でも、約6,962円が上乗せされていました。 つまり、どんなに手頃なボトルを選んでも、1本あたりおよそ7,000円が「場の対価」として乗っているということです。
この7,000円には、ソムリエの選定やサービス、適温に保たれたグラス、何年もセラーで寝かせた保管コストが含まれています。 倍率だけを見ると「ぼったくり」に映りかねない安いワインも、金額ベースで見れば上乗せ幅はむしろ控えめ。「率」と「額」、どちらの物差しを当てるかで印象はまったく変わるのです。
希少ワインでは「逆転」も起きている

さらに驚くのは、1,403本のうち8.7%にあたる122本で、レストランの方が通販より安かったという事実です。
たとえばシャトー・ラフィット・ロートシルトの2009年ヴィンテージは、レストランのリスト価格が22万円。対して通販では79.2万円と、実に3.6倍の開きがありました。 かつて仕入れてセラーに眠らせていたボトルが、市場価格の高騰後もリスト価格に据え置かれている——そんなケースが、少なからず存在するのです。
レストランでワインを開けることは、単に液体を買う行為ではありません。 空間、時間、人の手が重なった「体験」に対して払っている。そう考えると、メニューの数字の見え方が少しだけ変わるかもしれません。
次にレストランでワインリストを開いたとき、「高い」と感じる前に、その1本がどんな旅をしてグラスに届いたのか、想像してみるのも悪くないのではないでしょうか。






