地域性を超えて愛される和菓子はなぜ名前が違うのか 「今川焼」をめぐる全国の食文化勢力図を読み解く

“中に具材を入れて焼いた円形の厚焼き和菓子”を何と呼ぶ?

この問いに、あなたは即答できるだろうか。「今川焼」か、「大判焼き」か、あるいは「回転焼き」か……その答えは、育った場所の食文化が色濃く反映された、まさに“ローカル・アイデンティティ”そのもの。

「株式会社ニチレイフーズ」が発表した全国調査の結果を参考に、現代の日本における食の言語習慣と、それに根強く残る地域文化のリアルを紐解いてみたい。

全国で均一に流通する冷凍食品においてさえ、消費者の「呼び名」の認識には、想像以上に根深い地域差が残る事実が浮き彫りとなった。この「呼び名戦争」の勢力図を分析するとともに、手軽さと品質を両立させる現代の食の潮流の中で、「今川焼」とその仲間たちが今後どのような地位を築いていくのかを考察。

群雄割拠の“呼び名”戦争
「今川焼き」が全国最多勢力となったワケ

©株式会社ニチレイフーズ

ニチレイフーズが全国の消費者14057名を対象に実施した調査は、和菓子をめぐる「地域文化の勢力図」を明確に示した。結果が示すのは、単一の全国共通名称が存在しない、まさに“群雄割拠”の様相。

全国の最多勢力は「今川焼」であり、19のエリアでトップの座を獲得し、総回答数でも全体の約6割(8508票)を占めた。関東地方や北陸地方で強く支持されているこの名称は、やはり全国的な認知度の高さを裏付ける結果と言える。しかし、西日本に目を向けると状況は一変。

大判焼き」は、全国15エリアで優勢となり、中国・四国地方で強い勢力を誇る。全国総得票数も7309票と、「今川焼」に次ぐ大きな勢力となった。「回転焼き」は、全国9エリアで最多呼称を占め、特に九州地方では全県で最多呼称となるなど、強い勢力を持つ。全国で3646票を集めた。

特に近畿地方では、「今川焼」「回転焼き」のほか、特定の地域固有のブランド名が拮抗しており、地域ごとの食文化が複雑に絡み合っていることがわかる。

この呼び名の違いは、単なる方言として片付けられない。各名称の裏には、その発祥や販売ルート、地域の歴史といった、固有の文化が込められている。たとえば「回転焼き」は、焼き上げる工程で型を回転させる様子から名付けられたとする説などがあり、地域の人々の生活に密着した呼称として根付いているようだ。

冷凍食品市場が牽引する和菓子の再評価

この「呼び名戦争」が興味深いのは、調査の対象となったニチレイフーズの「今川焼」が、冷凍食品として全国に均一に流通している商品である点。全国どこでも手に入る商品であっても、消費者の口から出てくる名称は、生まれ育った地域の習慣に強く縛られている。これは、食のアイデンティティが、現代の流通システムを超えてもなお、無意識のうちに受け継がれている証と言えるだろう。

そして、この「今川焼」をめぐる話題は、現代の日本における食の大きなトレンドともリンクしている。近年、日本の冷凍食品市場は著しい成長を見せている。日本食糧新聞の報道によると、菓子市場全体(和菓子を含む)の生産・小売金額(推定)は、24年に過去最高を更新し、4兆円に迫る規模へと拡大。

さらに、急速冷凍機の製造メーカー「株式会社テクニカン」解説では、24年の国内冷凍食品消費額は1兆3017億円と過去最高を記録し、特に家庭用冷凍食品の市場規模は、14年と比較して約1.5倍に拡大したと報告。

手軽に高品質な食事が楽しめる冷凍食品は、現代の忙しいライフスタイルにおいて、確固たる地位を築いている。この市場成長の中で、「今川焼」を含む冷凍和菓子は、「手軽でおいしい食の選択肢」として、地域性を超えて浸透しつつあるようだ。

品質へのこだわり派が示す現代の食トレンド

©株式会社ニチレイフーズ

冷凍「今川焼」の喫食調査の結果にも、現代の食トレンドが色濃く反映されている。消費者が今後食べたい味として、「あずきあん」(73.0%)と「カスタードクリーム」(58.7%)が圧倒的な人気を誇るいっぽう、「クリームチーズ プレミアム」(42.3%)のような新しいフレーバーも高い支持を得ており、和菓子における多様な味覚への需要が窺える。

注目すべきは、普段もっともする食べ方についての回答。

  1. 定番派: 冷凍のまま電子レンジで温めて食べる(59.4%)

  2. コダワリ派: 電子レンジで温めてさらにオーブントースターで温める(26.8%)

約4人に1人が実践する「レンジ+オーブン」の食べ方は、手軽な冷凍食品でありながら、まるで「焼き立て」のようなパリッとした食感と熱々の具材を追求する、現代のこだわり派の存在を浮き彫りにしている。これは、利便性を追求するだけでなく、食の品質や体験を妥協しない、現代の消費者の意識の表れと言えるだろう。

冷凍食品は、手軽な上に長期保存も可能でありながら、このこだわり派の行動は、食の簡便化が進む中でも、消費者が「本物に近い味わい」を求めていることを示唆する。

食の文化大使としての可能性

「今川焼」をめぐる呼び名の多様性は、日本の豊かな地域文化の証である。それは、地域間で「これは、今川焼ではない、大判焼きだ」と主張し合う、ある種の文化交流・相互理解のおもしろさでもある。

さらに、日本の冷凍食品市場は、25年から33年にかけて年平均成長率3.63%で拡大し、33年には213.5億米ドルに達すると予測されている。この成長予測は、「今川焼」とその多様な呼び名の仲間たちが、冷凍食品という現代的な形態で、地域性を超え、さらに多くの消費者へと浸透していく可能性を示唆している。

地域で愛されてきたローカルな和菓子が、冷凍技術によって全国に、そして将来的には世界へと広がる。この小さな円形の厚焼き和菓子は、日本の食文化の奥深さと、現代のテクノロジーが融合した「食の文化大使」として、今後ますます注目を集めることになるだろう。

『調査概要(今川焼に関する調査)』

調査1
【名称】食品に関する調査
【調査対象】全国の男女
【調査方法】Webアンケート調査(調査企画:ニチレイフーズ、調査実施機関:株式会社クロス・マーケティング)
【回答者数】14,057人
【調査期間】2025年10⽉10⽇(金)~10⽉19⽇(日)
※小数点以下を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。

調査2
【名称】「今川焼」アンケート
【調査対象】ニチレイフーズ公式サイトやSNS(Xなど)経由でアンケートに回答した人で、ニチレイが好きで月に1回以上冷凍の「今川焼」を食べている「ニチレイの今川焼」喫食経験者
【調査方法】Webアンケート調査(調査企画:ニチレイフーズ、調査実施機関:株式会社クロス・マーケティング)
【回答者数】392人
【調査期間】2025年10⽉8⽇(水)~10⽉19⽇(日)
※小数点以下を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。

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