子どものSOSの81%は、窓口が閉まっている時間に届いていた

つながりAI株式会社が2026年7月17日より、横浜市の公立中学校・高校の一部生徒を対象に、AIを活用した相談サービス「友達AI」の実証実験を開始しました。その背景には、「届いていなかったSOS」の存在を示す切実なデータがあります。

「友達」と名づけられたAI相談の設計思想

「友達AI」は、子どもたちが友人関係や学校生活、家庭の悩み、進路、いじめ、孤独感など、さまざまなことを自由に話せるAI相談サービスです。LINEなどを通じて24時間365日利用できます。「相談員」でも「カウンセラー」でもなく、あえて「友達」と名づけられているところに、このサービスの設計思想が表れています。

AIは否定せず、急かさず、まず子どもの言葉を受け止める。そのうえで、必要に応じて具体的な相談先や支援につながる行動を提案します。さらに、希死念慮(死にたいという気持ち)や自傷、虐待、性被害といった深刻なリスクが疑われる場合には、AIだけで完結させず、専門の相談員が内容を確認し、学校や教育委員会、関係機関へつなげる「ハイブリッド型」の仕組みを採用しています。

AIを万能の解決者にしない、という判断。ここが重要なポイントではないでしょうか。テクノロジーの役割を「最初の一歩を受け止めること」に限定し、人間の専門職が後ろに控える——その設計には、子どもの命に関わる領域でAIを使うことへの慎重さと誠実さが感じられます。

SOSの81%は窓口が閉まった時間だった

この取り組みの切実さを最も雄弁に語るのは、先行して行われた姫路市の公立中学校での実証実験のデータです。

約7か月間で1,535名が登録し、寄せられたメッセージは36,654件。そして利用の81%は、夜間や休日——つまり、従来の相談窓口が閉じている時間帯に集中していました。

この数字は、子どもたちが「助けを求めたい時間」と、大人が「窓口を開けている時間」のあいだに、深刻なズレがあったことを示しています。学校の相談室は放課後に閉まり、スクールカウンセラーは週に数日しかいない。電話相談も夜遅くにはつながりにくい。そうした隙間に、声にならなかったSOSがどれほどあったのか。

姫路市の実証では、403名のリスクが検知されました。そのうち66人から希死念慮を思わせる発言が確認され、いじめ83人、虐待61人、不登校37人のリスクも把握されています。従来の仕組みでは見えなかった子どもたちの苦しみが、「友達」という入口を通じて、初めて言葉になった——そう考えると、この数字の重みが変わってきます。

9月1日に向かう夏休みの沈黙

今回の横浜市での実証が、あえて夏休みの始まりに合わせて開始されたことにも意味があります。

厚生労働省と警察庁の統計によれば、2025年の小中高生の自殺者数は538人と、1980年以降の統計で過去最多を記録しました。なかでも9月1日は、児童生徒の自殺者が顕著に多い日として知られています。夏休みのあいだ、先生やスクールカウンセラー、養護教諭、友人といった日常的な支援の接点が薄れ、悩みを抱えた子どもが誰にも相談できないまま孤立してしまう。その蓄積が、休み明けという節目に噴き出すのです。

本実証では、教育経済学を専門とする慶應義塾大学の中室牧子教授が監修を務め、夏休みから休み明けにかけて子どもたちがどんなタイミングでSOSを発するのか、データとして可視化することも目指しています。実証期間は2027年1月15日まで。

「子どもが本当に困ったとき、最初に話しかける相手がAIかもしれない」。この事実を、大人の側の敗北と捉えるか、それとも支援の入口が一つ増えたと捉えるか。少なくとも、夜中に一人で抱えていた言葉が、どこかに届く回路ができたこと——それ自体は、小さくない変化だと思うのです。

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