光線過敏症の声から生まれた「UVカットパーカー」
夏のUV対策といえば、日焼け止めクリームや日傘を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも世界には、紫外線を少し浴びただけで皮膚が激しく炎症を起こし、外に出ること自体が命がけになる人たちがいます。
そんな当事者の「一通のメール」が、日本の小さなブランドの製品設計を根本から変えようとしています。
「たった1枚で、この大変さから逃れたい」
埼玉県に本社を置く株式会社ピーカブーが展開する紫外線対策ブランド「EPOCHAL(エポカル)」。2002年の設立以来、20年以上にわたりUVカットウェアに特化してきた専門メーカーです。
そのエポカルに、カナダ在住の20代男性教師からメールが届きました。
彼は「光線過敏症」の患者です。光線過敏症とは、通常なら問題にならない程度の紫外線や可視光線でも、皮膚に強い炎症や水疱が生じてしまう疾患のこと。
彼はエポカルのUVカットウェアを実際に着用し、その機能性に感動したといいます。メールには感謝の言葉だけでなく、自身の症状写真と、「もっとこうしてほしい」という率直な要望が添えられていました。
さらに驚くのは、彼から毎朝電話があったということ。「たった1枚で、この大変さから逃れられるものが欲しい」——その切実さは、マーケティング調査のデータでは決して拾えない重みを持っていました。
声が、設計図になった
エポカルの開発チームは、この声に正面から向き合いました。
同社が独自開発した特殊素材「EPOCHTEX®」(紫外線をカットしながら熱も遮る織物)を使い、新型の「パーフェクトパーカー」の開発に着手。従来モデルと比べて、つばを広く、フードを大きく、マスクがより広い範囲を覆う設計に変更されています。
2027年2月の発売を予定しており、日常向けのUVパーカーやフェイスガードも並行して開発中とのことです。
注目すべきは、この設計変更が大規模な市場調査から生まれたものではないという点。一人の患者の声が、製品の形そのものを変えたのです。
「まとう木陰」を待つ人は、世界中にいる
エポカルのもとには、カナダだけでなく世界各国から問い合わせが届いています。
イギリスからは、「色素性乾皮症(XP)」——紫外線によるDNA損傷を修復できない遺伝性の難病——を持つ子どものために、赤ちゃん用UVカット手袋を求める母親の声。イスラエルや中国からも、防護服を必要とする当事者がつながりを求めてきています。
同社は「まとう木陰を作り続ける会社」をパーパスに掲げ、オーストラリアの紫外線防護機関や理化学研究所とも連携してきました。
私たちが「今年の日焼け止め、どれにしよう」と悩んでいるとき、同じ太陽の下で「今日、外に出られるだろうか」と悩んでいる人がいる。UVカットという言葉の向こう側に広がる世界は、想像よりずっと切実です。
何気なく手に取る1枚のパーカーが、誰かにとっては社会とつながるための「インフラ」になりうる。そう知ったとき、夏の買い物の景色が少しだけ変わるかもしれません。






