ジムウェアは、もう揃えなくていい。古着とミスマッチが支持される理由
英ガーディアン紙が報じた、フィットネスファッションの意外な地殻変動。色を揃えたマッチングセットで完璧に決める「ピラティス・プリンセス」の時代が終わり、ベッドから出たばかりのような無造作スタイル——通称「ジム・ゴブリン」が台頭しているというのです。
カンペキな「自己管理」よりも
「脱力感」がクール
ここ数年、SNSのフィットネス界隈では「that girl」——理想の自分を体現する女性像——と呼ばれる美学が支配的でした。色味を統一したLululemonのセットアップに身を包み、抹茶ラテを片手にピラティスへ向かう。その姿は「自己管理ができている人」のシグナルとして機能し、多くの人が運動着を「揃える」ことにエネルギーを注いできたはずです。
ところが今、その流れが反転しています。古びたTシャツにくたびれた靴下、オーバーサイズのカーディガン。あえてミスマッチなアイテムを組み合わせる「ジム・ゴブリン」スタイルが、むしろクールとされるようになりました。
「ゴブリンモード」とは、もともと自宅でだらだら過ごすライフスタイルを指す言葉。その脱力感がジムという「見られる場所」にまで持ち込まれたことに、この現象の面白さがあります。
ダラスを拠点とするスタイリストのMikaela Adamsは、ガーディアン紙の取材に対し「マッチングセットの時代が何年も続いた後、より個人的に本物で独自性のあるものを着たいという欲求が高まっている」と分析。つまりこれは単なるファッションの振り子ではなく、「完璧に見せること」への疲労が表面化した現象なのかもしれません。
「ヴィンテージスポーツウェア」の検索数は3倍に
象徴的なのは、セレブリティたちの振る舞いです。ハリー・スタイルズは『Runner's World』2026年春号の撮影で、セカンドハンドのスニーカーにヴィンテージのアディダスTシャツ、そしてドナルドダックのキャップを合わせました。ジェニファー・ローレンスはヴィンテージのミッキーマウスTシャツに赤いトラックパンツ姿で街を歩き、ゾーイ・クラヴィッツもカジュアルなTシャツにショーツという出で立ちを実践しています。
数字もこの流れを裏づけています。FT紙の報道によれば、2025年12月から2026年3月にかけて、eBayでの「vintage sportswear」の検索数は300%増加。「90s Reebok」に至っては700%増という急騰ぶりです。新品のマッチングセットではなく、誰かが着古したヴィンテージのスポーツウェアに人が集まっている。
前出のAdamsはこう説明します。「これらのアイテムはもともと動いて汗をかくために作られたもの。ワークアウトでもコーヒーを買いに行くときでも同じように機能する」。見栄えより実用性と快適さが優先される時代が来ているわけです。
「不揃い」が誠実さになる時代
この現象を日本の文脈に引き寄せると、少し思い当たることがあるかもしれません。ワークマンやユニクロのスポーツラインが広く浸透した今、「運動着にお金をかけない」こと自体は珍しくなくなりました。でも一方で、ジムやヨガスタジオに行くとき、なんとなく「ちゃんとした格好をしなきゃ」と感じる圧力は、まだどこかに残っていないでしょうか。
ジム・ゴブリンが示しているのは、「揃えないこと」が怠惰ではなく、自分に正直であることの表明になりうるという価値観の転換です。完璧なコーディネートで武装しなくても、体を動かすことの本質は変わらない。
次にジムへ向かうとき、クローゼットの奥に眠っている古いTシャツを引っ張り出してみるのも悪くないかもしれません。揃えなくていい、という許可は、案外、体だけでなく気持ちも軽くしてくれるものです。






