【安藤美冬×白木夏子 vol.1】人生を楽しもう。それが一番「意識の高い」ことだから
ジュエリーブランドHASUNA創業者の白木夏子さんと、ノマドワーカーの先駆けである安藤美冬さん。「旅をしながら仕事をしている」という共通点を持つ2人は、プライベートで一緒に海外旅行をするほどの仲。
そんなおふたりの対談を、2回に分けてご紹介します。今回は、意外な共通点も多い「海外経験」について伺ってみました。
イギリスとオランダで感じた「社会正義ってなんだろう?」
白木 安藤さんと私って、共通点がたくさんありますよね。2人とも留学経験があるというだけじゃなく、2000年初頭はまだアメリカ留学が主流だった時代なのに、私はイギリスに、安藤さんはオランダに行った。主流からちょっとはみ出してみるというところがまず共通しているのかもしれません。
安藤 そうですね。でも、それだけじゃない。私は大学時代にジャーナリストになりたいと思って、当時同性同士の結婚をいち早く認め、また、尊厳死の合法化やワークシェアリングの仕組みを世界に先駆けて整えたオランダに留学したんですね。その過程で一時期、様々なNPOに顔を出していたことがあったの!社会正義、社会貢献というものに燃えていたんですね。
白木 美冬さんはよく「社会貢献を振りかざす人は苦手」って言っているのに!(笑)。でも、美冬さんがオランダに留学したのは2001年でしょう?その時代にオランダに留学したら社会に意識が向くのはわかる気がします。
安藤 そう。先進的な取り組みを知ることができたから。それで帰国後も色々な団体にちょくちょく足を運んでみたものの、何か肌に合わなくて。「社会を変える」というすごく大きな命題を掲げているわりには、とても狭い世界に閉じこもっているように見えたんですね。世界はこうだと決めつけ、自分の倫理観や道理に合わないものを一切排除してしまうというか。
白木 たしかに、15年前はNPOなどで働く人たちの感覚が今とは違っていたかもね。私も同じ頃に名古屋のNPOに顔を出していたんだけど、同じような違和感がありました。そこにいる人たちは、明確に悪者がいて、正義感に満ち溢れていて、「戦争は悪だ」と主張しているのに、心はいつも戦争しているじゃないかって思うこともあったし。当時はまだNPOという活動形態自体が始まったばかりで、手探りだったんだろうけど…。
安藤 そうですよね?率直に言うと、そこにいる人たちが幸せに見えなかったんです。だから私は別の道を行こうと思って、「社会貢献がしたい」という大きなビジョンも「ジャーナリストになりたい」という看板も下ろして、普通に就職活動をして出版社に就職することになりました。自分の内側にある熱い思いの種をちょっとくすぶらせながら。だから20代の終わりに、夏子さんのことを新聞のインタビューで知った時は圧倒されました。同世代の女性に、かつて自分が憧れて、そして諦めた道を真っ直ぐ歩いている人がいるってことに素直に感動したんです。
白木 私の場合は、「内部から見てみないことには批判もできない」と思って、半年間「国連人口基金」という妊娠や出産に関する女性のための国際機関に入ったんです。そうしたら、やはりいろいろ問題はあれど、HIVに感染した人が母子感染せずに出産する方法を指導していたり、国連も人々の役に立っているということがわかりました。
でも結局、国連だけでは貧困問題は解決できないなとも思って、「ビジネスの仕組みを知らなくては」と投資ファンドの会社に入社したんです。
もっと遡ると、私も十代後半にジャーナリストになりたいと思った過去もあったから、それも共通点ですね。
フィリピンへ行くなら
「語学留学がいい」ワケ
「語学留学がいい」ワケ
安藤 いろいろな世界を十代から見ているところも、共通点ですね。私は16歳で当時東京都が主催していた「洋上セミナー」という国際交流事業で、中国へ2週間派遣されるプログラムで海外へ出ました。夏子さんは19歳でしたっけ?
白木 子どもの頃の家族旅行を除けば、19歳の時のフィリピンのゴミ山を見にいくスタディツアーに参加したのが、海外に行った最初の経験。初めて海外に行ってみて、実際に見ることの大切さをつくづく感じました。
ゴミ山の問題を考える時に、日本にいると「富の再配分がうまくいっていないのが原因。それをこうやって改善すればいいんじゃないか」と、簡単に改善策を考えられるでしょう。でも実際に見にいくと、そんなに簡単なものじゃないなと打ちのめされたんです。
小さなNPOがストリートチルドレンにひとりひとり向き合い里親を見つけつつ、社会の仕組みを変えるために働きかける…。あまりに遠い道のりに、どこから手をつけていいのか全くわからない状態で。
安藤 いい話なのに、つい口を挟んじゃってゴメンなさい。そういうところに行くのは偉いと思います。でも、私ならそういうところには行かないなあ。
白木 私はスーパー意識高い系だったから(笑)。
安藤 私に当時見えていた社会貢献活動をしている人たちは、「遠いフィリピンの人を大切にするよりも、まずは自分の家族や周りの人を大切にしたほうがいいんじゃない…?」って言いたくなる人が多かったんです。私はまず、身近な人を大切にして、自分が楽しくて心地良いことをしたいですね。
白木 私は、それに気づくのにけっこう時間がかかりました。美冬さんの言う通り、どれだけ人や社会に貢献したとしても、自分が愛で満ち溢れていなければ、世界を愛で満たすことなんかできないんですよね。
安藤 そう! 私がHASUNAのジュエリーを身につけるのは、HASUNAが社会貢献をしているからじゃなくて、シンプルな理由で、デザインがかわいくて、身につけているとウキウキした気持ちになれるから。ある一歩を踏み出すときに、「いまのままではダメだ。だから何かをしなくては」と感じるのではなく、「単純に楽しそうだからやる」という気持ちを大事にしています。
私は色々な本を書いているんですが、最新刊として発売を控えているのが『ビジネスパーソンのためのセブ英語留学』(東洋経済新報社)という本で、フィリピンのセブ島に3回赴いて、いま熱い注目を集めている英語留学を取材してきたんですね。確かにフィリピンには貧困をはじめ様々な社会問題はあるのだけど、セブの語学学校には台風で被災した地域に住む先生を積極的に雇用している学校もあるし、500人の先生全員を正規雇用して生活を守っているところもある。
スタディツアーに行くのもいいかもしれないけれど、どうせフィリピンに行くなら、語学留学をぜひ(笑)!そのほうが自分自身も勉強をしながら滞在を楽しめるし、学ぶ、滞在する、食べる、遊ぶという活動を通じて現地にお金を落とすこともできる。社会貢献という意識を持たなくても、フィリピンに雇用も生み出せるうえに英語も身につく(笑)。そう、「ゴミ山よりも語学留学へ!」。
白木 確かにその通りだと思う。ちゃんとしたお金の流れが生み出せるからね。それに、世界中のどこの国にも、負の側面はいろいろあるものでしょう。児童労働があったりゴミ山があるのもフィリピンだけど、楽しい語学留学ができるのもフィリピン。負の側面ばかりに注目するのって、フィリピンを侮辱していることと同じかもしれません。
自分なりの「世界」を
見つけにいこう
見つけにいこう
白木 楽しいこと、本質的に自分がワクワクすることを中心に行動につなげると、「〜するべきだ」とか「〜せねばならない」という義務感で動いているよりも遥かにパフォーマンスが上がると思うんです。私も、ベトナムで「社会貢献を楽しくやる方法がある」って知りました。
安藤 ベトナム?
白木 ベトナムでIpa-Nimaというかわいいバッグブランドに出会ったのですが、香港人のクリスティーナさんというデザイナーが、ベトナム人と和気あいあい、対等な関係で商品を作ったり店舗で販売していたんです。かたや私は当時国連で働いていて、与える人と受け取る人という図式で援助活動をしていました。国連もIpa-Nimaも、社会に何かいいことをもたらすという点では同じことをしている。だったら、アプローチの仕方を変えて、自分が心からワクワクして楽しいと思えることを通じて社会貢献したいと思ったんです。
HASUNAを始めた時、エシカルジュエリーというものが日本では珍しかったので社会の期待も大きくて、私たちも「児童労働をしていない」「森林破壊をしていない」「コミュニティを破壊していない」「マイナスのないジュエリーを作る」という言い方をしていた時期がありました。でもそういう言い方をしてしまうと、いつまでも重箱の隅を突き続けるようにマイナスの側面ばかりに目がいってしまいます。それは私たちがやりたいことじゃないよねと社内で散々議論して、最終的には「世界中のいい素材で、最高のジュエリーを作る」ことが本質だと気付きました。最高のジュエリーを作るには、関わる人に敬意を払うのが当然ですからね。
安藤 同じことが、私たちの「世界を見る目」にも言えますね。ジャーナリストや知識人が世界の問題を指摘してきた結果、意識を高く持とうとすると「問題だらけの世界地図」が頭に浮かんでしまうかもしれない。でも若い人たちには、旅に出て、自分のまっさらな目で見て、楽しいことにコミットして、自分なりの世界地図を頭の中に描いてほしいですね。
白木 楽しい気持ちからいろいろなものが生まれるものだからね。「自分の内側から沸き起こる、ワクワクする楽しさ」を大切にしていきたいですね。
(vol.2へ続く)
1980年生まれ、東京育ち。フリーランサー。慶應義塾大学在学中にオランダのアムステルダム大学に交換派遣留学。卒業後、(株)集英社を経て独立。ソーシャルメディアでの発信を駆使し、肩書や専門領域にとらわれずに多種多様な仕事を手がける独自のノマドワーク&ライフスタイルを実践中。書籍やコラム執筆、商品企画、コメンテーターやイベント出演など、幅広く活動している。これまで世界54ヶ国を旅した経験を生かし、海外取材、内閣府「世界青年の船」ファシリテーター、ピースボート水先案内人なども行う。著書に『冒険に出よう』、『会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術』などがあり、6月には最新刊『ビジネスパーソンのためのセブ英語留学(仮)』を刊行予定。公式サイト:http://andomifuyu.com/
1981年鹿児島県生まれ、愛知県育ち。起業家、株式会社HASUNA 代表。 英ロンドン大学卒業後、国際機関、金融業界を経て2009年4月に株式会社HASUNAを設立。人、社会、自然環境に配慮したエシカルジュエリーブランドを日本で初めて手掛け注目を浴びる。世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加、内閣府「選択する未来」委員会メンバーを務めるなど、国内外で活躍。Forbes誌「未来を創る日本の女性10人」に選出。日経ウーマンオブザイヤー2011受賞、世界経済フォーラムGSCメンバー、JVA2012中小機構理事長賞受賞。最新刊に『自分のために生きる勇気』(ダイヤモンド社)がある。公式サイト:http://www.hasuna.co.jp/
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