飛び込みに人生をかけたエクストリーマーの舞い。「南極の崖からダイブしたい」
ムササビのようにウイングスーツで滑空するエクストリームスカイダイブ、バイクで空中回転するフリースタイルモトクロス、断崖絶壁の滑落にしか見えないダウンヒルマウンテンバイク…。エクストリームスポーツは死と非常に近い位置にある。それでも、エクストリーマー達は「世界初、世界一」を求めて、極みを目指し続ける。
必ずつま先から入る。じゃないと大ケガをするからだ。
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この9月にボスニア・ヘルツェゴビナでおこなわれた「レッドブル・クリフダイビング」の第7戦は、モスタルという街にある世界遺産「スタリ・モスト」が舞台。高さ21.5mの橋の上に、さらに高さ6mの飛び込み台がプラスされ、男子27.5m、女子21.5mから、技を取り入れながら飛び込むもの。
鍛え尽くされた肉体美が、驚速で回転し、まるで大砲のような音と共に川面の中に消えていく様は、強烈のひとことだ。
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27.5mの飛び込み台上は、おおよそオフィスビルで8階くらいの高さ。この高さからまともに衝撃を受けてしまうと、コンクリート壁に全力でぶつかりにいくのと同じ衝撃に相当する。
着水時に、できる限り棒形状になってつま先から入らないと、水面の衝撃が体を襲う。ほんのわずかに斜めで着水してしまうだけで、あざだらけになってしまうほど。ハイダイブでまず意識しなければいけない関門はここにある。もっと言えば、水で急激に減速をかけられる着水のタイミングでは、下半身と上半身の緊張と弛緩を使い分ける必要があるという。
加速度はモータースポーツを超える。
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タイトルを欲しいがままにしているトップダイバーのギャリー・ハントはこう語る。
「もちろん最初のうちは失敗ばかりだから、体中アザだらけになってしまうんだ。そうやって、何度も飛び込んでいくうちに、皮膚が鍛えられていって、少しの失敗ではアザができなくなってくる。俺たちの肌はキックボクサーの選手みたいなものなんだ」
彼らはこの競技に取り組むことを認められし、約50名の選抜。
「競技自体の内容はオリンピックのダイビングとほとんど同じだが、衝撃は桁違い。恐怖感を乗り越えたときに、感動がやってくる」
とギャリーは続ける。
彼はトリックのイノベーターであり、常に新しいことにチャレンジをし続ける。わずか3秒の間に、新しい技術を挟み込んでいく余地がまだまだ残されているという。現在の最大難易度のトリックは「後方2回転&5回ひねり」。もはや肉眼で追うのは困難。
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じつに最高速度90km/hまで加速する、わずか数秒の世界。この加速度は、ランボルギーニ・ムルシエラゴに匹敵する。極限の世界の中で、ダイバー達はおのれの美しさと未知への挑戦を競っている。
これは、地球との戦いだ。
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ワールドツアーは、全9戦。過去のギャラリーは総計100万人を超え、一大エクストリームスポーツに発展したクリフダイビング。このスタリ・モストでの観客も20,000人をオーバーした。ボスニア・ヘルツェゴビナの観光地として有名な地ではあるものの、交通の便は著しく悪い。それでも、会場は大混雑を極めるほどの人気だ。
ダイバー達は飛び込み台の上から観客を煽り、ボルテージを高めていく。「俺は落ちることがすごく好きで、爽快感が好きなんだよ」とはこのクリフダイビングの第一人者であるレジェンド、オーランド・デュケの言葉。
「どんなに観客が多くても、どんなシチュエーションでも、飛び込み台の上では俺はゾーンに入る。そして何も聞こえなくなるんだ」
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ゾーンに入るオーランド・デュケ。
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今回の飛び込み台である「スタリ・モスト」は、16世紀に建設され、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中の1993年に破壊された後、2004年に復元。平和の象徴として、同国になくてはならない、まさに「架け橋」として存在している。
このクリフダイブの面白いところは、彼らクリフダイバー達が世界中をまわってクリフダイブできるロケーションを探し「ここで飛んだらクールだろ!」という飛び込み台を設置し、ワールドツアーを世界中に見せつけているところだ。
「飛んでみたいのは、南極だ。南極でクリフダイブできたらクールだろ!」と、オーランド。偶然か、目下世界王者のタイトルをほしいがままにしてるギャリーも、南極で飛びたいと言い放つ。彼らはダイバー同士として競い合ってはいるものの、最終的にはどれだけエクストリームに飛べるか、を考え続けているのだ。
次戦は和歌山県の白浜町三段壁を舞台に10月15〜16日の開催。観戦エリア(無料)を設けると共に、観戦の船(有料)も運行されるとのこと。また、これらはRedBull TV、AbemaTVでの中継も予定されている。