お遍路の四国から始まる、新しい文化。キーワードは「サイクリング」
1200年の歴史を誇る、四国のお遍路文化。これまで数多くの人たちが、弘法大師(空海)の足跡をたどり、88ヶ所もの霊場を巡礼してきた。これは四国を表す、ひとつの文化となっている。
そしてもうひとつ、新たに四国の文化になろうとしているのが「サイクリング」だ。
愛媛から愛媛へ
サイクリングアイランド四国
愛媛県は、2017年3月に「四国一周1,000キロルート」を発表した。これは、四国を周遊するサイクリングロード。台湾が取り組んでいる、台湾島を一周する環島(ホァンダオ)というサイクリング計画を参考に、中村時広・県知事が仕掛け人となってサイクリングアイランド四国の実現に挑戦している。ひとつの「島」を一周する達成感を、ここで味わうことができる。
実は先日、四国一周と同じ距離でサイクリング先進国の台湾を、ぐるっと自転車でまわった。豊かな自然あり、うまい飯あり、そして走りやすい環境あり。この三拍子がそろった台湾では、50名ほどのサイクリスト集団と何度もすれちがった。サイクリングロードが完成したことによって、これまで観光客が少なかった地域にも人が訪れるようになったらしい。
だけど、都市が集中し工場や車の交通量の多い西側は、排気ガスなどで空気が綺麗とはいえず、マスクを着用しないと走れないという不便さもあった。だからこそ、大気汚染を気にすることが少ない日本では、サイクリングをより快適に行うことができるのではないかと感じた。
四国では自然環境の良さも生かし、台湾と同じようにサイクリングを通して、ひとつの「観光」を生み出そうとしている。
スタートからゴールまで
たくさんのサポート
1,000キロというと、途方もなく長い距離に感じられるかもしれないが、四国では、初心者から上級者までが楽しくサイクリングできるようにサポートも充実している。ポイントは、「あるとうれしい」ことが用意されているところだ。
まず、愛媛県の松山空港には、更衣室とサイクルステーションが設置されている。訪れてすぐに着替えと自転車のメンテナンスができるため、サイクリングをスムーズに開始できる。週末の限られた時間を有効活用したい人にも便利だ。
たくさんの休憩所があるところも良い。愛媛県内には、地域住民が提供する休憩所「サイクルオアシス」が300ヶ所も設置されており、給水やお手洗い、空気入れの貸し出しを行っている。ここで、他のサイクリストや現地の人と交流しながらサイクリングをするのも、楽しいかもしれない。
そして、愛媛県内には、土日祝日、春や秋などの期間限定のものもあるが、鉄道やバスにそのまま自転車を乗せることができるようになっている。基本的に日本では、自転車のタイヤを外し専用の大きなバッグに入れなければ、鉄道やバスの車内に持ち込むことができない。荷物と自転車をかついで運ぶ労力を省くことができるのは、これまでなかなか実現しなかった「あるとうれしい」ことだ。愛媛県では、交通事業者と連携を深めて、このような取り組みを徐々に広げていこうとしている。
日本での先駆けとなる、四国のサイクリングツーリズム。それは、「車がないと不便」という地方観光のイメージを取り払い、「自転車移動を旅として楽しむ」という新しい提案なのだ。美しい景観や美味しい食事。そこにある良いものを楽しむ観光が、ここで始まっている。