試される島、沖縄の「西表島」でナーラの滝を目指す

沖縄・西表島の道路は、途中で開発が中止になってしまったことで、島の半分しか周遊できない。また、島の内地はジャングルに閉ざされている。ある集落は、途中で止まってしまった道路の先にあったため、今でも船で渡らないと到達できない。

道路がないと、どうなるか。

内地のジャングルは、ほとんどが未開の土地として手つかずのままになるのだ。かつて石炭を掘り起こそうとしたこともあり、強制労働の歴史がある西表島だが、マラリアの猛威に開発を断念された。本州であれば大抵どこにでも道があり、物流のために拓かれている。それが存在しないのが「西表島」だ。

西表島の秘境
「ナーラの滝」へ

何らかの理由をもって作られたルートは存在する。これらを探って、トレッキングに出かけるのが西表島のメジャーな楽しみ方。

今回は、なかでも秘境のルートと呼ばれる「ナーラの滝」へ出かけよう。もっとも有名な「ピナイサーラの滝」へのルートもオススメだが、とかく人が多いし、ナーラの滝のルートのほうが手応えがある。

日本のどの土地とも違う
西表島トレッキング

沖縄県最大の川である浦内川をボートでクルージングして、トレッキングルートの入り口へ入る。日本の普通の河川とは、まるで違う風景が左右に広がる。マングローブのせいだ。

マングローブたちは生存競争のなかで追いやられた植物だ、とガイドは教えてくれた。

「生存競争のなかで、育てる場所を失っていったマングローブは、だんだんと潮に耐えられる耐性を身につけていったのです。今でもマングローブの種によって耐性が異なるので、川をさかのぼるとマングローブの種が変わっていきます。この8kmの間に、マングローブが3種変わり、そのうち見えなくなりますよ」

真水に近くなっていくうちに、左右はアダンという植物の森に変わった。素肌で触れると深い傷になるほど鋭いトゲを持つ、厄介なやつらだ。

マングローブのメジャーな一種である「オヒルギ」。最も塩に弱いタイプで、上流に生息する。子どもを連れていくと「迫ってくるみたい」と泣き出してしまうこともあるという。

仕事柄、山に入ることが多い僕は、自慢のゴローのトレッキングブーツを持っていったのだけど、ガイドには出発前に「それではダメです。フェルトブーツに履き替えてください」と諫められた。

その意味が、トレッキングルートを歩いているとすぐにわかる。とにかく特殊なルートで、土を踏みしめるというよりも、滑る岩や木の根を越えていく。フェルトブーツはそういうスリッピーな路面に食いつくのだ。

そもそも、木の根が本州のものとはまったく違う。「板根」と呼ばれる板状の根が、ルートにびっしり生えている。

「木にはできるだけ触らないようにしてください。この島にはヤマンギという毛虫がたくさんいるんですが、こいつらはハブより強力な毒をもっています」

つまり、木は避けていくほうがいい。足の運び方がすごく難しい上に、砂岩の沢をいくつも乗り越えていかなければいけない。

たとえばこちらは、猛毒を持ったヤマンギ(画面中央)だ。見つけられるだろうか、この自然の罠を……。

時間にしてたったの30分程度だったが、濃密だった。

眼前に現れたナーラの滝はすごくキレイで、滝つぼに飛び込んだらとっても気持ちよさそうだ。

カヤックで港へ

往復で1時間のトレッキングを終えて、ツアーのサービスに含まれるお弁当を平らげると、ここからはカヤックの出番だ。

約8kmをゆるやかに下る。時間にしておおよそ2時間でこの日はベストコンディションだったけど、漕ぎ慣れていない僕の腕はパンパンになってしまった。

「修学旅行でいらっしゃる人も多いのですが、女生徒さんは力尽きて漕げなくなってしまうこともあります。雨や向かい風があると、さらに過酷になりますよ」

と、ガイドさん。ともあれ、アマゾンのような川から海までカヤックで漂うルートは、最高に気持ちが良い。

川を1時間ばかりくだっていくと、ガイドさんから「おもしろいものが見れる場所で休憩しましょう」と提案された。

川と浅瀬の狭間にいる軍隊が見えるだろうか?

通称グンタイガニ、正式名称ミナミコメツキガニだ。

戻りの時間は干潮なのだが、干潮時にしか出てこないという。天敵から身を守るために、ちょっとした震動を感じると砂に潜ってしまう。じっとしていると、カニたちがプランクトンを食べている音が聞こえてくる。

西表島は、静かではない。生き物たちの音が、いつも聞こえてくる。

ただ歩いていても、ただカヤックを漕いでいても、飽きることがない。このままずっと漕いでいたいと思いながらも、あっという間に2時間30分の海の旅が終わってしまった。

星なのか雲なのか
わからないくらいの
西表島の星空

西表島は、星を見る場所としても素晴らしい。イリオモテヤマネコを守るため、道路の街灯はほとんどなく、夜は漆黒の闇になる。晴れた日に空を見上げると、とんでもない数の星が頭上を埋め尽くしている。天の川を見失うほどだ。

 

ホテルニラカナイ西表島」では、星を見るアクティビティも用意されていて、参加するとウナリ崎へ連れて行ってくれる。レジャーシートを借りれば、寝っ転がりながら思い切り堪能できるわけだ。本州よりも南に位置していることから、ウミヘビ座がはっきり確認できたりと、天体マニアを唸らせる西表島ならではの楽しみもある。もちろん詳しくなくても、ガイドがちゃんと教えてくれる。

 

正直なところ、家族持ちの僕としては、5歳の息子をつれてアクティビティに参加しようとは思えない。かなりキツイし、触ったらダメ、食べたら死ぬ、という植物が山ほどある。ふざけて口にくわえたりしたら大変だ。

でも、アウトドア好きな友人には思い切り自慢してやろうと思う。こんなミステリアスなアドベンチャー、そうそう転がっていないのだから。

ホテルニラカナイ西表島

住所:沖縄県八重山郡竹富町上原2-2
TEL:0980-85-7111

Photo by 稲垣正倫
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。