岡山・倉敷で大人気の「マスキングテープ屋さん」。店主は70歳のおじいちゃんでした
女性を中心に、数年前から注目されるようになった「マスキングテープ(略してマステ)」。意外と知られていませんが、発祥の地は岡山県倉敷市です。
工業用テープメーカー「カモ井加工紙」が、工場見学に来た女性たちのアイデアをもとに作ってみたところ大ヒットし、全国的にブームが広がりました。まだ倉敷市で取り扱っている店舗が少ない頃から、倉敷美観地区(くらしきびかんちく)にある「TANE」は専門的にマステを取り揃えたことで話題に。
倉敷で生まれた良いものをたくさんの人に届けたいという思いで「TANE」を始めたのは、エネルギッシュなおじいちゃんでした。
女の子の「カワイイ!」を生み出す
現在75歳のチャレンジャー
美観地区に「TANE」をオープンさせたのは、こちらの種ヶ嶋 弘さん。お店の名前は、自分の苗字からとったそう。
もともとは2軒となりの酒屋さんを営んでいましたが、娘さん夫婦にお店を受け渡し、駐車場だったこの場所に新しいお店をオープンさせようと考えました。倉敷を盛り上げるもので、何か新しいもの……と売る物を探していた時に出会ったのが、カモ井加工紙のマスキングテープと、職人が手作りしたアイアン家具。どちらも販売していますが、90%以上のお客さんがマステを目当てに訪れています。
もともと、SNSユーザーの女性をターゲットに考えていたんですか?と聞いてみるとこんな回答が。
「うーん、デザインも豊富だし、女性が好きそうな文具だなとは思ってたけど……こんなにたくさんの人が来てくれるとはね〜、ははは。うちはInstagramもやってないんだけど、お客さんが広めてくださってね、ありがたいですねぇ」
Instagramにアップされる
「壁一面の棚」は種ヶ嶋さんのお手製
訪れた人が撮影していくのが、この上から下までびっしりマステが陳列されている様子。
ありきたりな並べ方じゃなくて、なるべく面白くしたいという思いから閃いたのが、壁一面の木棚でした。実はこの棚、すべて種ヶ嶋さんの手作り。近付いてよく見ると、鉛筆の下書きが残っています。
なんでも、「新しいことを始める時には、ひとまずお金をかけずにできることは自分でやる」というのがマイルールで、扉や窓、コンクリート部分以外は業者さんを入れていないそう。
自分の頭と手を動かしてお店を育てたことで、偶然にもSNSと相性が良い空間が出来たのです。
TANEのトレードマーク!
一目惚れした90年代のミニクーパー
お店のトレードマークとなったこのミニクーパーも、普通の文具店がしないことを考えて選んだそう。
「普通、お店のど真ん中には一番売りたい商品を並べるじゃない。でもそれじゃつまんないなって思って、車屋さんで偶然見つけたこのミニクーパーにピンと来たんです。これがいい!ってすぐに決めてね。そうしたら美観地区にこんな車を置いてるところ他にないから、すぐに覚えてもらえるようになったんです」
マステ収納箱、アイアン家具
「倉敷」を体験してもらうチャレンジ
これまで、履歴書に書ききれないくらい色々な職業にチャレンジしてきたという種ヶ嶋さん。東京では出版社に勤め、名古屋では営業マンをし、その後も転々として、70歳でマスキングテープ屋さんを開業。
「この歳になって、新しいことを始めるのはすごく大変なのよ」と笑います。今店内には1000種類前後のマステがあり、その商品名を覚えたり、発注の仕方、クレジットカード決済の仕方など、とにかく覚えることばかり。
けれど、今日より明日、明日より明後日、自分もお店もレベルアップしていくのを感じられることが、何よりも喜びなのだそう。
アイアン家具のことも知ってもらえるように、ワークショップを開いたり、マスキングテープの収納箱も手作りして販売しています。
今の目標は、2020年のオリンピックに向けて、倉敷にもっと欧米からのお客さんが増えるようにお店のレベルアップをすることと、発信力を高めることだそうです。
何でもトライしてみるおじいちゃんの「TANE」に行くと、私も頑張ろうって元気の種をもらえるんですよね。