「マインドフルネス」の最前線──「テントサウナ」が生むストレスとリラックス

「今いる、その場所」に意識を置き、余計な判断を加えず、あるがままに眺めること──。瞑想やマインドフルネスでよく用いられる精神のあり方を実現できる場所として、サウナが大きなムーブメントとなっています。さらに、近年ではキャンプ場や野外音楽フェスにモバイル型のサウナが設置されるなど“進化”が続くサウナシーンの最前線に「クリスタルボウル」の奏者である私 Magali Luhan(マガリ・ルーハン)が迫ります。

ブームの裏にきっとある
「サウナ」のマインドフルネス的な魅力

サウナとは、摂氏90℃程度の高温に設定された密室で体を温め、汗だくになったころで冷たい水風呂に浸かって体を冷却し、しばしの休憩の後に再びサウナ室で体を温めるという一連の動作を繰り返すことにより、心身を整えていく伝統的な療法です。

サウナ未体験の方は、サウナを「オジさんたちが汗だくで過ごす我慢大会」のように思われているかもしれません。

しかし、サウナ経験者にとっては「毎日でもいきたい」といわしめるほどの魅力を持っているのも事実です。

今回は、サウナ好きが高じてモバイル型のサウナ「テントサウナ」を輸入し、テントサウナ遊びの楽しさを伝える活動やフェスとのコラボイベントなどをおこなう「Sauna Camp.」代表の大西洋さんと、同じく大のサウナ好きであり、フェスへ移動図書館を出展している「PARADISE BOOKS」のJiroken(ジロケン)さんにお話を伺いました。

ちなみに私もサウナ大好きです。

モバイル性も高いサウナの原点
それが「テントサウナ」

©2019 NEW STANDARD

<左>Jiroken/「PARADISE BOOKS」代表 <右>大西 洋/「Sauna Camp.」代表

Magali Luhan(以下 マガリ):最初に「テントサウナ」について教えていただけますか?

 

大西 洋(以下 大西):テントのなかに煙突付きの薪ストーブとサウナストーン(火成岩など耐熱性と蓄熱性に優れた石)を置いて、薪をガンガン焚くことで温度を高め、どこでもサウナを楽しむことができるようにしたものが「テントサウナ」です。

 

マガリ:寝泊まりするためではなく、サウナをするためのテントなんですね。

 

大西:そうですね。もともとは軍隊用として使われていたものです。

第二次大戦当時にフィンランド軍の兵士たちが「サウナがないと戦ってられないぞ!」というところから始まって、最初はサウナ用に洞穴を掘ったりログハウスを建てたりしていたものの、最終形態がテント型になったという歴史があります。

 

マガリ:戦時下でもサウナ! 日本兵がコメを欲したり、海兵隊がカバンにドーナツを隠すのと同じ感じでしょうか?

© Sauna Camp.

大西:そうなんです(笑)。そのくらいのレベルでサウナが根付いています。

フィンランドに「Savotta(サボッタ)」というテントサウナのメーカーがあるんですが、テントサウナ以外はミリタリー系のツェルト(小型テント)とかザックとかの、ワリとゴツめのギアばかりで。軍隊用として使われていたものが、最近は趣味のホビー用で使われるようになってきた感じです。

あとはフィンランドだけでなく、ロシアもアツいですね。

 

マガリ:それらの国では、アウトドアでサウナを楽しむ行為って普通なんでしょうか?

©Sauna Camp.

大西:アウトドアでサウナをするという概念自体が日本だと特別に感じられるかもだけど、フィンランドでは湖沿いにサウナを作って水風呂の代わりに湖に飛び込んだり、雪の中を転げ回ったり、そこにある自然を利用するほうが一般的なんです。

日本人が景色のよいところに温泉を作りたくなるのと近い感覚でしょうか。

 

Jiroken(以下 ジロケン):海外の人がテントサウナを背負ってモンブランの山を登っている動画がvimeoにアップされてましたよね。

©2019 NEW STANDARD

大西:あれはすごかったですね、ハマるんでしょうね(笑)

 

マガリ:モバイル性に富んでいるというのも夢が広がりますね。日本の温泉は持ち運びができないから。

 

大西:それぞれの土地にある薪や水を使うことでサウナの体験に変化が生まれるのもおもしろいです。

季節の草花をフローラルウォーターにしてロウリュ(熱せられたサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させ、体感温度を高める行為)で使ったり、フレッシュなヴィヒタ(白樺の枝葉)があればウィスキング(植物の束で体を叩くマッサージ的な行為)に使えます。

サウナの歴史って2000年といわれているけれど、電気やガスのサウナが作られるようになったのって、ここ100年くらいじゃないですか。やっぱり、薪でやるものなんだなって思います。

薪の熱って、肌への当たりがどこか柔らかくて、数値だけでは言い表せない、土鍋で炊いたご飯をうまいと感じるのに通じるような味わい深さがあります。

フロアの熱気がサウナの
熱波とシンクロする?!

マガリ:いわゆる音楽フェスへテントサウナを出すのって、お客さんの反応はどうでしょうか?

個人的にはサウナの体験って「上がる」か「下がる」かでいうと「下がる」……つまりは落ち着くほうだと思うので、ワーっと盛り上がりたいお客さんたちにはマッチしないように感じるのですが……。

 

大西:そう思うじゃないですか。でも、実際はフロア(ステージ)の音楽にすごく影響を受けるんです。

フロアが盛り上がっていると、サウナ内も盛り上がって、ロウリュの回数が増えたり、フロアの熱気がサウナの熱波とシンクロするんです。

 

マガリ:熱気が熱波とシンクロする、と。

©2019 NEW STANDARD

ジロケン:ロウリュってエンタメ性があるから、水が蒸発する「ジューッ」っていう音だったり、いきなり上がる体感温度だったり。ついつい盛り上がっちゃうんですよ。

 

大西:自分たちも最初は静かなアンビエントミュージックとかをかけて、リラックスできるサウナ空間を作っていたんです。もちろんそれもバッチリとハマって気持ちいいのだけど、フェスの場なんかだとアッパーな音楽の方が合うことに気付かされました。

知らない人同士で同じテントサウナに入ったとき、静かな音楽を聞きながらじーっと過ごすより、アッパーな音楽でワーっとしているほうが会話が生まれやすくて、距離も縮まります。

実際、サウナ室も水風呂も完全な“静”ではないですよね。どちらも状態としては身体に“ストレス”をかけています。完全なリラックスではないから、音楽という“動”のものがあってもよいのだと認識させられました。

今年の5月に 「森、道、市場」というフェスでサカナクションが率いるカルチャープログラム「NF」とコラボしたときは、プールサイドに10台のテントサウナを設置して、ひとつずつアロマの香りを変えて演出しました。

聞こえてくる音楽は同じだけど、テントごとに香りが違うので、変数の要素となって体験に変化を与えてくれるんです。

 

マガリ:それはすごい! 体験型アートインスタレーションの世界ですね。

でも、たとえばそのフェスだと、お客さんはサカナクションを観にきているわけじゃないですか。「なんでフェスにサウナなんだよ」という反応にならなかったですか?

 

大西:サウナ企画の発表当初は否定的な反応も多くて、サウナが持っている「熱い、臭い、息苦しい、我慢大会」みたいなネガティブイメージを払拭できるように、サカナクションのメンバーとも協議して、とにかく情報を発信していったんです。

「こうやって入るといいよ」とか「水着の上にTシャツを羽織っても構わないよ」とか、美容にもいいし、フェスの途中で一休みする気分でどうぞみたいなことをずっと発信し続けて、2週間くらい前になったころにようやく好意的な意見が聞こえ始めて……。

 

ジロケン:ギリギリですね(笑)

 

マガリ:ファンにしてみたら「音楽を聴きたいんだけど」というのが当然の気持ちですもんね。

 

大西:そうなんですよ。さらに、フェスってオシャレを楽しめる場所でもあるから、サウナに入って汗だくになったら、メイクも服も全部台無しになるじゃんという声もあって。

でも「いやいや、シャワーもパウダールームもあるし、サウナでリラックスすればフェスをもっと楽しめますよ」って伝えていって。

そして当日、蓋を開けてみたら「サウナ、すごく楽しい!」という好意的な受け取られ方で、初めてサウナを体験したのに15セット以上繰り返すような女の子もいたので、さすがにそれはやりすぎとアドバイスしてみたり、かなりハマった印象でした(笑)

 

ジロケン:サウナ体験って誤解されている部分も多いから、そういうものじゃないんだと気付いたときの感動は大きいですよね。

© Sauna Camp.
© Sauna Camp.
© Sauna Camp.

強制的に「感覚優位」を生み出す
2000年の歴史をもつ瞑想体験

マガリ:さて、ここまでサウナ談義に花を咲かせてきましたが、この対談って「マインドフルネス」がテーマなんですよ。

 

大西:ですよね。最初はすごい切り口のオファーがきたなと思いましたけど(笑)

 

マガリ:サウナの体験って、すごく瞑想的な側面もあるし、不思議な変性意識に入ることもあるし、肉体疲労とかのフィジカル面への作用だけじゃなく、マインドフルネス的なメンタル面への作用も大きいと思うんです。

 

大西:そうですね。まず、これだけデジタルデバイスに触れている時間が長くなると、人間が本来持っていた感覚的な部分から、ものすごく情報や思考が優位な状態になっていますよね。

でも、サウナに入れば、そこは熱いとか冷たいとかの自分で感じる世界しかなくて、強制的に感覚優位へとスイッチが変わってしまう。

ただスマホを使わないだけのデジタルデトックスよりも、さらに深い状態に入れるんだろうなと。

 

マガリ:何もせずに静かに過ごす瞑想より、熱いとか冷たいのストレスをかけてる分、向き合いやすいところがありますよね。

 

ジロケン:裸だから余計な情報も入ってこないし、他人の情報に振り回されず自分の感覚と向き合うのって、カウンターカルチャー的な要素や、体感がメインなのはフェスの流行と近いものを感じます。

 

マガリ:さらに、熱いのと冷たいのを繰り返して血流を増やすから、脳への酸素供給も増えて、半ば強制的に覚醒へと導かれていく。なかなかヤバイ仕組みだなと(笑)

 

ただ、我々の親くらいの世代とはサウナの楽しみ方が違うのかなと思うこともあります。「ワシはサウナで瞑想しとるんじゃ」みたいなのって聞いたことない気がして……。

 

大西:体験は同じでも、それを表現する言葉がなかったのかもですね。

あと、情報やコミュニティの力ってすごいと思います。サウナの入り方から優れたサウナ施設まで、情報がたくさん得られる時代になっているので。

© Sauna Camp.
© Sauna Camp.
© Sauna Camp.

マガリ:これまでにサウナ体験で深い精神の世界へ入り込んだことってありますか?

 

大西:去年の冬に、すごく天気がよくて温度も湿度もバッチリな状態でテントサウナをやったとき、スーッと思考が空っぽになって感覚優位になったところへ、「自然がでかい!」とか「空もでかい!」「空気うまい!」みたいな、圧倒的な感動がものすごく入ってきて、逆に「自然が本気を出したら危ないぞ」みたいな災害のことまで意識が及んでしまったことがあります。

でも、そこで「怖い」という感情と同時に「生きている」という感覚が出てきたんですよね。“死”を意識したことで“生”に気付けたというか。

そういう圧倒的な体験って、街のサウナだとなかなかなくて、その理由を考えてみたら、都市ってすごく便利に開発されているけれど、自然のなかは不便なままじゃないですか。

都市生活を続けていると、自分が大きな自然の一部であったことを忘れてしまうんですよね。

でも、サウナを通じて身体感覚が自然と一体になると、自然に敬意を抱きつつ、自分もその自然の一部であると自覚できるんです。

クライマーとかサーファーもそういうのがあるのかもだけど、サウナはそのハードルがとにかく低くて、インスタントな悟り気分が得られるのはすごいなと思いました。

 

マガリ:私も印象に残っているサウナ体験は伊豆諸島の青ヶ島だったり、アメリカのスウェットロッジ(ネイティブアメリカンが屋外のサウナ的な空間でおこなう儀式)だったりするので、やっぱり自然のなかはいいですよね。

そして、サウナは基本的にオジさん文化ですよね。でも、今までの癒やし系やウェルネス系って女性目線のものが多かった。ヨガの人口も日本だと圧倒的に女性だし、男性禁止のヨガスタジオもあります。

男性が「瞑想をやっています」みたいなことをいうと、ずいぶん意識が高く聞こえてしまってたけど、サウナは庶民的でハードルが低いですよね。

 

大西:実際の体験としては深いことをやりつつ、すでに社会に浸透しているからこその入りやすさがありますよね。今は「こんな世界が身近にあったんだ!」という再発見がおこなわれている時代のように感じます。

サウナって可変要素が多くて、サウナ室内の温度・湿度、空間設計、香り、水風呂の温度、水質など、オタク心をくすぐられるんですよね。

掛け合わせの楽しさというか、「これで完璧!」みたいなシンプルな到達点がない分、今後はもっとバリエーションが増えておもしろくなるはずです。

テントサウナはモバイル性を活かして可変要素をさらに複雑に掛け合わせることができるので、四季の変化があり、水が豊かな日本の文化と融合させたおもしろさを作っていきたいと思っています。

©2019 NEW STANDARD

「対談を終えて......」
Magali Luhan

本来、自分と向き合うことってとっても身近な行為のはずです(だって自分ですもの)。でも、たくさんの情報に囲まれ、タスクが山積みな日々の生活では、自分と向き合うことさえ忘れがち。全裸になることで既存の世界(デフォルト・ワールド)から切り離し、さらにそこへ熱い・冷たい・心地よいという環境の変化を与えることで、より感覚を意識させやすくする。

あらためて「サウナってよくできた仕組みだな」と思いました。

そして、敷居の低さも本当に魅力です。サウナに着ていく服がないということもなければ、サウナ内では他人に干渉し過ぎないという暗黙のマナーが存在します。ヨガをやってみたいけどウェアとか持っていないし、瞑想スタジオで意識高い人に説教されたらどうしようというような心配もありません。

ぜひ、お近くのサウナ店の扉を開けて、新たな体験に触れてみてください。今後、テントサウナが作り出す新しい文化も気になります!

大西 洋/「Sauna Camp.」代表

テントサウナ専門WEBメディア「Sauna Camp.」代表。テントサウナから湖へダイブする気持ちよさに感動し、2017年5月に友人ら3人で「Sauna Camp.」を立ち上げる。2019年5月には「森、道、市場2019」にてミュージシャン・サカナクション主宰のカルチャープログラム「NF」とコラボレーション。2019年秋からはロシア製テントサウナブランド「Walrus」の正規代理店を務め、アウトドアサウナの魅力を広め続けている。
https://saunacamp.net/

Jiroken/「PARADISE BOOKS」代表

移動図書館「PARADISE BOOKS」代表。山から海、街中まで、様々な場所で本と出会えるチルスペースを展開している。ブックセレクトは絵本など子どもが楽しめる本からディープな内容のものまで幅広く、イベントごとにラインナップを変えている。ZINE出版やワークショップ、店舗のブックセレクトなども手掛ける。
https://paradisebooks.jp/

Magali Luhan/「クリスタルボウル」奏者

2005年よりクリスタルボウルの奏者としての活動をスタート。毎月開催する定期イベントのほか、各種コラボやリトリート、完璧な暗闇空間での演奏など、全国各地で年間100回を超える演奏をおこなう、旅するクリスタルボウル奏者。当企画の「聞き手」としてマインドフルネスに関わる情報を発信していく。
https://crystal-soundbath.com/

Top image: © Sauna Camp.
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。