「マインドフルネス」の最前線──メディテーションとエンタメが融合した「装置」とは?

扉を開けて、装置のなかに入る。天井が高く、内壁が布張りのためか、不思議と圧迫感はない。

天井に向かってゆるやかなアーチを描く柱たちが、意識を自然に上へと向かわせていく。ピラミッドも教会も、三角屋根になっているのは同じ理由なのかなと想像する。

タッチパネルからプログラムを選ぶと、空間全体がやさしく色を変えた。ヘッドフォンを装着。「あ、音がいい」。低音がしっかり出ている。

ヘッドフォンから聞こえるガイドに合わせて呼吸を続ける。意識がゆっくりと安らいでいく……。

©2019 Magali Luhan

オフィスに設置できるメディテーション空間「メディテーションポッド」を日本で展開する「ラッセル・マインドフルネス・エンターテインメント・ジャパン社」。

“マインドフルネス”と“エンターテインメント”を並列つなぎにした社名を掲げる同社の代表・大西茂久氏に、メディテーションとエンタメの融合、彼らが夢見る未来について、「クリスタルボウル」の奏者である私 Magali Luhan(マガリ・ルーハン)がお話を聞いてきました。

超合理主義社会に必要だった
「メディテーション」というアプローチ

Magali Luhan(以下 マガリ):「メディテーションポッド」を体験させていただいたのですが、おもしろかったです。すごくこだわって考えられているなと思いました。

では、まずはメディテーションポッドとの出会いから教えていただけますか?

 

大西茂久(以下 大西):最初に見つけてきたのは、弊社の千葉龍平(創業者・米国本社CEO)なんです。当時の彼は「エイベックス・インターナショナル・インク」の副会長をやっていたのですが、「カプセル型の瞑想装置を作りたい」というようなことを言っていて、「会社や自宅で瞑想をしたいときに、そういうハコがあればいいよね」と。

©2019 Magali Luhan

大西茂久/「ラッセル・マインドフルネス・エンターテインメント・ジャパン社」代表

大西:メディテーションやマインドフルネスをマネタイズさせようと考えたときにも、ポッドやスタジオのような「空間ビジネス」は大切だし、おもしろいなと思って情報を探していたら、マイアミですでにマシンを作っている会社を見つけたんです。

ロサンゼルスにいた千葉と吉田(共同創業者)がすぐに体験しにいって「よかったよ!」みたいな感想を聞かされました。

 

マガリ:西海岸のロスから東海岸のマイアミとなると……真逆ですね。

 

大西:アメリカ横断ですね(笑)。その後に私もマイアミへいって、3人で一緒にポッドに入ったりして「これはいいものだ」と確信しました。

それなら、自分たちでゼロから作るのではなく、まず最初はこれを輸入してみようということになったんです。

 

マガリ:このポッドは3人で入れるのもいいですよね。座った感じの膝の距離感がサウナの距離感というか、近すぎず遠すぎず。桃園の誓い(※1)をしたときもこんな距離感だったんじゃないかなと。

アメリカの事情を少し教えていただきたいのですが、日本でもマインドフルネスという言葉が輸入されて、アメリカではメディテーションがブームという情報を目にすることも増えたのですが、そんなに一般的な存在なのでしょうか?

※1/中国の明代に書かれたとされる歴史小説『三国志演義』のなかで、劉備、関羽、張飛が義兄弟の契りを交わすシーン。

©2019 Magali Luhan

大西:かなり一般的ですね。

数字でいうと約3,600万人がメディテーションをやっているといわれています。アメリカの人口が3億2,000万人くらいだから、約10人に1人以上です。お金にすると2,000億円の市場規模があって、一番大きいのはスタジオの収益。日本でヨガスタジオが駅前にあるように、アメリカではメディテーションスタジオが2,500軒くらいあるんです。

メディテーション関連のアプリも、月々10ドル課金されるものを100万人が購入しています。

 

マガリ:毎月1,000円の課金ということは、「Netflix」の月額料金とほぼ同じということになりますね。それが100万人だと……毎月10億円?

 

大西:そうなんです。そんなアプリがひとつふたつじゃなく存在します。アメリカでマインドフルネスはそれだけ一般的なものであり、しっかりお金に変わっているんです。

週末になるとヨガとメディテーションのイベントをサンタモニカの埠頭でやっていたり、週末に3泊4日のハワイのリトリート(数日にわたって瞑想やヒーリングなどのウェルネスをおこなう小旅行)に出かけたり、今や決して特異なものなどではなく、日常のそばにあるんです。

 

マガリ:すごいですね。ただ、私のイメージだと、マイアミなんて最高に楽しい場所だと思うんです。ビーチはキレイだし、大規模なフェスもやっている。カリフォルニアもそう。空港を出てカラッとした空気に触れるだけで気分が高揚します。

なのに、なぜそんなにメディテーションが根付いているんでしょうか?何を求めていると思いますか?

 

大西:おそらく、ひとつは“不安感の払拭”です。

2001年に911(アメリカ同時多発テロ)が起きて、アメリカという存在そのもが暴力をもって否定され、あらがえない不安が人々の間に広がりました。そこからの平安を求めてなんじゃないかな……と。

もうひとつは“自分らしく生きたい”という思いで、2008年のリーマンショックをきっかけにして広がった経済的な不安のなかで、物質的なものだけではない、自分らしさを求めての行為だと考えています。

 

マガリ:毎日ハンバーガー食べてアメ車に乗って陽気に過ごしているわけじゃないんですね。

60年代や70年代に起きたビートニクやヒッピームーブメントのなかでは、メディテーションのような行為は資本主義社会・物質文明に対するカウンターカルチャーとして存在していましたが、今はカウンターではなく、より一般に広がっているわけですね?

 

大西:そうですね。超合理主義のアメリカ社会ならではともいえます。

仏教みたいな別宗教の要素であっても、宗教性を排除しながら上手に取り入れて活用しています。さらに、マインドフルな状態だと仕事の効率もよくなると気づいたことから、企業でも超合理主義的にメディテーションやマインドフルネスの考え方が導入されていきました。

決められた労働時間のなかで、いかに効率化していくかが大切だから、雑念にとらわれていては非効率になってしまうんです。

 

マガリ:なるほど。それって、過去の時代では日本人が得意としていたことのようにも思えます。海外の文化であっても上手に活用し、資源に乏しい国土でも工夫して経済を発展させてきた。

今の時代、再び私たちが学べるところも多くありそうですね。

伝わりづらい世界だからこそ
「エンタメ」の要素は不可欠

マガリ:社名に「エンターテインメント」とありますが、日本でメディテーションやマインドフルネスをより広めていくためにはその要素が重要と考えているのでしょうか?

 

大西:はい、その通りです。会社名に入れちゃってるくらいなんで(笑)。

行為の内容が科学的であるのは当然の前提条件として、メディテーションやマインドフルネスをより多くの人に届けるためには、気軽さや楽しさ、見た目のワクワク感などのエンタメ要素が大切だと考えています。

やっぱり、気軽なものじゃないとスタートできないし、楽しいものじゃないと続けられないじゃないですか。

間口は広いけれども、足を踏み入れてみたらちゃんと深さがあるというような。学習する意欲が沸いて、継続性のあるものこそが定着すると考えています。

メディテーションポッドは、まさにそういうものだと思います。

©︎OpenSeed LLC./ Russell Mindfulness Entertainment Inc.

マガリ:メディテーションポッドは“装置”として存在するから、ちょっとゲーム感覚というか、チャレンジするハードルが低いですよね。「私のところにメディテーションしにきてください」より「疲れたらポッドにどうぞ」の方が抵抗が少ないですもんね。

 

大西:ポッドがオフィスにあれば、一服気分でメディテーションができます。遠くのスタジオまでいく必要もないですし、いつでも好きな時間に使えます。脳や身体、思考を休めるだけじゃなく、集中力を上げるためのプログラムにも切り替えられます。

日本で日常的にメディテーションをしている人は2%以下といわれていて、マインドフルネスという言葉を聞いたことがない人もまだまだ多いですが、まずはポッドのような手軽な方法で、その心地よさを知ってもらえたらなと思います。

 

マガリ:オフィスにあるというのはいいですよね。自分だけメディテーションして整っていても、同僚から毎日100通メールが届いていたら効率が落ちてしまいますが、オフィスにあってみんながマインドフルになっていれば、一気に環境が変わるかもしれない。

 

大西:オフィスにポッドがないころからメディテーションをやっていた方からは「デスクじゃできないので、トイレで隠れてやっていました。こういう時代がくるとは思いませんでした」という感想をいただいたことがあります。

また、いろいろな会社でマインドフルネスのセミナーを開催しているんですが、すごく高い関心をもっていただいています。「気になるけれど、なんだかよく分からない」というところを、エンタメの要素を盛り込むことで分かりやすく届けられたらと思います。

「意識して生きられるか否か」
これからの時代を人間らしく生きるために......

マガリ:ところで、御社には千葉さんのように、もともとエイベックスの方も多くいらっしゃいますよね。マインドフルネスの定義を「満たされた精神状態」とするならば、エイベックスという音楽会社が世間に提案してきたダンスミュージックによる高揚感や一体感も、エンタメ要素満載なマインドフルネスへのアプローチだと思うんです。

でも、今は異なるアプローチに挑戦しているということでしょうか?

 

大西:たくさんの情報があふれるなかで「自分ってなに?」というものを再発見し、表現していくためですね。

自分らしさは自分にベクトルを向けないとわからないですから、それは大騒ぎの高揚感や他者との一体感ではなく、メディテーションによってアプローチできるものだと考えています。資本主義とは別の、並行するもうひとつの新しい価値観を作り出したいという願望もありますね。

ただ、まだまだ一般的ではない存在なので、たくさんの方に聴いてもらえるメディテーションの音楽や、スタジオやフェスを作ったり、アーティストの育成など、これまでのノウハウを活かして社会貢献をしていきたいです。

朝にオーガニックコーヒーを飲んで、ヨガとメディテーションをやって、サウナに入れば、自己肯定感が上がって、さまざまなことにチャレンジしてみたくなる、つまり、知的な刺激が得られるような場所を作りたいんです。

 

マガリ:知的な刺激は本当に大切だと思います。今の時代、どうでもいい刺激が多すぎるから、イライラしたり攻撃的になったりもしますし、選びきれないことのストレスは大きいですし……。

 

大西:いらない刺激の排除には“意識すること”が重要です。友人の近況を知りたくてSNSを見ていたつもりが、つい広告をクリックしてしまったり、歩いていたら位置情報でリコメンドされてしまったり。

人間と機械の戦いではないですけど、いかに人間らしく生きていけるかは、いかに“意識して生きていくか”ということにかかっていると思います。

メディテーションやマインドフルネスを通じて一人ひとりの幸福度を高めることは、世界平和につながることだと心から信じています。

©︎OpenSeed LLC./ Russell Mindfulness Entertainment Inc.

「対談を終えて.....」
Magali Luhan

私がおこなっているクリスタルボウルの音楽メディテーション会などは、ややもすればスピリチュアルどっぷりな世界になってしまうため「霊性」と「精神性」のバランスを常に意識しています。

霊性とは“何かを成す力”のこと。精神性とは“霊性を客観視し、コントロールする力”のこと。

霊性ばかり高くて精神性が低いままだと、一般社会にいられなくなるかもだし、カルトみたいに凶悪化していくかもしれません。かといって、精神性だけあって霊性がなかったら、口先だけの妄想野郎になってしまいます。

今回の対談を通じて、さらにそこに「エンタメ性」を加えることって大切なんだなと思いました。

なかなか腹を割って話せないから飲みニケーションをやってみたり、文章で読むよりマンガで読む方がすっと入ってきたり、それこそが“エンタメのなせる技”なのかな、と。

なにかうまくいかないとき、ひょっとしたらそれは、エンタメ性が足りないのかもしれません。

エンタメは人と人、そして人とカルチャーをつなぐ重要なキーワードであることを再認識した、すごく有意義な時間となりました。

大西茂久

「ラッセル・マインドフルネス・エンターテインメント・ジャパン株式会社」代表取締役CEO。「住友商事株式会社」にて、メディア・エンターテインメント業界、ICT業界、リテイル業界のM&A戦略の立案及び実行、並びにPMIのプロジェクトなどを手掛けた後、「Sumitomo Corporation of Americas(ニューヨーク、ロサンゼルス)に駐在し、現職。米国にて当該事業の市場規模・成長性を垣間見て、本事業立ち上げに参画。大阪大学卒業。
https://www.russellme.com/

Magali Luhan/「クリスタルボウル」奏者

2005年よりクリスタルボウルの奏者としての活動をスタート。毎月開催する定期イベントのほか、各種コラボやリトリート、完璧な暗闇空間での演奏など、全国各地で年間100回を超える演奏をおこなう、旅するクリスタルボウル奏者。当企画の「聞き手」としてマインドフルネスに関わる情報を発信していく。
https://crystal-soundbath.com/

Top image: © 2019 Magali Luhan
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