熊本からLAへ。ベーカリー「ろじぱん」が目指す “パン×エンタメ”とは?

目指しているのは、お客様がワクワクする“パン×エンターテインメント”——そんな九州・熊本のベーカリーが地元の人たちを魅了しています。その名も「ろじぱん」。熊本県内に3店舗を構え、9月中旬にはなんとアメリカ・ロサンゼルスに4店舗目をオープン。

東京をスキップして海を渡る挑戦には、パンづくりの経験ゼロからお店を始めたオーナーの想いが込められています。

黒糖パンは母の味
郊外型ベーカリー「ろじぱん」

©2019 ろじぱん

ろじぱんの創業は2007年。熊本県内に展開する4店舗は、それぞれ趣が違います。熊本城の近くにある古城店は落ち着きがあって上品。かと思えば、熊本市の郊外にある小山本店は敷地面積450坪の広さを誇り、大型駐車場やカフェ、キッズスペースを完備しています。

店舗によって客層も雰囲気もまったく違う、その街に合わせた店舗づくりが、ろじぱんの特徴であり魅力。熊本県民を中心に、幅広い世代から愛されています。

「ろじぱんの原点はおふくろなんですよね。感謝しかないです」

そう語るのは、オーナーの藤井さん。ろじぱんの「黒糖パン」は、シャリシャリした食感がクセになる看板メニュー。これは、自宅で小さなパン屋を営んでいたお母さんのレシピを再現したもの。創業以来、母から受け継いだ味を広め、いまや50〜80種類のなかで最も人気をよんでいます。

「そこにオーブンがあったから」
一文無しでベーカリーを始めたワケ

今でこそ人気店のろじぱんですが、はじまりは壮絶。

©2019 NEW STANDARD

「パン屋のオーナーだから『パンが好きで〜』みたいなエピソードがあると思うでしょ?僕は、好きでもないのに始めたんですよ」

この言葉の意味は、創業エピソードを聞いてはじめてしっくりきます。

藤井さんの経歴は、サラリーマンにはじまり、飲食店勤務、クラブDJ、イベンター……と多岐にわたります。もともと、飲食店に興味があって楽しいこと好き。鉄道会社勤務を経て飲食の道へ飛び込むも、質より量を重視する環境に限界を感じ、しまいには、長時間労働で心身ともに疲弊してしまいました。

「今だから笑って話せますが、当時は本当に悲惨でした。勤めていたお店も倒産し、家に帰っても電気がつかない。ポケットには小銭しかない。いよいよダメかな……という感じでしたね」

そんな状況で、目に留まったのが実家のオーブン。「何とかしなきゃ」の一心で、材料を買って焼いてみるも、できたのは“石ころ”みたいなパン。お母さんに「センスがない」と言われながら練習すること2週間。ようやく、食べられそうな食パンが焼けるように。

「はじまりはまさに、そこにオーブンがあったから。パンが好きでもなんでもなかったんですね。焼けばお金になるかな?くらいの感覚でした。オーブンを買うお金なんてなかったわけだから、実家がなければパンを焼くこともできなかったし、今とは全然違う人生になっていたと思います」

これまでの経験を試す「LA」進出
挑戦を続けられる原動力とは?

©2019 ろじぱん

はじめてのパンづくりから、ベーカリーとして軌道に乗るまでも前途多難。まずは、車を使って移動販売をスタート。1ヶ月ほど経った頃に、息子さんの病気が発覚します。

「今は元気なんですが、当時4歳だった息子は、日本ではまれな癌でした。状況を受け入れられるわけもなく、パンを焼けない日々が続きました。でも、途中で考え方が変わったんですよ。『一番辛いのは息子なのに、何で俺は目を背けているんだろう。俺も戦わなきゃ』って思ったんです。とはいえ、赤字の状況は変わらずですよね。だって、技術もない、財力もない、知名度もないですもん」

「自己破産」の文字が頭によぎるほどの厳しい状況が続くも、情報誌の取材が舞い込み状況は一転。特集ページに掲載されたことで、しだいに客足が増えていきました。評判は口コミで広がり、崖っぷちの状況から脱出。厨房の拡大のほかに、支店を展開し、2013年には現在の小山本店がオープンしました。

「その頃からですね。お金の部分を意識しなくなったのは。経験がないところからスタートしてる自信のなさから、パンはもちろん、音楽や空間づくりも必死に勉強しました。あとは、働いてくれている人たちにいい環境をつくらなきゃという方向を意識し始めたのもこの時期です」

LA店の話が浮上するのは、もう少し後の話。きっかけは、ロサンゼルス在住の日本人経営者との繋がりでした。

「ろじぱんLA店の隣は、日本料理の居酒屋なんです。オーナーさんは、30年ほど現地に住んでいる日本人なんですけど、たまたま隣の物件が空いて、日本のベーカリーがあったらいいなという話を僕も繋がりのある起業家の方にしたそうなんです。それで、話をいただきました。最初は100%やらない方向でした。でも、限られた人生、頭ごなしに断るのはもったいないって思ったので、とりあえず、遊びに行ってみようくらいのノリで現地に行きました」

©2019 ろじぱん

はじめは遊び感覚だったそうですが、物件や環境、現地の人たちの雰囲気をみているうちに「やってみよう」という心境に変化。「どうしてロサンゼルス?」とよく聞かれるそうですが、あえて狙ったのではなく、たまたま海を越えた……というわけです。

「自分でいうのも何ですが、これまでの人生が波乱万丈すぎたんです。だからこそ、今後の人生、昔ほど怖くはないんだろうなあって思えるようになりました。それに、せっかくご縁とチャンスがあるんだから、やってみようと。“限られた時間の使い方”に価値をおこうと思ったんです」

異国の地・ロサンゼルスでは「ろじぱんの個性を出しつつも、ニーズに合ったパンや空間を提供したい」と藤井さん。熊本とLAではお店に並べるパンの種類も違えばサイズ感も違うけれど、看板メニューの黒糖パンはそのままのレシピで連れて行くそうです。

「プレッシャーはもちろんあります。けど、ロサンゼルスでもろじぱんらしいものを提供していきたいです」

ちなみに、現地の人たちに試食してもらった「黒糖パン」の評判は上々なのだとか。

パン屋を遊園地に
目指すは「パン×エンターテインメント」

©2019 ろじぱん

ろじぱんの合言葉は「ワクワク」。そして、藤井さんが目指すのは“パン×エンターテインメント”。わかりやすく伝えるならば、遊園地のようなパン屋なんだそうです。

「遊園地に行くってなるとワクワクしませんか?チケットを買いながら、早くゲートをくぐりたいって思いますよね?遊園地が夢を与えてくれるように、ベーカリーも夢を与えられる仕事だって思うんです。ただパンを焼いて提供すればいいってもんじゃない。商品のラインアップも、店の雰囲気も、スタッフの接客も、演出部分も含めて努力が必要だと思います」

だからこそ、藤井さんはスタッフを第一に考えた店づくりを心がけています。スタッフがやりがいを持って働けてこそ、お客様がワクワクする価値を提供できるというのがろじぱんの考え方なんです。

「“パン×エンターテインメント”を追求するために、LA店で具体的に何ができるかはわかりません。でも、LA勤務という可能性があるのは、熊本で働くスタッフたちのワクワクのタネになるんじゃないかなと思っています」

ろじぱんのLA進出は、藤井さんの生き様そのものであり、同時に、ろじぱん流のお店づくりの一環でもあるんだなと思いました。ロサンゼルスのまちに溶け込んだ「ろじぱんLA店」の今後がとても楽しみです。

Roji Bakery
住所:807 S La Brea Ave Los Angeles,CA 90036 United States
営業時間:9:00〜16:00
定休日:月
TEL:323-852-3311

rojipan(ろじぱん)本店
住所:熊本県熊本市東区小山3-10-2
営業時間:10:00〜19:00
定休日:日、祝日
TEL:0962-82-8618

Top image: © 2019 ろじぱん
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