シカゴを拠点に活動するマルチプレイヤー「セン・モリモト」インタビュー

京都生まれのマサチューセッツ育ち。現在、シカゴで活動しているセン・モリモト。ルックスは、チルなスタイルにロングヘア。25歳(インタビュー当時)。

彼はとんでもないイマジネーションとクリエイティビティを持つ驚異的なアーティストだ。

10歳からサクソフォーンを学び、今ではマルチプレイヤーであるセンはジャズから学んだ音楽理論を下敷きに、フレッシュで、実験的で、そしてなによりもカッコイイ音楽を作る。

日本でのライブデビューは2018年のサマーソニック。今年は代官山UNITでも他のアップカミングアーティスト(AAMMYY、春ねむり、和田彩花)とも素晴らしいパフォーマンスを披露した。

このインタビューは、そのライブの前に行ったものだ。

「アニメの『ザ・シンプソンズ』が好きで、サックスをはじめたんだ」
〜音楽的ルーツ〜

© NEW STANDARD 2019
ベン

まずは、センの音楽的なルーツについて聞きたいな。幼少期から楽器をやっていたんだって?

セン

幼い頃にサックスをはじめたんだ。ジャンルで言えば、ジャズだね。

その頃の先生たちは、僕が興味あること、学びたいことを自由にやらせてくれた。だから、ジャズミュージックだけでなく、即興演奏や実験音楽も学ぶことができたのが大きいね。

ただ、古典的なトレーニングは凄く苦手だった。子どもの頃にやっておけばよかったと思うことがいっぱいあるよ。だけど、即興やジャズミュージックに集中できた経験は、今僕が持つ音楽への繊細さ育むのに役立っていると思う。

ベン

今のセンはマルチプレイヤーだし、いろんな楽器に興味を持っていると思う。だけど、どうして入り口がサックスだったんだろう?

セン

もともとサックスをはじめたのは……『ザ・シンプソンズ』が好きでね。とくに、リサ・シンプソンズが彼女が憧れているBleeding Gumsと一緒に演奏するエピソードが好きだったんだ。それで、サックスをやったらかっこいいかもと思ったし、それが1番やりたいことだと最初に感じたってだけなんだ。

ベン

子どもの頃は、どんな音楽を聞いてたの?

セン

僕のお父さんはたくさんCDを持ってた。ゴジラのサウンドトラックからダイアナ・ロス、『Led Zeppelin II』まで。変なセレクトだよね。

なかでもお気に入りだったのは……わかんないな(笑)。でも、『Led Zeppelin II』にはとても驚かされたし何度も何度も聞いた。あと、『Coltrane for Lovers』っていうジョン・コルトレーンの編集盤も。それからバート・バカラックの『GOLD』は、僕にとっては大きな存在だ。あとは、カーペンターズやトム・ジョーンズにも素晴らしい曲がたくさんあると思ってるよ。キャノンボール・アダレイもサックスプレイヤーとしては、挙げておきたい。そうだ!お父さんはビヨンセの『B’Day』のCDも持っていたよ。

今、名前を挙げたものはジャズばかりじゃないよね?だけど、確実に僕を形成していると思うよ。

ベン

とてもユニークなセレクションだと思う。フェイバリットなミュージシャンを挙げてもらうのは、難しそうだから質問を変えるよ(笑)。

今、コラボレーションしたいミュージシャンは?

スティーヴィー・ワンダーかな。あとは、ファレルとか……うーん。ビヨンセ?そう、ビヨンセとコラボレーションしてみたい!僕に連絡してよ、ビヨンセ(笑)。

彼女だけじゃなくて、とにかくたくさんの人とコラボレーションしてみたいね。

ベン

本当に幅広いね。今、ハマってる曲はある?

セン

Kadhja BonetというLA出身のアーティスト。彼女の『The Visitor』というアルバムがすごくいいんだ。それ以外だと普通にポップスを聞いているかな。

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「いろんな要素が積み重なって、今の僕の音楽ができている」
〜自身の活動について〜

ベン

ルーツだけでなく、セン自身が生み出す音楽についての話をしよう。

最新のアルバム『Cannonball』では、いろんな楽器を演奏しているね。

『Cannonball』で?

サックス、ボーカル、ドラム、ギター、バス……たくさんのビートプログラミング。コンピューターシンセサイザーのようなもの、ERM サンプリングも。うん、すごくたくさんだね。

なかでも難しいと思っているのがベースだ。一方で一番楽しいと思う楽器でもある。ベースを間違うとすべてが台無しになってしまうんだ。

あとは、ギターも勉強中だよ。

ベン

楽器もだけど……音楽のセンスとかバイブスとか。センの持っている個性みたいなのは、どこからくるんだろう?

セン

いろんな要素の積み重ねだと思うんだよね。

18歳の時にビートを作り始めて、コンピューターにドラムの音がなかったから、自分でスネアドラムを叩いてそれを録音して……そんなことの積み重ねが、今の僕の音楽につながっていると思う。

ベン

そしてセンはラッパーでもある。

セン

ティーンエイジャーの頃にラップをはじめたんだ。

当時は怒りで溢れていて、最初のミックステープのタイトルは『留置所』。ものすごく攻撃的なものだった。僕は“大人しい性格の日本人”という固定観念を覆したかった。それをパフォーマンスで表現することで、人々に考えてもらえるって思っていた。

だけど、それから少し大人になって「これはかなり強烈だよな」と思った。いろんな人を嫌な気持ちにさせてるんじゃないかってね。

ベン

センがジャパニーズアメリカンであるってことと関係があるんだね。

少し前まで、アメリカのミュージックシーンで注目を浴びるアジア系と言えば、リンキンパークのマイク・シノダしか思いつかなかった。

セン

えっ?リンキンパークに日系人がいるの!?

それは知らなかった。すごくいいね。

今ではMitskiも人気だし、Jojiもそう。結構たくさんのアジア系アメリカ人が音楽の世界で活躍している。とてもポジティブなことだと思うよ。

ベン

その象徴が、アジアにルーツを持つアーティストたちのヒップホップレーベル「88rising」だよね。

セン

うん、彼らとコラボレーションしているしね。

僕の兄弟のユウヤはショートフィルムやビデオをいつも作っていて、僕は『Cannonball』のミュージックビデオを彼に頼んで作ってもらんだけど、88risingがそれを見て「かっこいいじゃん!」と言ってくれたのがはじまりだ。

そこから彼らのYoutubeに出演させてもらって、もっと様々なことを一緒にやろうってなったんだ。

ベン

やはり88risingとは共鳴するところがあるんだね。

セン

僕は人々を強く繋げるような活動は素晴らしいと思ってる。音楽が広まって、人々が他のアーティストたちを見て、それを聞いている人たちがいるっていうのはとても大事なことだよ。アジアンアメリカンの子どもたちが「有名なラッパーがいる!僕にもできるぞ」みたいな流れになるといいな。

結構、ハードルは高いと思うけどね。ヒップホップの世界は「ブラックミュージック」だからね。ちゃんとその文化を理解していないといけない。

「スーパー銭湯にも行くよ。ただ入れてもらえないことが多い(笑)」
〜日本について〜

ベン

このインタビューの読者は日本人です。だから、センが自分のルーツのひとつである日本についてどう思っているかも聞きたいな。

セン

日本で生まれて、僕の家族や親族が日本に住んでいる。なかでも、祖母の家にはよく行くよ。お茶も飲むし、スーパー銭湯にだって行く。ただ僕はタトゥーがあるから入らせてもらえないことが多い。別の場所を探さないとね。

あとは日本では食べてばっかりだ(笑)。

ベン

日本で音楽活動をしていく予定は?

セン

まだなにも決まっていないけれど、僕の兄弟は日本に住んでいるし、もっと日本に来て、彼と一緒の時間を過ごしたいと思っている。いろいろと冒険もしてみたい。観光客としてじゃなくてね。

ただ現在は、来年発表されるプロジェクトがいくつかあって……まだなんとも言えないな。

セン・モリモト✕88rising

インタビューでも触れている88risingとのコラボレーションによる『People Watching』のMV。

セン・モリモトを知りたいなら、まず見て欲しいビデオです。

アルバム『Cannonball』

2018年にリリースした『Cannonball』。ヒップホップとジャズのエレメントが混ざった、チルなバイブスを感じる名作です。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。