「全裸で生活をしたら、クヨクヨするのが馬鹿らしくなりました」 坂田ミギー インタビュー

アラサー・独身・彼氏なし──。数々の有名な広告賞を受賞しながら、仕事と恋愛に絶望したクリエイター・坂田ミギーさんは、すべてを投げうって世界一周の旅に出ました。旅先での出来事や出会い、そして想いを綴った書籍『旅がなければ死んでいた』を上梓した坂田さんに“旅するように、心穏やかに生きるヒント”についてインタビュー。

日本有数のクリエイティブ企業に
勤めるプランナーが旅に出た理由

──はじめに、世界一周の旅に出たきっかけを教えてください。

 

会社に勤めていたときから、ずっと長旅への憧れはあったんです。

でも、日本だと、仕事を辞めて長旅なんかしちゃったら再就職しにくいじゃないですか。なので、仕事で結果を出して「これならいつでも仕事に戻れるな」って立場とか状況になったら旅に出ようと思っていて。

私の本業は広告の制作なんですが、結果を出すために頑張っていたら働きすぎてしまって、心も身体も病んでしまい、ある日、トイレで吐いたら便器が真っ赤になっちゃって......。

「お~、これは吐血だ~」なんて思いつつも、そろそろ一回休んだほうがいいなって真剣に思って、旅立ちを決意しました。

そのあとに彼氏もできたんですが「世界一周旅行にいくよ」って話したら「それはいいね!」って。

 

──吐血をきっかけに仕事を辞めて、旅に出る決心をした、と……。

 

うん。まずは私が先に日本を出発して、彼氏……フォトグラファーだったんですけど、あとから私を追っかけてきて、南米で合流する予定で。

「もうこれ婚前旅行じゃん! めちゃくちゃ素敵な旅になるじゃん!」って舞い上がっていたら、出発する直前に彼氏が浮気してることが発覚して、結局ひとりで世界一周することになった(笑)

 

──出だしからつまずきましたね。

 

ジンギスカン屋で別れ話をしたんですが、お通夜みたいな雰囲気でしたね。

じつは、もともと私が身体を壊すほど仕事を頑張っていたのも、歴代の彼氏全員が甲斐性のないタイプだったからなんです。

飲みにいくと支払いのときに「見て、俺、電車賃もない」って財布を開いて見せてくる“仕上がってる”レベルの人ばかりだったから(笑)、「私が頑張って稼がないと!」って思ってたんですよ。

 

──ちなみに、別れ話をしたときのジンギスカン屋の支払いは?

 

なぜか割り勘でした(笑) 今気づいたけど……どういうことだよ!(笑)

© 2014 Migi Sakata
© 2014 Migi Sakata
© 2013 Migi Sakata

──旅に出たことで、仕事へのストレスや失恋の痛みは忘れられましたか?

 

まわりはカップルや友だち同士で旅してて、私だけがひとりぼっちっていうタイミングが結構あって、最初はめっちゃ悲しかったですね。どうせリゾート地は新婚旅行のカップルばっかりだろうし、意識的に観光地は避けてルートを決めました。

半月ぐらいモンゴルで遊牧民と一緒に旅をしていたら、「世界にはまだ“美しさ”が残ってるんだな」って思えるようになってきて……。

旅の最終目的地はロサンゼルス。1年くらいかけて、中国からモンゴル、ロシア、フィンランド、ギリシャ、インド、ネパール、ベルギーときて、アフリカ大陸とアメリカ大陸を旅しました。

冬服を持ち運ぶのは大変だし、夏を追いかけるようにスケジュールを組んだんです。

ちなみに、ギリシャにみんながビーチで全裸で暮らしているガヴドス島っていう場所があるんですけど、そのあたりで失恋の傷もだいぶ癒えてきたように思います。

©2019 TABI LABO

─印象的だった国や街は?

 

ケニアのキベラスラムですね。キベラはアフリカで2番目に大きなスラム街なんですが、アーティスト集団のアジトみたいなところに入りびたって、みんなで一緒に密造酒を飲んだりしてました。

みんなよく笑うし、楽しそうに暮らしていて、それがかなり衝撃でしたね。

 

──この本の初版印税もキベラスラムに全額寄付するそうですね。

 

「かわいそうだから何かしたい」って意味じゃなくて、むしろ逆にすごくお世話になったから恩返しをしたいなって。

写真家がスラム街を訪れてセンセーショナルな写真を撮影して賞を獲ったりして、写真集出したりして、ビジネスにする人もいますけど、それって結局、スラムの人は1円も儲からないじゃないですか。

そういう搾取っぽいことはしたくないので、還元できるようにしたいなって。

 

──下世話な話になってしまいますが、本が一冊1350円で初版6000部ということは......決して小さくない金額と決断になりますね。

 

あとは「手渡しキャラバン」といって、全国各地をキャンピングカーで回りながらトークイベントをやって手売りをするんですが、クラウドファンディングで資金を集めたら、予想以上にたくさんの人から支援してもらえたんです。

クラウドファンディングで集まった資金の余剰分はすべてキベラスラムの学校給食のために寄付しますし、SNSやAmazonで本のレビューが1件投稿されるたびに20食分の給食を届けるつもりです。

スラムの学校で出される給食は、豆とトウモロコシを煮込んだギゼリという料理なんですが、とても質素なものです。

それでも、給食をわざと残して、家にいる弟や妹のために持って帰る子もいます。

「自分だってお腹空いてるはずなのに......」って、ものすごく衝撃を受けました。

 

──日本ではなかなか想像できない環境ですね。あと、もし旅の思い出の品があれば見せてもらいたいんですが……。

 

これは、アシフっていうキベラスラムのアーティストに描いてもらったTシャツです。彼はキベラ育ちのマサイ族で、国外から取材にくるほど有名なアーティストなんですよ。

ちょうど私が遊びにいっていたときも海外メディアからインタビューを受けてて「20年後に何をしたい?」って質問に、彼は「死んでるに決まってるだろ」って答えたんです。

キベラの人はみんな楽しそうに暮らしていますが、強盗や感染症といった劣悪な環境のせいでつねに生命の危機に晒されていて、命の重みとか死への価値観が、私たちと違うんです。

アシフは私と同じぐらいの年齢なんですが、じつはこれをもらった翌年に亡くなってしまいました。

だから、このTシャツは彼の遺作でもあるんです。

©2019 TABI LABO

──旅の思い出と旅先で感じた想いが詰まった著書『旅がなければ死んでいた』をどんな人に、どんなふうに読んでもらいたいですか?

 

30歳ぐらいで仕事もある程度こなせるようになったけど、漠然と人生に行き詰まりを感じていて「このままずっと働き続けていいのかな……」って思っている人たちに手に取ってほしいです。そして、何かを感じて、実際に旅に出てくれたら嬉しい。

この本には、私が旅先で出会った人たちからもらった“生き方のヒント”をたくさん詰め込みました。

私と同世代の人たちが感じている生きづらさが、この本を読むことで少しでも解消されたらいいなと思っています。

モンゴルの遊牧民から学んだ
ノマドな生き方と働き方

仕事と恋愛に疲れ果てて世界一周の旅に出かけ、その旅の出来事やいく先々で感じた想いを綴った書籍『旅がなければ死んでいた』を上梓した坂田ミギーさん。

そんな坂田さんは、今もまだ、旅を続けています。

週の半分は東京で働き、残りはキャンピングカーで全国を回りながら生活するノマドな暮らしを実践しているんです。

© 2019 TABI LABO

──なぜキャンピングカーで暮らすように?

 

世界一周から日本に戻ってきて家を借りたんですけど、そこの環境があまりよくなかったんですよね。

東京に住み続けるのはつらいけど、現実問題として私の仕事は東京じゃないと成立しないことも多い。「じゃあ、いっそのこと自分が移動すればいいや」と思ったのが理由です。

あと、世界を旅すると決めたとき、家を引き払ってバックパックに入る荷物だけを残して、ほとんどの持ち物を処分したんです。帰国して友だちの家に居候していたときも、荷物はバッグひとつだけ。

「これなら家とか借りる必要ないな」って思いました。

 

──なるほど。旅先での経験が影響していたりは?

 

モンゴルで出会った遊牧民の人たちが、それほど荷物をもっていないのに十分に豊かな暮らしを送っている光景を目の当たりにしたのも大きいかもしれません。

モンゴルの遊牧民はトラック1台に家財道具一式を積み込んで移動するんですけど、「こういうふうに身軽に暮らすのもありだな」って思いました。

それから、日本にいると包装紙やらなんやらで毎日たくさんのゴミを出しますが、彼らはタバコの吸い殻以外、ほとんどゴミを出さないんです。

使い捨てではなく、長く使い続けられるものを大切にして生活を送っているから。

そんな消費社会に巻き込まれずに暮らしている人たちと一緒に行動したことで、月並みな表現ではあるけれど「人生ってレールのうえを歩かなくてもいいんだな」って実感できたことは大きかったように思います。

© 2019 TABI LABO

──数年前から日本でも“多拠点生活”や“プチ移住”が注目を集めていますが、文字通りのノマド(遊牧民)スタイルなんですね。

 

そうですね。アドレスホッパーと呼ばれる人たちみたいに、自分のスペースをまったくもたずに暮らすのはさすがに私には無理だから、居心地のいい家ごと移動している感じです。

別に「キャンピングカーで一生暮らす!」って決めたわけじゃなくて、自分にフィットするかどうか試している状態。でも、キャンピングカーって、生活に必要な荷物は全部持ち運べるし、いろいろとシステマチックに作られてるし、本当にラクチンですよ。自分用のトイレもあるし、ドミトリーより全然快適です。

© 2019 TABI LABO
© 2019 TABI LABO

──とはいえ、仕事への影響や生活スタイルの変化を考えると、多くの人にとってはなかなかハードルの高い選択のようにも思いますが……。

 

あくまでも私の場合ですが、意外と仕事の関係者もスケジュールを調整してくれたりしますし、今はネットが日本全国のどこにいてもつながります。これが5年前だったら、まだネットを使った打ち合わせもそこまで普及していかなったので難しかったかもしれませんが、今はSkypeやFaceTimeでのコミュニケーションも一般的になったので、ずっと東京にい続けなくても全然大丈夫です。

生活スタイルが変わることを「怖い」と感じる気持ちもわかります。

でも、私は、同じ場所にい続けて飽きちゃうほうが怖いんです。

私にとって、変化は“恐怖”よりも“期待”のほうが大きいんです。

 

──では最後に「TABI LABO」の読者、そして『旅がなければ死んでいた』の読者にメッセージをお願いします。

 

日本にいると仕事や家をもって暮らすのが当たり前ですし、それ以外の生き方がないと思い込みがち。でも、世界を旅してみると、ほとんど働かないで絵を描いたり音楽を演奏してその日の糧を得たり、一日中お酒を飲んでたり、全裸で暮らしてる人たちと出会います。

世の中にはいろいろな人たちがいて、みんな、なんとかかんとか生きています。

もし、旅に出るまえの私のように「あ~……人生きっついな~」と思っているのであれば、旅に出たり、暮らし方を変えてみることをお勧めします。

自分が想像している以上に世の中に“いろいろな生き方”が存在していることを知れば、今感じている生きづらさが和らぐんじゃないかなって思います。

坂田ミギー/広告クリエイター

1982年、福岡出身。広告制作会社、「博報堂ケトル」を経て独立。デジタル、雑誌、イベントやCMなどの垣根を越えたキャンペーンのプランニングやディレクションを担当。数々の話題の広告を手がけ、フランス、アメリカ、シンガポール、タイなどの由緒ある広告賞を受賞する日本を代表するクリエイターのひとり。

『旅がなければ死んでいた』6月28日発売

アラサー・独身・彼氏なしの三重苦を背負った女が、仕事と恋愛に疲れて家を引き払い住所不定となり、バックパックひとつで世界を旅するノンフィクションストーリー。

著:坂田ミギー 発行:KKベストセラーズ

Top image: © 2019 TABI LABO
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