「そろそろ子どもは?」と聞く人は「そろそろ時代遅れ」/坂田ミギーの水曜連載「ミレニなのでアル」第九回
一週間のなかで、きっといちばん憂鬱な水曜日に読んでほしい、クリエイティブディレクター・坂田ミギーの水曜連載。数々の広告賞を受賞しながら「アラサー・独身・彼氏なし」の身の上に絶望して世界一周の旅に出た彼女が感じた、知った、気づいた、アレやコレ──。
あなたの「人生すごろく」は
どんなルート?
他人が求める「人生すごろく」は、いつもお決まりのルート。
恋人がいないときには「好きな人いないの?」と聞かれ、好きな人がいれば「付き合わないの?」と聞かれ、付き合っている人がいれば「結婚しないの?」と聞かれ、結婚すれば「子どもはいつ?」と聞かれる。
ちなみに子どもが生まれると「二人目は?」と聞かれるらしい。ぴゃー!(白目)
なんの疑問もなく、穢れ(けがれ)を知らない眼(まなこ)で聞いてこないでー!「きょうお天気いいですね」くらいのテンションで聞いてくるのはやめてー!
だって、この類の会話は「恋をするべき」「恋人をつくるべき」「結婚するのは当たり前」「子どもをほしがって当たり前」みたいな価値観からきているじゃないですか。
「愛する人と結婚して子どもを産み育てることが人生のよろこびである」って信じて疑っていないパターンです。
この価値観の通りに生きてきた(生きてこられた)人は多いだろうけど、そうじゃない人もいるよってことも、忘れないほうがよさげでは?
恋愛をしない人もいますし、LGBTQの人もいます。制度としての結婚にこだわらない人もいますし、子をもたないと決めている人も、不妊治療の結果が思わしくない人も、家族計画について伴侶と考えが折り合わない人もいます。
お天気の話題ぐらい気軽な気持ちで聞いたことでも、相手からすればバールのようなもので殴られるほどに瀕死の重傷を負う場合もあります。
うっかり“心の殺人事件”を起こさないためにも、想像力と思いやりをもって会話したいものであります。
悪意があってイジワルで言ってくるなら、まだいいんです。
悪意がないのが、いちばんタチが悪い。なぜなら、そういう人は傷つく人を理解できていないから、よかれと思ってイノセント・スマイルで殴ってきます。セクハラはダメだよと指摘しても「なんでセクハラかわからない。コミュニケーションのつもりなのに」と言う人々と同じなんですよね。
大人の無邪気は、無罪ではない。日々学んでいきましょう(自戒を込めて)。
ちなみに、わたしたち夫婦には子がいません。いまのところ、その予定もありません。「歳も歳だから早く産んだほうがいいよ」とのアドバイス(と書いてクソバイスと読む)をくれる知人もいますが、そんな重要事項は百どころか万も承知。
将来、もし自分たちが子を迎えられそうだと思えば、そのときは里親制度や特別養子縁組制度も検討できたらと思っています。
だったらなんのために結婚したんだと思われるかもしれませんが、わたしたちの場合は子をもうけることが目的ではなく、ただ愛する人と一緒におもしろく暮らしたくて結婚しました。
子がいても幸せでしょうけれど、子がいなくても幸せに暮らしております。
日本の人口はどんどん減っているので、子をもうけないのは無責任だ!自分勝手だ!と言われそうですが、地球規模で見れば人口は増え続けていますし、子をもたない夫婦がいるのもわるいことばかりではないと思います。
ただ、自分たちに子がいない分、まわりの子育てや教育は積極的にサポートすると決めています。最近では貧困児童の進学費用の支援をはじめましたが、これからも次の世代のためになにができるか考えていきたい次第。
結婚してもしなくても、子がいてもいなくても(他人にとやかくいわれず)幸せに生きていける世界になってほしいと心から願っています。
なので、自分の選ばなかった(選べなかった)道を歩いている人に、石を投げたり誹謗中傷をしたりするのはやめましょう。あなたの道が正しい(と思いたい)からといって、ほかの道が正しくないわけではありません。ほかの道もまた、正しい別の道なのですから。
そんなわけで、きょうも自分仕様の「人生すごろく」を飄々と開拓しつづけるのでありました。
1982年、福岡出身。広告制作会社、「博報堂ケトル」を経て独立。デジタル、雑誌、イベントやCMなどの垣根を越えたキャンペーンのプランニングやディレクションを担当。数々の話題の広告を手がけ、フランス、アメリカ、シンガポール、タイなどの由緒ある広告賞を受賞する日本を代表するクリエイターのひとり。
『旅がなければ死んでいた』
アラサー・独身・彼氏なしの三重苦を背負った女が、
仕事と恋愛に疲れて家を引き払い住所不定となり、
バックパックひとつで世界を旅するノンフィクションストーリー。
著:坂田ミギー 発行:KKベストセラーズ