友だちは100人もいらない/坂田ミギーの水曜連載「ミレニなのでアル」第七回

一週間のなかで、きっといちばん憂鬱な水曜日に読んでほしい、クリエイティブディレクター・坂田ミギーの水曜連載。数々の広告賞を受賞しながら「アラサー・独身・彼氏なし」の身の上に絶望して世界一周の旅に出た彼女が感じた、知った、気づいた、アレやコレ──。

「圏外」に飛び出して
もっと「ひとり」を楽しもう

「友だち100人できるかな」の歌、知ってます?

「1年生になったら友だち100人つくって、みんなで富士山のてっぺんでおにぎりを食べたい」って歌です。これを幼稚園児に歌わせる残酷さを、つくづく感じている今日このごろです。

この歌を素直に熱唱していた当時のわたしは「小学1年生になったら、友だちいっぱいつくらなきゃ!」と思っていました。しかし、幼少のころから人見知りで、人付き合いが苦手だったわたしに、たくさんの友だちができるわけがありません。

この歌のように、世間では「友だちは多くいるほうがよい」とされていたので、なんだか自分が劣った存在に感じていました。

いまでも、友だちは少ないです。現在の夫と同居するまでは、誰とも会話しないで終わる日がたくさんありました。コンビニで「袋はなくていいです」しか発声する機会がないこともザラ。このまま数日喋らなかったら声どうなっちゃうんだろう?と実験したこともありましたわ(ガサガサ小声になっただけだった)。

しかし、いまでは「友だちが少ないこと」や「ひとりでいること」をわるくは思いません。数少ない友人はみんな最高だし、自分は「ひとりでも大丈夫」だとわかっているからです。

「ひとりでも大丈夫」と思えたきっかけは、やっぱり旅だったと思うのです。「ひとり旅ってさみしくない?」とか「誰かと感動を共有できたほうがよくない?」とかとか言われますが、そんなことお構いなしに、わたしはひとり旅を愛しています。

興味がある人には、本当おすすめ。

ひとり旅でなにをしてるのかって? 「自分」対「世界」で、対話してるんですよ。

たとえば、子どもが物乞いをしてきたとき、自分はどう考えるのか、どんな行動をするのか。壮大な景色に出会ったとき、いかなる感覚になるのか。名前のない気持ちをじっくり味わって、自分を耕したり、世界を発見できたりして、ひとり旅は最高なんですよ! それに旅の計画から実行、感動の場面からトラブル処理まで、全部自分ひとりで背負えるので「ひとりでも大丈夫」な経験値がめっちゃ貯まります。

ちなみに、誰かと一緒に旅をしていると、その「相手との関係を維持すること」に、少なからず意識が向くんですよね。相手の調子を気にしたり、気持ちに“名前”をつけて会話をしたり。「自分と相手」対「世界」になるので、感覚はまったくちがいます。それはそれで、いいこともあるんですけど。

ではなぜ、いまひとり旅をおすすめするのか。

それはわたしたちが四六時中スマホと一緒にいるからです。

外の世界からひたすら流れてくる情報を処理することばかりに意識が向いていて、自分と話す機会・時間がものすごい勢いで減っています。「自分探しの旅」なんて痒いこと言うつもりはないけれど、外を気にせず、内を意識できる時間を意図的につくったほうがいいんじゃないかなーと思うのです。

わたしは毎年夏休みをアジアのマイナーな島ですごしていますが、それはほとんどのエリアが圏外だからです。SNSの通知も、ニュースもメールも届かないので、ゆっくり太陽のあたたかさを感じたり、海に浮いたり、脳内に溜まっていた思考の棚卸しをできたりもします。

自分のためだけに時間と思考を使うことができる、ぜいたくな時間。

われわれミレニアル世代は、「圏外の生活を失った最初の世代」でもありますから、改めて圏外を求めるのはいい経験になるはずです。

当たり前を手放してみると、わかることも多いのだ。

いまの環境や持ち物から、一度、徹底的に引き算をしてみる。そして、そのあとに必要だと思えるものだけを足していく。そうすれば、自分に心地よい暮らしを再構築できるんじゃないでしょうか。その引き算の手始めに、圏外へのひとり旅をおすすめする次第。

少なくとも、わたしには「友だち100人」は不要みたいです。富士山のてっぺんでおにぎりを食べる相手は、数少ない友人か家族か、または自分ひとりだけで、もう充分です。

坂田ミギー/クリエイティブディレクター

1982年、福岡出身。広告制作会社、「博報堂ケトル」を経て独立。デジタル、雑誌、イベントやCMなどの垣根を越えたキャンペーンのプランニングやディレクションを担当。数々の話題の広告を手がけ、フランス、アメリカ、シンガポール、タイなどの由緒ある広告賞を受賞する日本を代表するクリエイターのひとり。

©2019 NEW STANDARD

『旅がなければ死んでいた』
アラサー・独身・彼氏なしの三重苦を背負った女が、
仕事と恋愛に疲れて家を引き払い住所不定となり、
バックパックひとつで世界を旅するノンフィクションストーリー。
著:坂田ミギー 発行:KKベストセラーズ

Top image: © 2019 NEW STANDARD
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。