「さよなら」を言わない人生でありたい/坂田ミギーの水曜連載「ミレニなのでアル」第十五回

一週間のなかで、きっといちばん憂鬱な水曜日に読んでほしい、クリエイティブディレクター・坂田ミギーの水曜連載。数々の広告賞を受賞しながら「アラサー・独身・彼氏なし」の身の上に絶望して世界一周の旅に出た彼女が感じた、知った、気づいた、アレやコレ──。

お別れの原因は
たいてい「最初の違和感」

「さよならだけが人生だ」(井伏鱒二・訳)は名言だと思いますが、わたしは「さよなら」をできるだけ言わずに生きてこようとしてきました。

職場を離れるとき。旅先で出会った人と別れるとき。いつも「またね」と言ってきました。

「さよなら」と言ってしまえば、それが本当のお別れになってしまう。もう二度と会えないことを認めてしまう。

だから「またね」と言っておけば、きっとまた地球のどこかで会えるよね。そんな願いを込めて「またね」で、いったんお別れすることにしています。このお別れは、未来永劫じゃないからね!と。

春は、出会いと別れの季節。これを読んでくださっている方のなかにも、この春から新生活をはじめる人がいるかもしれません。

こういうタイミングで、いらんアドバイス(つまりはクソバイス)をする年長者にはなってはいけないと思うのだけれど、新しい環境へ隕石のように大気圏突入していくあなたに、忘れてほしくないことをひとつだけお伝えさせてください(結局言うのかよ)

入学や就職、はたまた転職、恋愛、結婚したりして、新しい人間関係に飛び込んでいくとき。あなたが最初に持った「違和感」を大切にしてほしいのです。

その違和感は、いつまでもずっと心の川底に、漬物石のように残ります。早めになくせるなら、なくしたほうがいい。ということが、わたくしの人生の教訓でございます。

たとえば、会社に入れば、その会社独自の文化に気づくはずです。軍隊のような朝礼がおこなわれていたり、上司のパワハラが常習だったり、男性が女性にお酌させていたりすることもあります。

たとえば、新しい恋人とのお付き合いでも。投げかけられる言葉の端々に、ネガティブな要素がある。お金を使う方向性があわない。小さな嘘をつく。

たったひとつの、ほんのちょっとの違和感かもしれません。でも、それを見ないふりしていると、必ずなにかが起こります。たいていはこの2種類の結果になるはずです。

ひとつ目は、自分がその違和感に慣れてしまうこと。

変だな。おかしいな。と思っていたはずなのに、いつのまにか慣れ、「そういうもの」として自分のなかで処理されていきます。そして、自分も同じことをするのに抵抗がなくなってしまう。

たとえば、恋人があおり運転をしていて、最初は「危ない」と思っていたはずなのに、そのうち自分もあおり運転を許容するようになっていく。

ふたつ目は、結局その違和感が原因で、終わりになること。

違和感を持ち続けるのはストレスになります。いくらそれが小さくても、心の引っかかりを重ねるのはしんどいです。慣れてしまえば楽でしょうけれど、それができない場合は小さな引っかき傷が無数にできることになり、いつのまにか小さかったはずの違和感が、致命傷になってしまうのです。

過去にそんな経験はないですか? 過去の恋人と別れた主な原因は、じつはお付き合いの序盤から気づいていませんでしたか?

好きな相手だから、好きな仕事だからなんとかなる。我慢できる。そう思っていたけれど、やっぱり無理で終わりを選ぶ。まわりの話を聞いていても、このパターンが多いのではないかと思っています。

なので、新しい人間関係やコミュニティに飛び込んでいくとき、最初に持った「違和感」は、たとえ小さくても忘れないでいてください。そして、できることなら、その引っかかりを早めになくしてほしいのです。

そうすれば「こんなはずじゃなかった」というお別れが、悲しい「さよなら」が、少しは減らせると思うので。

そして突然のお知らせですみませんが、この水曜連載「ミレニなのでアル」は、今回でいったん一休みとさせていただきます。

またすぐここで会えるかもしれないし、ちがう場所で再会できるかもしれないし、とにかくまた地球のどっかで会いましょう。

ラストに、井伏鱒二の「さよならだけが人生だ」に対して、寺山修司が綴った詩『幸福が遠すぎたら』から最初の一文をご紹介して、しばしのおやすみとさせていただきます。

さよならだけが 人生ならば

また来る春は 何だろう

出典:『寺山修司詩集』(ハルキ文庫/角川春樹事務所)

ではまたお会いするときまで、おたがいよき人生の旅路を。

読んでくれてありがとう、またね!

坂田ミギー/クリエイティブディレクター

1982年、福岡出身。広告制作会社、「博報堂ケトル」を経て独立。デジタル、雑誌、イベントやCMなどの垣根を越えたキャンペーンのプランニングやディレクションを担当。数々の話題の広告を手がけ、フランス、アメリカ、シンガポール、タイなどの由緒ある広告賞を受賞する日本を代表するクリエイターのひとり。

©2019 NEW STANDARD

『旅がなければ死んでいた』
アラサー・独身・彼氏なしの三重苦を背負った女が、
仕事と恋愛に疲れて家を引き払い住所不定となり、
バックパックひとつで世界を旅するノンフィクションストーリー。
著:坂田ミギー 発行:KKベストセラーズ

Top image: © 2019 NEW STANDARD
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