坂田ミギーの水曜連載「ミレニなのでアル」第四回【お金編】
一週間のなかで、きっといちばん憂鬱な水曜日に読んでほしい、クリエイティブディレクター・坂田ミギーの水曜連載。数々の広告賞を受賞しながら「アラサー・独身・彼氏なし」の身の上に絶望して世界一周の旅に出た彼女が感じた、知った、気づいた、アレやコレ──。
プライベートジェットより
揚げたて熱々のメンチカツ
お金とは? お金とはなんだろう。
お金があれば必ず幸せになれるわけではないけれど、少なくともお金があれば不幸を避けられる可能性は高い。だからといって、お金=不幸の防波堤というわけでもない。
わたしは資産家でも富豪でもない一般庶民ですので、あくまで想像ですけど、たとえどれだけお金があったとしても、不安になったり、不満になったり、不幸になったりすることはあると思うんですよね。
たとえば、年収。稼いできたお金=その人の価値として見る人もいますが、年収なんてその人の能力だけで決まることは滅多になく、所属する業界や業種によって大きな開きがあるものです。
わたしが関わっている広告業界は平均年収がやや高めらしいのですが、それは各人の能力が高いからではなく、お金が流れてきやすい構造にある業界だからです。
すばらしい技術をもつ働き者の介護福祉士と、息吸って吐いているだけで何もしない広告営業マンを比べると、後者のほうが高収入の場合も起こりうるわけですから、お金=その人の価値と判断するのもちがうと思います。
考えれば考えるほど、お金=存在価値?信用?それとも幸福度?と、沼にハマっていくわけですが、こうやってお金をなにかに例えようとすること自体が、そもそも適切じゃないんですよね。
「お金はあくまでお金でしかない」というのが、最近の自分の考えです。お金=お金。それ以上でも、それ以下でもない。という前提で、今回のお話です。
お金がほしい!って方は、どのくらいいるでしょうか。きっと読者さんの多くは「YES!お金ほしいぜ!」ですよね。では、どれほどの金額があれば、あなたのほしい気持ちは満足するでしょうか。
100万円? 1億? 無限?
ちなみに、わたしはいま持っているお金と、これから稼いでいけるであろうお金があれば、宝くじで1億円当たらなくてもいいし、徳川埋蔵金を掘り当てなくてもいいなーと思っています。
なんでこんな考えに至ったのか。それは旅で出会った、ムスタン王国の僧侶に「欲はどこまでいっても尽きることがない。お金をほしい人は、どれだけあってもほしいと思い続けるだけだ」と教えてもらったことがきっかけです。
確かに、お金って無限に使えちゃいますもんね。豪邸に住んだり、会員制のレストランに通ったり、高級車を何台も買ったり、プライベートジェットを所有したり。
欲望の螺旋階段には、終わりがないんですよ。
「生きていくのに必要な分があればいい」と思っていれば、余計に欲張らずにすむし、お金を持っている人を羨む気持ちもなくなるしで、いまのところいいことづくしです。
家族が暮らしていくのに必要なお金と、少しの余裕があれば、それが自分にとって身の丈にあったお金の量だなと思っています。
少しの余裕というのは「揚げたてのメンチカツを見かけたら躊躇なく買える」とか、「お気に入りの紅茶をストックしておける」とか、そのくらいのことです。
なので、いまのところ余剰のお金は、貧困児童のための教育機関・基金にお渡しするようにしています。困っている人を助けていれば、いつか自分が困ったときにも(別の誰かから)助けてもらえるような気がする、というのもあるんですが……お金に限らず、できる範囲で「持っている人」が「持っていない人」に分けるというのを実験的にやってみたいなと思ってまして。
あまり多くを持ちすぎない。自分にちょうどいい程度のお金を持って、心地よい使い道を選べたらいいなと思っている今日このごろなのでした。
最後に漫画『美味しんぼ』の「トンカツ慕情」というエピソードから、お気に入りの名言をご紹介して、いったんお別れです。
「いいかい 学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。それが、人間えら過ぎもしない貧乏過ぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだ。」
出典:『美味しんぼ』(雁屋哲 作、花咲アキラ 画、株式会社小学館)
1982年、福岡出身。広告制作会社、「博報堂ケトル」を経て独立。デジタル、雑誌、イベントやCMなどの垣根を越えたキャンペーンのプランニングやディレクションを担当。数々の話題の広告を手がけ、フランス、アメリカ、シンガポール、タイなどの由緒ある広告賞を受賞する日本を代表するクリエイターのひとり。
『旅がなければ死んでいた』
アラサー・独身・彼氏なしの三重苦を背負った女が、
仕事と恋愛に疲れて家を引き払い住所不定となり、
バックパックひとつで世界を旅するノンフィクションストーリー。
著:坂田ミギー 発行:KKベストセラーズ